5-7 未来の地球(ほし)
「うおおぉー!!」
特攻してくる千博に齋は戸惑う事無くその猛進を避ける。
「おっと、猪突猛進だなー。そんなに急がなくともゆっくりと教えてあげようじゃないか!」
「のんびり聞いていられるほど時間はない、さっさと話せ!」
千博の渾身の拳が齋に向けられる。
ヒュッ!
しかし呆気なくよけられてしまい、次の攻撃を回していく。
だが、どれもよけられてしまい次第に千博のスタミナは一時的に尽きてしまっていた。
「かはっ…はぁ…はぁ…」
「ようやく大人しくなった様だね」
息切れを起こしているのか呼吸の回数がかなり多くなっいる。
「くっ…」
「まあじっとしてろよ、ゆっくりと話を聞かせてる間にある程度は回復するだろ?」
齋の言うとおり千博は体力回復に勤めながら、話を聞くことにした。
「改めて自己紹介からいこうか、俺は齋:叶破。能力は…」
左腕を鷲掴むような形に変えるとそこから黒い球体の物体が現れる。
「加減しないと、お前もろとも俺まで吹き飛ばされてしまうな…」
できるだけ力を抑えその球体を直線上に飛ばす。
もちろん千博に向けたわけではないが…
飛ばされた球体が一本の大木に命中すると
ドッゴーンッ!
「なに!?」
忽ちその大木とその周囲の木々が一瞬にして地面に叩き潰された。
勢いとその威力の高さで砂煙が舞う中、齋は言葉を続けた。
「これが俺の能力だ」
左腕を顔の前まで寄せ挑発していた。
「今のは砲弾、そして木々はまるで何かに押しつぶされた様に崩れた。おそらくお前が出したあの球体は重力の塊だろ?」
終始みていた千博はその分析結果を齋に話す。
「ご名答、その通りだよ。つまり…言いたいことはわかるね?」
「お前の能力を受ければ、俺は重力に押し潰されるということだな?」
荒い息を整え、千博は冷静さを取り戻していた。
「もうひとつ聞かせろ、お前は一体何者だ?」
能力を聞かされ、更には敵だと言う。
千博にはそれだけで納得できない何かがあった。
何かが…何かが引っかかっている。
これだけでは納得のできない何かが…
それが千博にとっては最も齋と戦えない理由だった。
しかしそれも今ここでハッキリと分かる。
齋の口から発せられたのは、短い言葉だった。
「遥か何千年先の世界より、時間を超越してきた未来からの使者さ」
それを聞いた途端、千博に戦慄が走った。
「つまり、お前は今回の出来事の関係者か!」
「そういう事だ、だから俺はお前をここで倒さなくちゃいけない。未来での君達は俺達の存在そのものが危うくなる存在だったからね」
千博と齋がようやく激闘を始める。
それぞれには思うことがあった。
千博は地球を脅かす存在が未来からの使者であるということ。
一方、齋は千博を含めた現代の地球人が未来では災厄の存在であったという象徴がなされていたということだ。
二人の戦士が疾風の中で更に語る。
スタミナは既に回復し、渾身の一撃を振るう。
「俺達が未来では災厄の存在だと!?一体どういう事だ?俺達の存在は地球を救うことで未来永劫語り継がれる英雄として残っているんじゃないのか?」
「いったところで理解など出来ないよ。君達はそういう存在なのだから…」
スッとかわされてしまう。
「何故だ!?理解し合えれば汚染は回避できるはずだ」
「何を甘い考えを…そうして言いなりになったお前達が残した結果が今の有様なんだよ!」
千博の言葉に齋は激怒する。
「嘘なんて真っ平御免だ…ここでお前達を殺しておかなければ地球は同じ結末を迎えてしまう!」
左腕を前に出して開き、重力を溜め込んだ黒い球体を作り出す。
「重力に押しつぶされてしまえ!それがお前達に俺が与える罰だ!」
先程とは生成速度がまるで違い、秒を重ねる前に球体が完成する。
「死ねぇーっ!」
叫び声と共に左腕を大きく振りかざし、重力球を飛ばす。
(くっ!マズイぞ、あの球体を真面に食らえば、終わりだ!)
焦る千博は辺りを見回し、衝撃に備えれるものをさがす。
大木ですらたたきつぶす程の重力だ、掠りでもすれば致命傷となってしまう。
(ちっ、一か八か…!)
千博が何かを決断し、飛んでくる重力球に向かって走り出した。
「何をする気だ?」
その様子を齋はじっと見ていた。
「まさか重力球に自ら飛び込むことで、受ける被害を減らそうというのか?勢いをつけた所で能力者といえ生身の人間如きで越えられる甘さじゃないぞ。それか球体から逃げているのか?だとすればもっと甘い話だ、俺の重力級はマーキングした対象を執拗に狙って着弾する、つまり逃げるだけ無駄だということだ。それとも…」
長々と千博に向かって言ってるのか、独り言なのかもわからない単語を並べながら齋は千博が次に起こす行動に目を向けた。
「うおおぉぉぉぉおおぉぉぉー!」
齋の目に見えたのは両腕にオーラを集中させている姿。
「まさか…受け止める気か!?」
直後、バシッ!という音と共に重力球の動きが止まる。
千博は見事、その珠を受け止めることに成功したのだった。
(なんて奴だ、あの重力球を受け止める奴がいるなんて…)
齋は千博のその姿に感動していた。
(あの球は着弾すると重力を封入しているオーラの膜が破れ、巨大な重力場を周囲に齎しあらゆる物を押しつぶしてしまう。オーラの膜は扱い方こそは簡単で誰にでも使えるものだが、大抵の場合は能力者自身の身を守る程度にしか扱えない。またそれも簡易的な物が殆どで、俺の様な危険な能力を封入することができるようなオーラの膜は何億万といる能力者の中でも極めて稀だ。何せ集中力を必要とする上に、何より極限まで薄めるという行為は自らのオーラの流れそのものでさえも変化させてしまって、下手をすれば自身の命を危険にさらす行為にだってなりうる。そんな危険な行為をアイツもしているというのか…?)
千博が行っている行為とは、受け止めたことによる着弾によって敗れたオーラの膜を両腕に込めたオーラで修復しているのだった。
受け止めているという状態と、僅かなオーラで再生させているという難しい行動だった。
「ぐうっ!ごのっ!…」
じりじりと押されていく千博。
盲点無き能力と思い込んでいた齋はその姿を只じっと見ていることしかできなかった。
発破しないよう押さえる力と、オーラを僅かに送る状態は体力を徐々に削られていく。
やがては押さえる力の方が無くなって行き、どんどん後退させられる。
約20m先には一本の木がそびえ立っている。
この木に触れれば千博の押さえている腕は、力をかける方向がずれ重力球は千博の胴体に着弾して発破するだろう。
そしてもう押さえる力はなくなり、後退する速度は増す一方だ。
「さようなら、そして盲点を見つけてくれて感謝するよ…今後はそれを改善した能力で地球をより良くしていくよ」
齋が言葉を終えたと共に千博が木に激突した。
ドッシーンッ!!
甲高い音と共に木が倒れた。
「どういう事だ?」
齋はすぐに異変に気がついた。
重力球は確かに着弾したはずだ。
だが重力場は起こっていない。
ただ、本来ならば周囲の木々もろとも崩れるはずが激突した木がその方向に向かって折れただけだ。
「まさか、まだなにか奥の手を…?」
すると、砂煙が立ち込める中から声が聞こえてくる。
「なんとか間に合ったようだ、ギリギリだったが…」
次第に薄れる中で齋の目には、そこに三つの人影があるのが見えた。
「大丈夫か?荒いやり方だったが死んではいないはずだ」
そこに見えたのは、黒いダウンをきた男と、全身フリルだらけの服を着た女性が立っていた。
男の隣には死を覚悟した故に意識を取り戻した千博がいた。
「遅れて悪かったな、安心しろ今はお前の敵ではない」
「がはっがはっ…だ、誰だあんた?」
男の言葉に千博はちんぷんかんぷんな顔をしながら咳き込む。
「ああ、お前は知らないのか?自己紹介しとくか…」
勿体付ける様にして高らかに言う。
「能力界の現長、羽塚:滋(はづか:しげる)だ。以後よろしく!」
そう言って巨大なオーラを放ち、齋を挑発するのだった。




