第七話 追憶1―居候
吸血鬼とは定期的に人の血を吸わなければ生きていけない種族だ。それは吸血鬼王だとしても例外ではない。だから吸血鬼からしたら人間は生きるのに必要な栄養を与えてくれる存在だ。感謝こそすれ人間を憎む吸血鬼というのは滅多にいない。人間は牛を憎むか?憎まないだろう。そのようなものだ。
しかし残念ながら人間たちからしたら私たちは憎むべき対象だ。血を全て吸われるやら血を吸われると吸血鬼にされるだとか根も葉もない噂を多くの人間が信じてる。
そのせいで人間に敵意を持つ吸血鬼が現れ、その吸血鬼の行動を見た人間はさらに吸血鬼を敵視するという悪循環に陥っている。幸い吸血鬼は見た目は人間とそう変わらないのでへまをしなければ人間の街で暮らすことも出来る。そうへまをしなければ、だ。
あの日私は自分が吸血鬼王だとバレてしまい人間に追われていた。あの時私を追っていた人間たちはウェルプスなど問題にならないくらいの強さだった。そのせいで私はかなりの重傷を負ってしまった。なんとか人間たちをまいた私だったが途中で力尽きて、逃げ込んだ森の中で意識を失ってしまう。
誰かの視線を感じ目を覚ます。森の中で気を失ったはずの私は何故かベットに寝かされていた。部屋の出入り口はドアが一つ。そしてそのドアの陰に視線の主はいた。
美しい金色の髪の毛にそれと同じ色の瞳。金色の瞳は好奇心に輝いていた。私を見ていることが気付かれたと悟った彼女は一度ドアの裏に顔を引っ込める。その後ゆっくり顔を出すと首を傾げて聞いてきた。
「おじさんはなんで森の中で倒れてたの?」
それが私と彼女――リーネの初めての出会いだ。
◇◇◇
その家は私が逃げ込んだ森の中にあった。私を見付けてくれたのはリーネだそうだ。森の中を探検してたら血塗れで倒れている私を発見、急いで両親に報告したらしい。つまり彼女は私の命の恩人だ。
意識を取り戻した私は早々に出ていこうと思った。この親切な家族も私が吸血鬼王だとわかれば態度を翻すだろう。そんなことになったら私は勿論この家族にも良いことなど一つもないだろう。
そう思い礼を言い出ていこうとした私を夫婦は押し留めた。まだ傷が完治していないからせめてそれまではこの家にいろと言ってくれた。夫婦が言うとおり私の傷はまだ癒えていない。いくら吸血鬼王だからと言ってそこまでべらぼうな回復力を持つわけではないのだ。
数回の押し問答の末に私が傷が治るまでこの家に居候をさせてもらうことが決まった。おそらく私は吸血鬼王だとばれて敵意を持たれることを恐れるより、人間の優しさに触れたかったのだろう。ついさっき人間に襲われたことがその気持ちに拍車をかけたのだと思う。しかしその気持ちがあの悲劇を引き起こすこととなった。
ついに二人の関係が明らかに。
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