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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
5章 地球崩壊の序曲
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5-10 エピローグ ラー家誕生の真実 (終)

その頃、善之は眠っている初音を介抱していた。

長い付き合いだったが、彼女は地球軍諜報員の中で最も期待されていた。

ラー家というだけで大きな期待をされ、それがプレッシャーとなって今に至るのだ。

地球軍のお偉い方達は一体何を考えているのか…例え彼女がラー家の一人だとしても、見た目や精神は人間とさして変わらないのだ。

「ん…んん…」

その彼女が寝返りをうつ。

赤い髪から放たれるシャンプーの匂いはまるで幼女のような雰囲気を魅せていた。

元々地球軍の諜報員は3人だった。

初音を筆頭に善之と千博この三人のチームを組まされていた。

地球軍の考え方としてはスリーマンセルが最も任をこなしやすいという単純な考えだからだった。

そんなおり、初音から急な連絡が地球軍に向けられる。

それは捨て子を見つけたという連絡。

その子を養う為の資金を用意して欲しいというものだった。

ラー家の少女は闘神の血を拡大させない様に一生を孤独で過ごす事が血族で伝えられて来ていた。

初音は母親になりたかった。

それが彼女の本音だろう。

血の繋がりはない、しかし自分の子供の様にこれまで育ててきた。

その子供はやがて地球軍の諜報員の一人として抜擢され、今もなおその鍛え上げられた身体を上手く用いて生き抜いて来た。

しかし氷界での出来事がその子供の運命を大きく変えてしまうこととなってしまった。

初音は今、光無き闇の中に閉じこもりながら現在の状況を見ている。

彼女の心は罪に苛まれていた。

ラー家の血は新たな闘神を生み出す、いわば感染源なのだった。


「一体どういうことなんだ?」

黒羽は先ほどのベロニカの言っていた事に問う。

「仕方がない…役者はどうやら揃ったようだし、全てを話してあげよう!」

決意した様にベロニカは、プネウマを体内にしまう。

どうしようもないといった様子で無理やり闘神化を引っ込めたようだ。

「役者?」

黒羽は首を傾げたが、すぐにその背後から接近してくる人物に気付く。

振り向いた時、捉えた人物は二人。

それが猛スピードでこちらに接近してきていた。

「千博?」

その内の一人はよく見知った顔だった。

しかしもうひとりは今までに見たことがない者、鎖爛だった。

「それでは私はこれにて失礼いたしますわ、地球軍の皆様方どうかこの地球ほしに平穏を…」

そう言い残して彼女は消えた。

「さて、何から話そうか?」

ベロニカはとぼけてみせる。

「ラー家の創世について、だ!」

黒羽がキツイ口調で言う。

「まあ、そうピリピリしなくてもいいだろう?」

しまったと言わんばかりにベロニカは黒羽を落ち着かせる。

「そうだね…ラー家誕生について、その前にまずは私の生い立ちについて話さなければならないね」

そう言ってベロニカは過去を振り返りながら、ラー家誕生の秘密を語り出す。

ベロニカ:ルーツ…本名、祖我:聖人(そが:しょうと)は出生日不明の孤児だった。

理由は生まれつき、ある能力を持っていたからだった。

それは能力界発祥のものでその中でも類まれなる確率でしか持つことがないとされる能力だった。

ところがベロニカは人間界の人でありながらその力を持っていた。

それが原因で彼の周りにはマーダーチルドレン(殺人小人)と呼ばれる能力界の回虫が彼を取り巻いていた。

この小人達はその身体全体が刃となって彼を狙っていた。

しかし能力を持つベロニカには同時に強力な覚醒壁によって彼らの攻撃を防ぐ事ができた。

更に絶えず攻撃が行われる過程で覚醒壁は次第に強化されていき、その範囲を拡縮することが可能となっていた。

それによって近付く者を跳ね返したり、マーダーチルドレンの餌食にしたりと利用法は大きく増えた。

しかしマーダーチルドレンの存在が明らかになるとたちまち彼の周りにいた友たちは彼からすぐさま離れていったのだった。

生涯孤独を背負った彼は、文献を調べている内に難解な古文書を見つける。

それによればホムンクルス以外の方法でクローンを作る事ができ、更には生成したクローンは思うままに変更、改良ができ作成者の思いのまま、というベロニカにとっては最も好都合な内容だった。

しかしこの古文書には人間界には存在しない材料に加え、文末には「実験は失敗に終わっている」と書かれていた。

それでもベロニカは頼らざるを得なかった。

例え無謀な事だとしても、クローンの生成に成功した暁には生涯孤独の運命を覆せるかもしれなかったからだった。

しかし、古文書の記述通りクローンの生成には失敗した。

正確にはクローンの生成には成功していた、だが作成段階からベロニカは疑問を抱いていた。

その疑問が的を射ているとも知らずに、クローンの生成が完了する。

が、材料に問題があった。

それはクローンの媒体とする者の血とある特殊な鉱石から作る事ができる。

古文書にはアカミカルス鉱石と記されていた。

しかし、この鉱石の正体は血色石と呼ばれ、血液に触れると大きな反応を起こすという代物だった。

つまりは、この実験のために生み出された鉱石という事になる。

古文書に記された事は、最初から失敗することを前提に書かれていた。

そして欠陥品として扱われたアカミカルス鉱石は遺伝子を女性に書き換えられ、ベロニカが生み出したクローンは異性だけを生み出す結果となった。

「それがラー家が生まれた理由だよ。同時に彼女達の血は新たな眷族けんぞくを生み出してしまう」

ベロニカは全てを語った。

しかしいくつかの疑問を持つ者が、彼に問う。

「全て女性だというのなら、どうして彼女達は子を残そうとしなかったんだ?」

千博がまず問い、ベロニカがそれに答える。

「子供…か、そもそもラー家を生成するのに必要なのは今言った通りだ。ところが創造主の血を用いたとして、果たして本来女性が生まれることがあるのだろうか?」

「なるほど、そういうことか!」

黒羽がその意味に気付く。

「ベロニカの血を用いた段階から、クローンの身体は完成していた。しかしアカミカルス鉱石によって構成が変化し、女性の身体へと変わったという事か!」

「そういう事だよ、それにラー家は皆闘神であること、それは文字通り戦う為だけに生きているということだ。子を残すという考えは彼女達にはないのだろう…しかしアカミカルス鉱石の影響で強化された血液性感染能力が血に触れた者の身体の構成を変化させ、新たな闘神を生み出す。彼女達は知らず知らずの内にそれによって仲間を増やしているのだろう」

「生まれたばかりのラー家は闘う事しか頭になかった。本能がそれだけを望んでいたから…だが、長き時を経て彼女達は思った。ラー家の人間はどうして生を受けたのかを」

ベロニカはさっきからずっと微笑んでいる。

黒羽が彼の言う事を全て理解し代わりに話しているからだ。

「彼女達にとっては不思議だったんだ。同じ人間と戦っているのに無抵抗に殺される者達があまりにも不思議だった」

「無抵抗に殺される?」

千博が?を浮かべる。

「ラー家と戦う者達だって抵抗はしていたさ。しかし武器を使っていながらも虚しく殺されていく人間達、ラー家には覚醒壁があった…銃刀類何を用いていようと彼女達に傷なんて一つも付けれるはずがない」

「そう、ラーには敵う者なんていないんだよ、君達の目の前にいる少年だってそうだ」

ベロニカの表情が冷酷なものに変わり夏樹を指差す。

「君達に彼は殺せない!同じ人間同士、戦友であるから。しかし彼は君達を殺そうと動く殺人兵器と化している。さあ、どう切り抜ける?」

そう言い残し、ベロニカはこの前の様に突如として頭上に巨大な空間を出現させる。

「お喋りが過ぎたようだ…どうやら戦っている時間もなさそうだし、私は消えるとしよう…」

ベロニカの言葉にその場にいた全員が疑問を抱く。

彼は何かに気付き、この場から姿をくらまそうとしている。

「私はまだ捕まるわけにはいかない…さようなら。君達にどうか永遠なる呪縛を…」

そう言い残しベロニカは消える。


「なんだったんだ、ベロニカのあの言葉。一体どういう…!?」

千博が黒羽に向けて放った言葉は途中で遮られた。

その場にいた者全員が固まってしまっていたからだった。

彼らには一体何が起こったのか…その真相は地球上の全ての生物が知り得なかったのだった。

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