5-6 崩壊の序曲
華楼美母の隣には、黒い翼を持つ者もいた。
「コイツが初代王の欠片ということか、フン!まさか人に化けているとはな…」
黒い翼を携え、今までに見たことがない覇気を漂わさせていた。
「黒い翼…黒羽美運かぁっ!?」
影融が甲高い声で叫ぶ。
「フン、だったらどうした、怖気づいて大人しく封印されるか?」
挑発するような態度をとってみせるがインとは素顔を見えなくなる程度に顔を俯かせ、肩で笑っていた。
「クックックッ!昔年の恨み、今ここで払させてもらう!」
無数の翼人達を払い除けつつ一気に距離を縮めてくる。
巨大な翼を持つ影融からすれば、翼人の兵士達は雑魚に過ぎない。
翼手で軽く凪ぐだけで、蹴散らし黒羽に接近する。
「死ねっ!!」
迫る影融に黒羽は両腕を交差させて構える。
そしてその瞳が邪悪なものに変わると、
「十文針鎗!」
ザシューッ!
黒羽の指の一つ一つに針金が結び付けられ、それが影融の全身を一気に切り裂いたのだった。
バラバラと落ちていく肉片を背に黒羽は溜息を吐く。
「単純な奴だ、馬鹿なところは昔から変わっていない」
そう言って、確保しようと迫ろうとしたが…
「!!」
身の危険を感じ、バラバラになった影融から距離を置く。
その途端、バラバラの肉片が再生し、元の姿を取り戻す影融。
しかし巨大な翼が一枚無くなっている変化もあった。
「クックックッ!無駄だ、そんな攻撃じゃあ私は倒れないよ」
勝ち誇ったような笑みを漏らしながら、巨大な翼を広げ再び黒羽に迫る。
「再生するのも変わっていない、あの時のままだな…影融」
まるで子の成長を見届けていたのに全く変わっていない姿に呆れるように溜息を再び吐く黒羽。
再び指の一つ一つに針金が添えられる。
それを見た影融が笑みを浮かべる。
「無駄だ、同じ攻撃は二度通用しないぞ。昔の姿のままだと言うのならお前はそれをよくわかっているはずだろうが!?」
「無駄だと思うならバラバラにならないでみろ!」
黒羽が腕を軽く薙ぐと針金も同じようにその凪いだ方向に動く。
「そんなもの、一度当たればもう通用しないんだよ!」
影融は生まれながらに持ち得ている能力の一つに、能力を見切る力があった。
つまり、同じ攻撃は二度通用することはない。
そしてその事は黒羽も知っているはずだった。
指と指の間の針金は黒羽から遠ざかるに連れ間を広げていく。
その間をうまく通り抜け、そのまま黒羽に接近していく。
「終わりだ、伸ばした針金を戻す前にその首を落とすことはできる!」
影融が飛び上がり、残り6つある翼のひとつにオーラを通し黒羽に向ける。
「死ね、黒羽美運っ!」
音速の速さで特攻してくる。
その時、突然影融の体がバラバラになった。
そこで黒羽がようやく笑みを浮かべた。
「お前はやはり甘い、お前が昔のままだというのなら俺も昔のままだということだ…」
黒羽の凪いだ針金は右手だけ、そして左手はというと地面を貫き、影融の死角から現れ、一気に絶命させていたのだった。
「界乱指!?馬鹿な!」
それを見ていた準人が驚愕する。
結愛の能力を完璧に再現していた。
界乱指は結愛の血継限界である為、その能力を再現することは愚か、真似するのですら準人にはできなかった。
それをいとも容易く黒羽は針金を用いていながらも再現していたのだ。
只者ではない、わかっていた事だが予想を遥かに上回っていた。
「フッ…俺の能力が認視複写だということを忘れるな。お前だけが特別なんじゃない、能力者全てが特別で小賢しいんだよ」
黒羽が呟いている間にも、影融はバラバラになった体を再生し、元の形に戻った。
巨大な翼を一つ失って、
「ハッ!能力者は利用されるために生きている。それをどう小賢しいと言えるんだ、お前は?」
「小賢しいものさ…能力者は互いに戦いあう中で能力の強さを知ろうとし、弱点を見定めて一気に叩く。そしてそれは俺達も同じことだ、俺達の場合はお互いの持つべき能力が強力すぎるが…」
腕を組みながら黒羽は冷静に言葉を口にしていく。
それを聞いていた影融が巨大な翼の先を黒羽に向けると、
「だから神と言われるんじゃないのか?神だからこそ、『崩壊の序曲』がその身にわかるんじゃないのか!?」
またしても準人を驚かす言葉が零れる。
「崩壊の序曲?一体どういう事だ、黒羽美運?」
焦燥感に煽られる準人を見ることはなく、腕を組み姿勢を崩さずに口を開く。
「言葉だけではわからないか?」
黒葉の言葉に準人はちんぷんかんぷんな様子だ。
「フン、まあ分かるものならお前は十分な能力者だ…」
馬鹿にするような言葉に準人は表情を固くする。
「教えてやる。崩壊の序曲、それは今日中にこの世界が崩壊するという事だ。何が起こるのかはわからない、しかしその予言は信用できる奴の言葉だ、嘘ではないのだろう。その原因が禍々しき力を持つ者だと伝えられた」
「それはいったいどういう…」
準人が言い終わる前に黒羽は、その視界から消え瞬く間に影融のすぐそばまで駆け寄っていた。
「こいつを始末すれば事は終わる。こんなくだらない話をする必要がなくなるわけだ!」
影融でさえも追いつけないその速さは、ラー家の力を認視複写していた。
「翼のない天使というのも面白いだろう」
ザシュ!!
無慈悲な一撃は影融を絶命させ次なる再生の時まで、その攻撃を止めていた。
風香町/国会議事堂前
そのころ霊法町から齋の案内する通りに進んでいた千博達はなんとか風香町の国会議事堂の前までその歩みを進めていた。
「なんとかたどり着いたな…しかし、これは一体?」
燃え盛る議事堂を前に千博、ルシア、双子エレメンツ、イルミーゼ、齋は呆然としていた。
「夏樹さん達は大丈夫なのでしょうか?」
ルシアが心配の声をかける。
するとその傍からずっと離れないでしがみついていたイルミーゼも悲しむような表情を千博に向けていた。
「アイツ等なら大丈夫だろう、そう簡単にやられる奴らじゃない」
険しい表情の千博の横に齋が立ち語りかける。
「きっと、会えるよ。こことは違う別の世界でね」
その言葉に千博は耳を疑った。
「どういう事だ?」
振り返ると共に僅かに見えた殺意に千博は無意識にバックステップをしていた。
ヒュン!!
間一髪その一撃を避けた千博、しかし齋の様子に少し戸惑っていた。
「一体どうしたんだ齋?」
「ククク、お前ら全員ここで死ぬんだよ、そしてお前らの仲間とやらも同じく死んで仲良くあの世で仲間ごっこでもしときな!」
先程までとは全く違うその変動っぷりに、その場にいた全員が絶句する。
それを破ったのは、他ならぬ齋だった。
「今すぐ全員楽にしてやるよ」
そう言って襲いかかってくる。
しかし、千博にはもうそれだけで十分だった。
「ルシア、ルア、ルナ、お前達は夏樹達を探せ!こいつは俺が相手をする」
「わかりました、どうかお気をつけて!」
そう言い残して三人は齋の横を抜けていく。
「さあ、1体1でやりあえるな…お前は一体何者だ?」
千博の瞳が黒く光る。
前回の敗退から己の弱点を知った千博は闘争本能をむきだしにして齋に迫ったのだった。




