第八話 追憶2―安寧
一週間。これは私の傷が完治するまでに掛かるであろう時間だ。
二週間。これは私がこのまま血を摂らずにいた場合、理性をなくし人を襲うようになるまでの時間だ。
贔屓目でも何でもなく少なくとも一週間は離れている。私が理性をなくし、代わりに出てきた本能が出てきてこの家族を襲うことはないだろう。そう判断したからこそ私は少しの間居候させてもらうことにしたのだ。
傷が完治するまで一週間と言ったもののその間ずっと寝たきりでいなければいけないわけではない。なので家の手伝いを色々とした。そして同時に多くのことを教えてもらいもした。
ご主人――ダイスには夜行性の鳥や獣を捕る罠を。夫人――エルシャには手軽に出来て美味しいシチューを。リーネにはおままごとを。どれも今まで私が経験もしたことがなかったことだ。だからというわけではないが居候している間は非常に楽しかった。自惚れかもしないが家族とはこういったものかもしれないと思った。
私が居候を始めてから六日目。私はリーネに連れられて森を歩いていた。彼女に目的地を聞いても教えてくれない。なにやら笑顔で、
「きっと驚くよ! だから着くまでは内緒」
と言われてしまいそれ以降は聞いても答えてくれない。ただ見当もつかないわけではない。私に内緒だと言ったときの彼女の顔が自慢気だったので秘密基地等を見せてくれるのかもしれない。とにかく今無理矢理聞き出すのは無粋というものだろう。
家を出てから数十分どうやら目的地についたようだと私は判断した。どうやら、というのはリーネが立ち止まり私の方を例の自慢気な顔で見てきたからだ。
振り向いた彼女の背中には、自然が豊富なこの森でもそうそう見ない大きさの木がある。その木と地面の部分はポッカリ空間が空いておりそこにリーネが自慢気な顔をする何かがあるのは明白だ。
「ふっふー。オジサンどこにあると思う?」
「どこにあるも何も、何があるかも教えてもらってないんだが」
私の返事にリーネはあれ、そうだっけ?、といった具合に首を傾げた。
「あのねここにはねシチューの隠し味にする薬草があるの!」
「ほう。そんなものが」
私が驚いたのは薬草がここに生えていることにではなく、薬草がシチューの隠し味になることについてだ。だいぶ長く生きたがそんなシチューは初めて聞いた。
「あのね、私がね見つけたの!」
「リーネが、か。それは凄いな」
私が誉めるとリーネは満面の笑みを浮かべた。彼女ほど気持ちが表情に出る人も中々いない、私はそう思った。
「それでどこに薬草があるのかだったな」
「うん!当ててみて!!」
リーネがどうだ分からないだろうという表情をしている。残念ながら木と地面の隙間にその薬草があるであろうことはもう推測ずみだ。そしておそらくそれが正解だ。私は満を持して口を開いた。
「わからないな。一体どこにあるんだ?」
「分からないの?どうしようかなー」
、がしかしそれは簡単には言ってはいけない。ここはわからないふりをせねばならない。これもリーネが私に教えてくれたことだ。いや、私がリーネから学んだと言うべきか。
私たちがそんな風にじゃれあっているとそこに何かが向かって来ていることを、私は人間より遥かに鋭い五感で捉えた。
「リーネそこの木と地面の隙間に隠れなさい」
「えー、なんで!?」
リーネは私の指示に不思議六割不満四割の表情をした。不満四割は薬草の場所が私にバレたと思い悔しがっているのだろう。普段なら微笑ましいことだが今は和んでいる場合ではない。
「早くしなさい。家に帰ったら高い高いやお馬さんをやってあげるから」
「ホント!?なら隠れてる!」
リーネは私の吸血鬼王の身体能力を使ってやる高い高いなどを非常に気に入っている。なのでそれを餌にしたらあっさりと言うことを聞いた。
「知ってるか?耳を両手でしっかり塞いで歌の練習をすると自分の声がよく聞こえて上達するらしいぞ」
「ホントに?」
リーネは穴に入ると早速耳を塞いで歌い始めた。そしてリーネが歌い出すとほぼ同時にその闖入者は私の前に姿を現した。
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