5-3 不穏な影
風香町/国会議事堂前
夏樹、善之、叶破の三人は風香町の北北西にある国会議事堂の前にいた。
「ついたよ、ここがミハイル:ウィスキーンがいるところだ」
叶破が言うには、近々この議事堂である議会が行われるとの事だ。
世界各国の政府達が一堂に集結する場であっても地球軍の代表は快く歓迎してくれると叶破は言うのだ。
しかし忙しい時期であることは間違いない。
あまり騒がしくしてはならないと夏樹は心に誓った。
国会議事堂/受付前
三人が建物に足を踏み入れた途端、辺り一帯が邪悪な雰囲気に変化したことに気づく。
「この感じは!?」
夏樹と善之が気配に反応する。
周囲を見渡してみれば、受付や待合の席には、人一人見当たらなかったのだ。
「既に俺達は敵のアジトに踏み込んでいるみたいだ、あれを見ろ!」
叶破の指差した方向、そこには多重の人影が近付いてきていた。
「いきなりお出ましか?善之、御嬢様を頼むぞ!」
「分かりました!!」
初音を善之に預け、夏樹と叶破は戦闘態勢に備える。
「お手並みを拝見させてもらうよ夏樹君」
「同感ですよ、叶破さん」
議事堂の受付に夏樹、叶破、善之を人型の戦闘兵器が取り囲む。
数は大凡40体前後といったところだ。
「ピピピッ!熱源体を確認、形状識別判断中…アウト、目の前の熱源体を敵とみなし、排除を開始します」
兵器の一体が夏樹達を攻撃対象とした。
「見た事のない型だな…地球政府の最新兵器か?」
叶破は人型戦闘兵器を睨みつける。
「とはいえ同じ地球人を敵視するとは…まだまだ識別能力は弱いな」
人型兵器の腕から、鋼鉄の爪が現れる。
「接近戦をお望みのようだよ、夏樹君」
「任せてください!」
掛け声と共に人型兵器が先手を打つ。
夏樹もそれに答える様に人型兵器に向かっていく。
人型兵器の足の速さは中々のものだ、しかし一方で夏樹は人型兵器よりも速く駆けていた。
しかし認識力は強力なもので夏樹の位置を正確に見極め、一気に鋼鉄の爪を振り下ろす。
ファシャー!
人型兵器は確かに夏樹を捉えた。
鋼鉄の爪の先には夏樹の衣類を引き裂いた後がしっかりと残っていた。
しかし肝心の手応えがまるでなかった。
どこかどこかと探し回る人型兵器に向かって、
「ここですよ!」
頭上から声が掛けられた。
顔を上げると夏樹が高く飛び上がっていた。
夏樹を認識し爪を振りかざす構えを取るが、
「そんな物では当てれませんよ!」
気が付けば人型兵器のマニピュレーターが破壊された。
認識システムが破壊された人型兵器はその衝撃とダメージによって行動を停止した。
「まず一体…」
強烈な蹴りを空中で与えた後、まるで舞い降りるように地面に着地する。
夏樹を要注視した人型の兵器達は叶破をマークする。
接近戦に強い夏樹を見て爪を仕舞い込み、代わりに腕部搭載型のマシンピストルを出現させる。
それを一斉に叶破に向けて射撃する。
バババババババババババババババババババッ!
小型ながらも耳を劈く様な連射性と、普通の能力者であれば簡単に制圧できる威力を兼ね備えた小型のマガジンは空になるまで打ち尽くされた。
叶破の居た位置には大きな砂煙が巻き上がり、彼の状態を確認するのには時間を要した。
しかし換気のきいた空間では、すぐに煙が晴れその姿を視認できるようになれる。
そこには、強力な能力覚醒によって全ての弾丸を宙で止めていた叶破がいた。
「もう終わりかい?この程度じゃあ俺は倒せないよ」
叶破のオーラが意思に従うことにより、無数の弾丸が操られている。
無効化されているにも関わらず人型兵器達は尚も一斉射撃を繰り返していた。
「じゃあ俺も、君達と撃ち合いをするとしようか」
そう言って、叶破のオーラが戦慄をあげる。
宙で止められていた弾は再び動き始め、叶破に向かって放たれた方向の逆方向…すなわち人型兵器達に向かって飛んでいく。
次から次へと、弾が跳ね返り人型兵器を仕留めていく。
全弾を返したところで夏樹がその光景を目の当たりして驚く。
「すごい、撃って来た弾を全て跳ね返した!?」
その言葉を聞いた叶破は振り向き、
「それは違うよ夏樹君、俺の能力は重力波、物体を跳ね返す力など無いさ、今のは物体を逆転させたんだ」
重力を操る事によって、一時的に弾丸の動きを止めて押し返したのだ。
「扱い方によっては、こういう事だって出来るしね」
そういって叶破が重力の球体を作り出し、低出力のレーザー剣を携えて向かってくる人型兵器に向かって放つ。
突撃態勢にあった人型兵器は当然避けることはできず…
ドッゴーン!!
重力球に接触すると一瞬にして吹っ飛んだ。
余りの破壊力に建物に白煙が舞う。
後方で射撃支援に当たろうとしていたもう一体の人型兵器は、その凄まじさに驚きすぎていて、その煙の中から夏樹が飛び出してくるのに気付くのに遅れる。
慌てて腕部搭載型のマシンピストルを構えて、その銃口から火を吹かせるがすんでの所で全てかわされてしまう。
「はあぁ!」
一気に踏み込み、飛び蹴りを顔面に浴びせる。
勢いと加速をつけた一撃に、抵抗することなく倒れる。
「4体目!」
それからというもの、圧倒的な数で攻めてきたにも関わらず夏樹と叶破の攻防一体の絶妙なコンビネーションによって人型兵器の軍勢は数分で壊滅したのだった。
少数ながらも善之の方にも何体か攻めてきており、彼の前にも幾つかの人型兵器の残骸があった。
それを見た叶破は善之も強い存在であると再認識した。
「はぁ…ここが目的の場所か?」
奥へ進むに連れて、人型兵器は何かを守るように何度も夏樹達の前に立ちはだかってきたが、それらを全て薙ぎ倒し、たどり着いた先は進行時には無かった一際大きな扉だった。
「ここが親玉のいる場所かな?」
「恐らく…サイボーグ達なんかとは比べ物にならないオーラがこの奥にいる」
「気を引き締めましょう、何か嫌な予感がします」
夏樹に続き叶破、善之が扉の脇に二手に別れる。
「それじゃ開けるぞ…」
夏樹がゆっくりと扉のハンドルを握る。
この先に待つ未知なる敵を前にと、ゴクリ!と喉を鳴らす。
「せーの…!」
掛け声と共にハンドルを一気に下ろし、扉を押す!
そこで見えたのは二人の影。
一人は叶破の言う、ミハイル:ウィスキーンなのだろう。
そしてもう一人…長い髪に整った顔立ち、男性とは思えない容姿の姿を見て夏樹と善之は驚愕する。
「ベロニカ…ルーツ!?」
彼が地球政府代表と面談していたのだった。




