[0.5] 瞬間
………その光景を目にした時、一驚を喫したのも束の間、あまりの神々しさに眩暈がした。
倫理にたがう、背徳感の成せる業かもしれない。
それが彼らでなければ、もし彼らという関係性を持った別の誰かであったならば、きっと真っ先に糾弾し非難していただろう。
気持ちが悪い、頭がおかしくなったのかと、考えうる限りの罵詈雑言を並べていたはずだ。
彼らだからこそ、いや、正確にはその片割れ―――“彼女”の行為だからこそ、俺は考えるまでもなく常識という名の基盤を突き崩し、あたかもそれが“是”であるかのように錯覚した。
呼吸を忘れ、しばらく目もあやな彼らに臨んで気がつく。
自分はあまりにとんでもない、そして禁忌かつ知ってはいけない不可侵領域に足を踏み入れてしまったのではないかと。
直感が告げる。
けたたましい警鐘を鳴り渡らせては、絶え間なく赤いランプを点滅させて。
危険だ。
そう、今まで歯牙にもかけなかったあの女は、実のところ最も俺が警戒すべき相手であり、決して弱みを見せてはいけない相手なのだ。
今更気付いても既に手遅れかもしれないが、それでも俺は、必死に自分を保とうとした。
世俗の正当性を切り捨てず、今まで通り大衆の倫理観に則って、表面上の俺という存在を見失わないようにした。
けれどその日から、世界はまるで生き地獄と化した。
彼女を見かける度に不徳が致す耽美な感覚に酔い痴れるおのが為体を呪い、またそう思う自分に嫌悪するという、終わりない螺旋に閉じ込められ。
未だランプは点滅中。
彼女はまるで、甘美な果実で誘う毒林檎のように。
ああ、無知は幸福だ。