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第十一話 追憶5―本能

 私の目の前に傷薬を棚から取ろうとしたエルシャの手が現れる。切り傷は私が想像した以上に深かったのかエルシャの手は血で真っ赤だ。これだけ出血していたらさぞかし痛いだろう。


 私はその真っ赤な血で覆われた腕を掴む。ああ、なんて、なんて......美味そうなんだ。この匂いこの色全てが私の食欲をそそる。



「あのどうしたんですか?」



 私が血に魅せられていると腕の持ち主が不思議そうな声を出した。その声を聞いた私は苛立たし気に舌打ちをした。まったく折角私が血の素晴らしさを再認識している途中だと言うのに。餌は餌らしく黙っていればいいのだ。


 いや私が無理矢理黙らせよう。その後ゆっくりと血を堪能すればよい。



「傷薬.....」

「黙れよ」



 なおも私を不快な気分にしようとする餌の喉を握り潰す。血を無駄に流すことは私の美学に反するので出血しないように慎重に首を折る。餌が黙る。悲鳴も上げられないように一瞬で殺した。


 さて落ち着いて血を堪能するかな......と思ったのだがもう我慢できない。これ以上血を吸うのを我慢したら発狂する。私は欲望に赴くまま餌の血を啜った。指の怪我だけでは足りないので首の頸動脈を切りそこに口をつけ吸う。


 ジュルジュルと私が血を吸う音が響く。いやそれだけではない。誰かがこの部屋に向かっている。私の崇高なる食事を邪魔するとは万死に値する。喉を潰した後に生きたまま血を吸ってやろう。この餌の時は久しぶりの血に興奮して出来なかったが、餌が生きたままのほうが血は美味い。そして血は美味いに限る。



「おいここの飾りはこれで......!?」



 新たな餌が、私が血を吸っている、首があらぬ方向を向いている餌を見て息を飲む。その隙に最初の餌にしたとの同じように喉を潰して声が出ないようにする。そして首の頸動脈を切りそこに口をつけ思いっきり血を吸う。


 餌が必死で逃げようと暴れるが無理矢理押さえ付ける。そのせいで餌の骨が数本折れる音がするが知ったことではない。餌はあまりの痛みに悲鳴をあげようとするが喉が潰れていてそれも出来ない。





 嗚呼、嗚呼やっぱり......血は美味い。




◇◇◇


 くすりを取りにかえったオジサンがまだ帰ってこない。はやくおうまさんの続きをしたいのに。私はオジサンのようすを見に家に帰った。



「うんしょ」



 家のドアのノブは背伸びをしないととどかない。むう、はやく大きくなりたい。そうすればオジサンだって......



「ただいまー」



 あれ?いつもならママかパパがおかえりって言ってくれるのに今日は誰も言ってくれない。寝てるのかな?


 たしかくすりは台所においてあったよね。もしかしてみんな怪我しちゃって台所にいるのかも。オジサンもママとパパの怪我を先に治さないとっておもったのかな?もしそうなら遅くなったことはたかいたかい五回でゆるしてあげる。



「ママーパパー、いる......!?」



 台所は真っ赤だった。誰かが赤いペンキをこぼしたみたいに真っ赤。だけど私のキライなこの臭い。そして真っ赤なペンキの真ん中で倒れてうごかないママとパパ。



「な.....に......」



 なんでママとパパが倒れてるの?ねてるの?ダメだよこんな場所で寝たら。カゼひいちゃうよ。お布団かけてあげなきゃ。ううん、おこしてあげよう。それでいうんだいつも私がいわれてるみたいに「こんなところで寝ちゃいけません」って。


 ママを起こそうと台所に入ったらそれに気づいた。それはパパの上にのし掛かってた。ジュルジュルという音が聞こえた。コワイ誰か助けて。ママ、パパ.....


 私が台所に入ったのに気づいたのかそれは顔をあげて私をみた。コワイコワイコワイ!助けてよオジサ.....


ついにそれと私の目があった。



「え?そんな.....なんで......」



 それは顔が真っ赤なペンキまみれだけど分かった。それは........オジサンだ。



「なんでどうしてオジサンが。なんでなんでなんでなんで......アアアァァァァ!!!」



 視界が真っ赤にそまる。頭のなかでブツンとなにかが切れる音がして.......私は意識を失った。


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