てるみの場合
昨日の夜、てるちゃんは泥酔して帰ってきた。
「おかえりなさい」
「…ただいま」
玄関をあがるなり、バタンとてるちゃんは倒れた。
「飲みすぎだね」
意識のなくなったてるちゃんに私は話しかけた。狭いワンルームの部屋に、低い声が響く。
私は毎日てるちゃんの帰りを家の中で待っている。
仕事に行くてるちゃんを一日中待ってるのはつらくない。
待ってる時間が長いほど、てるちゃんを愛してると感じたし、てるちゃんに束縛されているようで幸福だ。
実際のてるちゃんは束縛なんか絶対にしないし、私の自由を一番に尊重している。
小柄なてるちゃんの体を持ち上げてベッドに運ぶ。
ベッドに下ろすと、てるちゃんは体を丸めた。
小さな野生動物のように、小さいけれど勇敢な生き物のように、てるちゃんは眠る。その姿がなんとも言えず神々しいものだから、私はいつも泣きたくなる。
上着、ブラウス、スカート、下着、靴下…てるちゃんの着ているものを全部脱がせて、薄い綿のワンピースを着せる。
そうして、てるちゃんの寝る準備を済ませ、私もてるちゃんの横に潜り込む。
少し煙草臭い髪。
汗ばんだ体。
今日もてるちゃんは外で戦ってきた。私を守るために、養うために働いていた。
「おやすみなさい」
私は私の神様を抱き寄せて、頭にキスをした。
明日はどこか散歩しに行こう。てるちゃんの好きな、たらこおにぎりを作って、玄米茶を煎れて、私の神様とどこかに行こう。




