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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
1章 学園に潜む悪霊
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1-6 忌むべき存在

その頃の夏樹は、黄泉の住人達と戦っていた。

「なんだ、こいつらは?」

戦っている中で思ったのだが、どうも彼等とはどこかで聞いたことのあるような姿形をしていた。

(学園で、いやどんな学校にもあるような…。あれはなんていったっけ?)

足音に這い寄る、バネ状の体をした手足のない人のような化け物を夏樹は渾身の力で蹴り飛ばす。

吹き飛ぶと同時、微かに呻き声の様なものが聞こえた気がした。

(考えていてもしょうがないか、今はここにいる奴らを何とかしないとな)

腹が裂け歯車と化している人や、長い舌をだし牙が見える吸血鬼モドキなんかが、この場にいた。

「一体ここは、どんな世界なんだ!?」

やむを得ず夏樹は後退する。

先程の時のような四方八方からの攻めは無かった為、容易に逃げることができる。

健脚で走り抜ける夏樹に、化け物は追いつけないと悟ってか追いかけては来なかった。

そして、一頻り距離を離したところで手近な教室に身を隠す。

ドアの窓越しに廊下を見てみるが、当然のことながら何も追ってきてはいない。

「はあぁ」

安全を確認すると、急に全身の力が抜ける。

今日は不思議なことばかりだ。夏樹はそう思っていた。

「まさかお嬢様じゃなく、俺がここに踏み込んでしまうとは…」

情けないとばっかりに不見目に思う。

「しかし、あれは一体?どこかで聞いた覚えがあるんだが…?」

夏樹はやはり、あの姿を聞いたことがある気がした。

見たわけではない、誰かが、

「思い出した、あいつらは…」

「風香学園七不思議、手足の無い輪っかの人」

突然の声に、夏樹は振り返る代わりに足を振るった。

ここに、味方などいない。

そう思い切っている夏樹に手加減の余地はない。

ところが、その足は空を切るだけだった。

足を自身に戻すと、腕で飛び起き、立ち上がると共に構える。

「女の子にいきなり蹴りを入れるなんて、随分野蛮なのね」

その姿が夏樹の目に映る。

「お前はあの時の!」

夏樹の目の前にいるのは、薄暗くて見えにくい中でもはっきりわかるような、見覚えのない制服の女子生徒が見えた。

「でも残念、ここじゃあ私には指1本触れる事はできないわ」

そして、少し近づいて来る。

あの時の短髪が見て取れた。

「ふ~ん、でも結構顔は好みかも、いい顔してるわね」

色気を用いてくるが夏樹は効かなかった。

「こんな世界を作り出して、一体何を企んでいる?」

「作り出してなんていないわ。そもそもこの世界は私の居場所じゃないし」

「なら何故!?」

夏樹の最後の言葉を聞いたとき。

女子生徒の表情が曇った。

なにか逆鱗に触れてしまったかのような

「何故ですって…あなた達人間がやって来た非道が分かっててそんなことを言っているつもりなのかしら?」

「なんだって?」

夏樹は、この世界が人間の仕業と聞かされたことに疑問を覚えた

「私達黄泉の住人は長い年月をこの大地で過ごしてきた。平穏で何もない地、和だけど平和な地」

そこまで言った後、女子生徒に影が指す。

「だけど、そこに小太りの中年の男がやってきて、私達に行ったわ『ここに、小さな物件を作らせて欲しい』と。最初は私達は新しく住まう者として快く迎え入れたわ。だけどそれが間違いだった。あの男、毎晩毎晩私達が眠りに就いたのを見計らって、体格の整った男達を大量に連れてきたのよ」

女子生徒の次の言葉はなんとなく夏樹には想像がついた。

その連れてきた男達はよりによって、そこに住む者達の住居を見境なく壊し始め、この黄泉校を立てたのだという。

当初はまだ名もない学校であったが、現代の風香学園がそうであるようにこの辺りには他に学校や学園というものはない。

必然的に生徒が入ってくるのと共に学費という名の金が転がり込んでくるわけだ。

そして、そこにいた住人達は警告を無視したからと、立ち退き勧告を聞き入れなようとしなかった女子生徒を含む住民達を追放したのだ。

「許せない!どれだけ恨んでもこの学校が潰れる事はなかった。挙句学校関係者の中でこれを知っているのは、現学園長くらいなものなんだから私達は呪いに尽くしたわ…この身が滅んだとしても、永遠の呪縛によって一定の時間に空間を捻じ曲げて生徒を一人ずつ取り込んでいった。その生徒はここで死に、ある姿へと変わり果てた…それが風香学園七不思議、螺旋バネの芋人と歯車の怪人、そして長い舌を持つ吸血鬼」

女子生徒が七不思議の名前を言うと、何もない教室の床から先程の歯車の人、吸血鬼、そして這いずっているバネの人間が現れる。

「この子達は元人間よ。アナタニカレラノアイテハツトマルカシラ?」

女子生徒から禍々しい怨念が放たれ、三体の七不思議が襲いかかってくる。

「さっきまでのあれは幻影だったって事か!」

夏樹は、三体の攻撃に備えた。

バネ人間は這いずることしかできないため動きは遅い。

歯車の人間は走ることはできないが、接近すれば歯車状の輪っかの出っ張りに触れてしまう。

この輪は、微弱ながらオーラを含んでいる、分厚い角だが殺傷性はありそうだ。

そして吸血鬼、こいつの舌はかなり長く伸ばせる、更に本体は身のこなしが素早く、三体の中では最も手強そうだ。

(一度に三体を相手にするのは、お嬢様との鍛錬以来だな…)

三体の接近の中、夏樹は過去を思い出していた。

夏樹には、覚醒能力者の力がない。

それを知ったのは、覚醒能力者認定試験の中間点、開花試験で実際に能力を開花させる際に分かった。

その時のことは今でも記憶に焼きついている。

能力者の資格がないことを知ったのは何も夏樹だけではない。

試験を受ける者達全員が、夏樹を見てそれを知った。

それからの夏樹は差別に苦しんでいた。

自分にはどうして覚醒能力が身につかないのか?

差別が吹き荒れる嵐の中で、初音だけは違った。

能力者は何も必要とされているわけじゃない。

能力がないからといって諦めてはいけない。

「夏樹は強い子、能力者になれないなら能力者より強い武闘を目指せばいいじゃない」

初音のあの時の笑顔はまるで、泣いている子供に優しく言葉をかけるように輝く笑顔だった。

それからも、初音は同じように鍛錬を協力してくれた。

体力をうまく見て手加減なんかしてくれていたりもしたが、夏樹は悔しさを乗り越える為に痛む体に鞭を打って挑んだ。

今では、闘神化しなければ初音を追い詰められるくらいに成長できた。

三体の相手というのは、初音と全く同じ力に調整された模擬人形、現代ではしもべと呼ばれる者で初音の分身の役を2体演じさせ、初音本人との戦闘にも、なんとか辛勝で収めることができた。

決して勝ったとは言えないが、初音はそれにとても喜んでいた。

『自慢の付人』なんて言われたりもした。

そんな彼女の顔を涙でよごしたくはない。

こんなところで三体にやられることはあってはならない、夏樹は修羅となるのだと。

吸血鬼の舌が伸びる。

能力者にほど近くなった夏樹はギリギリまで引きつけて駆ける。

向かうは歯車の怪人のいる方向。

すると怪人は、腹に刺さっているはずの歯車を高速で回転させ夏樹に備える。

切り刻む、そのつもりなのだろうが夏樹は足を止めず向かっていく。

怪人の眼前まで迫ると途端に、ジャンプし高速回転する歯車の僅かな出っ張りの部分に足を付いたかと思うと、すぐに奥に飛び込みそのまま怪人を通り越す。

そのあいだも夏樹を追い続けていた吸血鬼は、夏樹が途端に上を通り始めるのを見ると、怪人に向かっていくのを止めようとするが、勢いは抑えきれず、歯車に突っ込んでいく。

ガリガリガリガリガリガリッ!!

回転する歯車の切り潰され、吸血鬼は一部の肉片だけを残して粉砕された。

「まずは一体!」

飛び込んでいた夏樹は、地に着くと転がり起きバネ人の方を向く。

夏樹を見たバネは「こしゃくな」とでも言うように雄叫びを上げ、這いずる体を飛蝗の様に飛び跳ねて長い距離を接近する。

「やっぱりそう来るか、なら…」

夏樹は、再び怪人に向かっていく。

今度は無効だと言っているように、怪人の歯車は先程よりも速い回転で夏樹に走ってくる。

「それを待ってたよ、次はお前だ!」

それを見ると夏樹は足を止め、バネのいる方へ走っていく。

雄叫びを上げるバネは夏樹に届くように、オーラを腹の部分に集中し高く飛ぶ。

口を開口させ、夏樹の首を狙う。

しかし、夏樹は!

ばしっ!

バネ人の首根っこを掴むと、歯車の怪人の方に投げつける。

夏樹を追いかけていた怪人は、バネが飛んでくるのを防ぐことはできず、歯車に強くぶつけられる。

ボッゴーン!

二体とも、吹き飛んでゆき壁に激突する。

バネは歯車に潰され、怪人は衝撃で上から崩れてきた岩石に押しつぶされる。

全滅だ。

「はぁ…はぁ…」

夏樹は三体に勝てた。

パチパチパチ

「見事、流石ね」

女子生徒が手を叩いて、ゆっくりと近づいて来る。

「さあ、次はお前だ!覚悟はいいな?」

両拳を作り、構える。

武闘家を思わせるその構えは、今の夏樹を奮起させている印だった。

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