神に祈れば
俺の周りは、信仰心が高い奴らが集まっている。例えば、隣の家の一家はヤーベェ教とかいう唯一神を信じているし、その向い方は小一教会という団体に所属している。それだけだったら問題はないのだが、神様、教義、習慣の違いから喧嘩になることが多い。そんな時が、俺の稼ぎ時となる。
目覚ましを止め、目をこすっていると、トントンと部屋がノックされ、返事もしないうちに町内会長が入ってきた。
「朝からすまない。仕事だ。」
それだけ言うと、一枚の紙をテーブルに乗せ、さっさと出ていく。こちらも慣れたもので、紙に書かれたことを確認すると、水を一杯飲み干し、部屋のカギを閉めて場所へと向かった。
「だから、僕は君が気の毒だから言っただけであって、悪気はなかったんだって!」
「いーや、違います!私のことを馬鹿にするために、そんなことを言ったんでしょう!」
紙に書いてあった場所に着くと、男女二人が言い合いをしていた。どうも遠くから話を聞いていると、食べ物に関して言い合っている。男が健康と男の信仰している教義から、肉を食べるように言い、女が女の信仰している教義に反する上におせっかいだと反発したことが原因のようだ。
いがみ合いがあまりすぎると、お互いの宗教のことを悪く言い始め、最悪周りを巻き込んだ喧騒へと発展する。特に、この町ではそれが起きやすい環境にある。この町では珍しい、無神論者であるからこそ、それを抑えるのが俺の仕事だ。
「いやー、お二人さん、いい天気だねえ。」
二人とも、こちらを振り返ると苦い顔をした。それを気にも留めず、二人の間に割って入った。
「いやあね、遠くで話を聞いてたんだけど、どうも二人とも宗教の話で喧嘩してたじゃん?そういうの、あんまりよくないと思うんだよね、俺。そこでね、俺の信じてる神様も一緒に信仰しないかなあって。いつも言うけど、俺の宗教は神様自信を信じるんじゃなくて、神様の心を信じるの。すべては神の為に、って。そうすれば、他の人とも信じる神様が違くても、なかよくできるじゃん。やっぱり神様は争いを嫌うと思うんだよね。だからさあ…。」
こんな調子で20分も宗教の勧誘をすると、男も女も、野次馬さえも、辟易し、いそいそ帰っていった。喧騒の種がなくなり、これで俺の仕事も終わりとなる。おかげで、周りからは最も面倒な宗教家と言うことになってるようだが、そんなことは気にしない。
仕事の後は、いつも家に帰るついでに銀行へ行く。機械が吐き出した、予算残高の書かれた紙を見て、一人笑顔になる。
「やはり、勤労し、残高が増えるのは、うれしいねえ。神は行いによって裏切ることもあるけど、『金』だけは何があろうと裏切らない。神より、『紙きれ』を信じた方が、最も現実的だと思うんだけどな。」
一人ごちながら歩く道を、真上にある太陽が熱く照らした。