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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
1章 学園に潜む悪霊
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1-5 裏世界へ

付属校舎/3年3組

ようやく授業が終わった。

放課後の学園のこと。

夏樹は机に突っ伏し、眠りに入ろうとする目を指で無理やり起こす。

結局千博からは何も報告は来なかった。

つまりは資料は見つからなかったと思って、間違いはないのだろう。

こうなれば後は自分で止めるしかない。

初音は必ず今晩に出ていく、と

妙な違和感を感じながら、夜になるまで待っていると

ガラガラガラ

と、そのとき教室の後ろの扉が開いた。

「やっぱりここでしたか、夏樹様」

その声に夏樹は顔だけを上げる。

しかし声のする方に向かずに口だけを動かす。

「善之か、どうしたよ?」

「初音様がお見えになっています。お会いに行かれないのですか?」

善之の言葉に夏樹は愕然とする。

勢い良く振り向いたとか思うと立ち上がって、扉の前まで早歩き

「おい!それはどういう意味だ!?」

善之の服をつかみ、怒り狂ったように睨みつける。

「俺をからかってるのかお前は!?」

夏樹の怒りに善之は、何の事なのか全く分からず

「なんですか、いきなり?」

善之は夏樹から視線を逸らした。

「お嬢様がここに来るはずなどないだろ!お前は俺を馬鹿にしているのか?そんなことでこんな気持ちを…」

「馬鹿になんてしていません!夏樹様には、初音様の気『プネウマ』が感じ取れませんか?」

善之の言葉に夏樹は先程から感じていた違和感の正体が一瞬にしてわかった。

この感覚は初音の気配なのだと、

気がつくと善之の服から手を離していた。

「初音様は図書室にいます。泣いていますね」

善之の言葉に再び夏樹は我を忘れる。

「泣いている!?」

「はい、夏樹様に謝ろうとしているみたいです」

「たくっ、どういうことだよ!?」

夏樹は3年3組を抜け出す。

能力者ではない夏樹は自らの足を動かしての移動になるため動きは他に比べれば遅い。

しかし人間の陸上部クラス程度なら追い抜いて差を広げていける健脚は持ち得ていた。

日頃の鍛錬の成果だ。

2階へと足を付き。

下り階段に踏み込む。

その時、異様な感覚に夏樹は、その階段に足を入れることを拒んだ。

(な、なんだ?)

この場所は2階。

夏樹はそこに不思議な空間があることに気がついた。

捻じ曲げられた表裏の世界。

今、夏樹はこの場で自分から黄泉の世界に足を踏み入れたことになる。

見えない壁に阻まれた2階の上下階段。

拒絶に魅入られた世界の住民が、夏樹に襲いかかる。

黒すぎた影!

存在が分かり易いだけに、目に見えたソレは手強い印だった。

「…!」

背後も側面も取り囲まれた。


風香学園/図書室

その頃、善之は一人で目的の場所に到着した。

きっとここには、初音様と夏樹様がいて、今頃は仲睦まじい光景が見えてくると思って、

扉を開けた。

ところがそれらしい声は愚か、なぜか千博がいた。

「神月様?どうしてここに?」

「お前、そのセリフはおかしいだろ?こっちが聞きたいところだ」

千博はずっと泣き続けている初音の頭を撫でていた。

子供をあやす様に。

まだ泣きっ面が見て分かるほどだが、少しづつ幼さが残る笑みをとり戻していく。

「どういうことですか?」

「それも俺のセリフだ。お前、夏樹はどうした?」

「は?夏樹様はこちらにはいらっしゃっていないのですか?」

「はぁ?お前何言ってるんだ?あいつなら教室にいるだろうが!?」

二人の口論が続く中、泣き続けていたと思われる初音は途端に顔を拭って、

「夏樹はここにいない!?学園から姿を消した」

「何!?」

撫でていた腕を払い抜けられた千博は、初音を一瞬みて夏樹の気配が消えたことを察知した。

善之も同じように気付く。

「妙な気配を感じるな…気をつけろ、何かがいるぞ?」

千博は警戒する。

が、初音が扉の方まで向かっていることを確認すると驚いて声を上げた。

「初音!危険だ、戻れ」

「危険なのは2階、夏樹はそこで消えたの」

千博の警告を無視して、扉を開く

「あ、おい待て!」

そのまま図書室を抜けると、すぐさま善之が降りてきた階段を駆け上がっていく。

同じように千博と善之も階段を上がっていく。

2階の廊下に足を踏み入れた瞬間、初音、そして千博と善之は背筋が凍るような感覚を感じ取った。

「くっ、この違和感と寒気は!!」

千博が声を上げた途端、黒い物体が向かってくる。

黄泉の世界の住人の出現である。

「四方八方から来るわ、構えて!」

凪ぐように揺れた髪に炎が迸る初音。

既にプネウマを放ち、覚醒していた。

「行くぞ、善之」

「はい、千博様」

千博、善之も(オーラ)を放ち、敵を迎え撃つ。

相手は薄暗い暗闇に溶け込むように、真っ黒な身体を自在に操る。

「数が多い、俺が多方を潰す、善之と初音は各個撃破に当たれ!」

「りょうか~い」

「わかりました」

二人の返事が聞こえると、千博は四方八方に迫る黒の物体から遠ざかる。

それに続いて初音と善之も、千博についていく

「こっちだ、来い!!」

千博の声を聞き付けると黒い物体達が一斉に千博に向かっていく。

それは次第に廊下に一直線になるように。

「今だ!」

窓ガラスに映った一直線に並ぶ黒い物体に、千博は拳を一時的に引っ込め力を込める。

「くらえ、ファイバンドヴォルテックス!」

力を蓄えさせた、拳を前に差し向けると共に、5本の指を開く。

その瞬間5本の指ひとつひとつから、電光が走る。

その閃光の光源が、黒の物体を次々と貫通していく。

発光させた電光は壁にぶつかると、途端に消滅する。

「初音、善之」

「おっけ~」

「は!」

千博が掛け声を上げると、二人は散開し、生き残った黒の物体の集団に飛び込む。

「いくよ~、斬髪尖晶(ペイルソードヘアー)!」

声をあげると、初音の髪が意志を持っているかのように動き出し、黒の物体に素早く突き刺さっていく。

無数の髪の針が、次々と敵を葬っていく。

「僕も負けてはいられません。鉄線舞葉(ワイヤーズダンス)!」

続いては善之。

細い針金のような長い鉄の棒を両手に構えると、黒の物体が群がる中を上手く掻い潜って行く。

通り過ぎたと同時に、切り裂かれる。

鎌鼬の過ぎる様にして、舞う様に動き回る善之に翻弄される黒の物体達。

しかし、三人の猛勢の中、黒の物体は一向に消える気配がしない。

それどころか、段々数が増してきているようにも思える。

何故なら、黄泉の世界で三人が今戦っているとされる黒の物体は、幻影に過ぎないからだった。

体力の限界も近い中、三人は疲れ果てるまで戦い続ける。

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