第四話 失敗
クロノから目的の物を貰って数日後、私たちは未だにこの街に留まっていた。別にやることがあったわけではない。むしろその逆で特に次の目的地がなかったからまだこの街を発っていないのだ。
「いらっしゃいませ!!」
夕食を食べに宿に帰ってきた私とリーネを聞き慣れない声が迎えた。普段客を出迎えている店員とは別の初めて聞く声だ。
「君は?」
声の主は十四、五歳の少女だった。特に不細工でも可愛くもない所謂普通の町娘と言ったところだ。
「はい! 私たまにこの宿でウエイトレスをやらせていただいていますリリルカと申します! よろしくお願いします!!」
そう言って彼女――リリルカは勢いよく頭を下げた。なるほどたまになら今まで会わなかったのも納得出来る。
「ではリリルカ、二席開いてるかね?」
「はい! 席にご案内します!!」
店内は狭いので案内もなにもいらないのだが周りの反応を見るといつものことのようなので好きにやらせておく。
案内された席に座るとリリルカはすぐに注文を聞いてきた。
「ご注文はお決まりですか?」
どうやら彼女はせっかちな性格のようだ。あるいはおっちょこちょいか。決まったも何も今来て座ったばかりだ。もしこれが初めてくる客だったら面食らっていただろう。もっとも私たちは初めて来る客ではないし頼むメニューは決まっている。
「私にはこのレルクスの蒸し焼きを、彼女には何か栄養が高いものを」
「わかりました! ちょうちょ!!」
急にチョウチョが現れてそれに彼女が反応した......わけではない。少々を噛んだのだろう。見る間にリリルカの顔が羞恥で赤くなっていく。しかしここにいるのは何事にも動じないリーネにこういった時どの様なフォローを入れればいいのか皆目見当がつかぬ私だ。結果このテーブルに沈黙のベールが降りた。赤面してから数秒後。なんの反応も示さない私とリーネを見て今のことをなかったことにすることにしたのか、リリルカはもう一度始めから言い直した。
「わかります!!」
なんだ一体私は何に共感されたのだ? 二度も噛んだ店員になんて言えばいいのか分からない、という考えに共感されたのか? だとしたら何故私の考えがわかる。彼女は心を読む魔法が使える魔法少女か何かか?
「あんたはもういいから早く厨房に注文を伝えてきな!!」
「はいっ!!」
私があまりに想定外な事態に現実逃避をしているとこの店の女将がやってきてリリルカを一喝した。慌てて厨房に向かうリリルカ。
「すいませんねお客さん。あの子真面目でいい子なんだけどせっかちでおっちょこちょいなの」
両方ともだったのか。
「いや別に構わない。実害は特になかったからな」
「そうですか。ありがとうございます」
そう言うと女将は足早に立ち去った。結構繁盛している店だから忙しいのだろう。店内を見回すと私が泊まった翌日も料理を食べていた男が数人いる。それだけ美味いということだろう。
「お水をお持ちしました!!」
そう言ってガラスのコップに水を入れて持ってきたのは先程と同じくリリルカだ。ガラスとリリルカという組み合わせに非常に嫌な予感がする。
「失礼しまっキャア!!」
嫌な予感ほど当たるものでリリルカは床の出っ張りに足を引っかけてコップを床に落として割ってしまった。
ガシャン!! と小さいがよく響く音がして店中の視線が私の元に集まる。
「す、すいません! すぐに拾いますね!!」
彼女はそう言うと素手で割れたコップを拾い集め始めた。それをこのまま見ているのもなんなのでしゃがんで拾うのを手伝う。するとリリルカが大声をあげた。
「いけませんお客様!!」
ますます集まる視線。しかしそんなこと気にすることなくリリルカは私がコップを集めるのをやめさせようと手を掴んできた。その瞬間またしてもリリルカの悲鳴が響いた。
「キャッ!」
慌てて私の手から手を離したリリルカは驚きで尻餅をついた。そして先程私の手を握った自らの手をマジマジと見ている。
「え? 冷たい? なんで? え?」
やってしまった。思わず舌打ちをした私は勘定をテーブルに置くとリーネを連れて慌てて外に出た。
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