第五話 襲撃
彼女にバレたかもしれない。そう思った私は宿には戻らずこのまま街を出ることにした。必要な物は持ち歩いているので今すぐにでも旅を再開することができる。宿の鍵はそこら辺の衛兵にでも頼めばいいだろう。
途中で見つけた衛兵に急ぎの用事が出来たので鍵を返せない旨を伝え代わりに返してくれと頼む。もちろん嘘だ。最初は面倒臭がってた衛兵だが私が礼として金を渡すと了承した。現金なことだ。
衛兵と話していたせいで街を出るのに二十分程掛かった。外はもう薄暗くなっているが仕方がない今夜は野宿だ。
街を出て1時間程で森にはいる。来るときに通った森から続いているので植生が似ている。そのため野営地も見つけやすいだろう。そう思っていたのだが......
「待ってたぜ」
酷く既視感を覚える状況だ。違うのは野営を終えたところではなく野営を始めようとしているところという点と朝ではなく夜ということ、そして最後に人数の違いだ。こないだは10人前後だったが今回はその三倍30人近くいる。
「待っていた、といのは?」
「数日前の礼をしたくてな」
なるほど。察するに今私を取り囲んでいるのはウェルプスの本隊のようなものなのだろう。だがどうやってこの時間に私たちがここに来ると調べたんだ?まさか今までここで待ち伏せてたわけでもあるまい。
「不思議そうな顔してるな。そんなお前に大ヒントだ。こいつらに見覚えは?」
ボスが数人の男を指差して言った。見覚え?山賊などに知り合いなどいないはずだが。
そう思いボス男が示した男たちを見て納得をする。
「なるほど。客の中に仲間を紛らせてたのか」
その男たちは私が宿を取った翌日からあそこの料理屋に毎日いた奴らだ。そこは盲点だった。
「ご名答。さてクイズに正解したなら賞品をやらなきゃな」
ボスがそう言い顎をしゃくると山賊たちが包囲を狭め始める。三十対ニ、人数差は圧倒的だ。この前のように簡単にはいかないだろう。
「悪いがこの状況で手加減出来るかわからん。手足の二三本は覚悟しておけ」
私の発言にボスと取り巻きたちが何かを言おうとする。大方立場が分かってない大馬鹿とでも言うつもりなのだろう。
私は山賊たちが喋り出す前に戦闘準備に移る。準備と言ってもやることは至極簡単、懐からナイフを出しそれで自身の両手首を切るだけだ。当然手首からは血が勢いよく出る。出て当然だ。むしろ出てもらわないと困る。
突如自ら手首を切り出した私を見て山賊たちが驚く。しかし直ぐに納得したような雰囲気を出した。その変化の理由はボスから語られた。
「おいおい。いくらこの人数で囲まれてるからってそう簡単に諦めるなよ」
逃げられないと思い自害。山賊たちは私の行動をそう解釈したらしい。無論そんなわけはない。
「私は自殺する気などさらさらない。そして勿論お前らに殺されてやるつもりもない」
そして両手を前にだし小さく呟く。
「形成しろ《血剣》」
すると今まで私の手首から流れていた血が形を持ち、手に集まってくる。そして出来上がったのは血のような、否、血そのもので出来ている剣。それが左右に一本ずつ、合わせて二振り。
「なに!?」
予想外の事態にボスが叫ぶ。しかしそこは流石にこの人数を束ねているだけあるのか即座にショックから回復して指示を出す。
「《操血》? お前らこいつは吸血鬼だ! 舐めてかかるな!!」
《操血》は吸血鬼固有のスキルだ。山賊たちは私が吸血鬼だと言われて一瞬怯んだ様子を見せたが人数差を思い出したのかすぐに落ち着きを取り戻す。
仕方がない。吸血鬼だとわかれば怯えて逃げ出すやつもいるかと思ったが。世の中うまくいかないものだ。二振りの《血剣》を構えた私は一歩前に出る。リーネも両手にいつものナイフを持ち構えた。
「では行くぞ」
そして戦闘が始まった
評価と感想待ってます。