5-1 新米能力者、北澤:結愛の実力
「勘弁して欲しいものだね」
能力界の城内、グラース城の謁見の場で新たな任を受けていた月見里:準人は能力界の長にその言葉を向けた。
「一体どういう目的で、僕がまたアイツ等に会わないといけないのかな?」
「既に決定事項だ、文句は許さんぞ準人!」
準人の問いに能力界の長、羽塚:滋(はづか:しげる)は権力を持って言葉を遮った。
彼はこの能力界を統べる者として絶対的権力を持っていた。
準人は彼の従兄弟であり同じ能力者とて命令しやすかった。
「はいはい分かりましたよ!で、滋兄が言ってたオトモってのは誰なのかな?」
準人が両腕を後頭部に回して聞くと滋はフッと鼻で笑う。
「すぐ後ろにいるだろ、気付かないのか?」
言われて直様後ろに振り返る。
そこには眩しいような黄色く長い髪の者がいた。
「うわぁ!」
唇が触れそうなくらいまで近い距離に思わず驚き一歩後退る。
「北澤:結愛(きたざわ:ゆいあ)と言います。よろしくお願いします」
堅物なイメージが強い女性だった。
歳は20代くらいか、身長は170cmくらいで準人の頭1個と半分ほど大きい。
「君がオトモ?女の子だとは思わなかったな~、ま、足だけは引っ張らないようにね」
興味無さそうに謁見の場を離れる。
準人からしてみれば老若男女は特に関係ないが実力さえあればオトモは誰でも良かった。
その点、結愛を一目見て、
(はぁ~、どうせまた補充のオトモを掴まされたな…)
と頭を悩ませるのだった。
能力界/大森林
今回受けた任務は人間の世界にこれまで感じたことのないオーラの正体を確認することだった。
そして可能であればそのオーラの所有者を殲滅、或は連れ帰るという任だった。
正体不明のオーラといえば、前回も同様の任を受けた。その時は金聖輝という少女のオーラを追求するという任務だったが、あれは大した力ではなかったため途中で人間界の能力者を始末するという任に変更したが、今回の正体不明なオーラは強大であるために準人と死亡した東藤:斌(とうどう:たけし)の補充人員として結愛と組むことになったのだった。
(果たして、実力は如何程のものなのかな…?)
斌でさえ油断も多く人間界の能力者にしてやられてしまった。
ましてや結愛は女性。
準人は全くアテになどしていなかった。
だが、ぶっつけ本番の実戦とはいえ囮くらいには使えるだろうという考えの元、一度どれほどの実力を持つのかを知る必要があった。
「よし、少し腕試しと行こうか!」
「はい?」
突然の掛け声に結愛は首を横にひねる。
「君の実力が知りたい、人間界に踏み込めば周りを観察する前に戦闘に入ることもあるからね」
そう言って準人は結愛に仁王立ちして構える。
本当の事実は度重なる人間界への侵入によって地球軍が警戒網を貼っているということなのだが、踏み込む場所は準人にもわからず最悪の場合は地球軍の警戒網のド真ん中に転移したことがあるのだ。
もし今回もそうなってしまえば、そこから脱するのは少々面倒なこと。
そこで結愛の実力を知り、囮として上手く扱える方法を模擬戦を行って学び、切り捨てる為だった。
「模擬戦闘だけど全力でかかってきてよ、信頼できるパートナーは背中を預けれるほどの実力を持っていないと成り立たない…そうだろう?」
「分かりました、では…お願いします!」
準人の頼みを承諾すると一礼し結愛は左手を平にして前にだし、右手を空に向けて平にして構える。
(また珍しい構え方だな、なんとか拳法ってやつかな?)
結愛の構え方に少し準人は期待してみる。
「いきますっ!」
一声すると結愛の姿が消える。
(速い!でも眼で捉えれる)
回り込むように見せかけて正面から迫って来る。
準人は右腕を前にして構えた。
パシィッ!
結愛の平手の打ちが準人のガードを弾く!
「くっ、中々強い!」
ダメージは抑えれたが打たれた衝撃までは抑えれず後ろに押される。
(女性でこの力はかなりのものだ、一体どこでこんな…!?)
思いを広げている間もなく、次の一手が迫ろうとしていた。
ものすごい勢いと、一撃。
素の状態でこの実力ならば覚醒能力を用いれば、どれほどの猛者に化けるのか?
「面白いじゃないか、久しぶりに全力で相手ができそうだね」
準人の闘志に火がついた。
プシュケーを体内に蓄積させ準人の全身を包む様に展開する。
「楽しませてもらうよ!」
一瞬の内に駆け出し結愛に迫る。
「お相手、よろしくお願いします」
同じように結愛も距離を詰める。
「勝負だ!」
双方全力を込めた一撃が相まみえさせる。
強者同士のプシュケーがぶつかり合って衝撃波によって大森林を凪ぐ様に風圧を起こす。
大地は荒れ、一区画の緑は消し飛んだ場に二人はいた。
互の力を知り合い、腕節の強さを確かめ合う。
物理的な力の差は性別の違いを感じさせないものだった。
「やるね」「やりますね」
同時に発した言葉と共にお互いに距離をとる。
しかしこの二人はまだ秘めたる力を解放してはいない。
拳のぶつけ合いは只の座興。
これから起こりうる激闘の前の試し合いとこの区域を生息とする野生生物達を逃がすという他者に干渉されないやり方だった。
「それじゃあそろそろ…」
「お互い本気を出しましょう」
準人そして結愛のプシュケーが解放され、巨大な力場が二つ二人を中心にできる。
お互いに見合いながらどう動くかを検討し合う中、先に動き出したのは準人だった。
「どんな攻撃をするのかわからない…だけど隙を見せなければ奥の手なんて出さないだろう?」
準人は剛脚を大振りな一撃として繰り出す。
普段ならすぐにでも首にぶつけ衝撃でそのまま骨ごと曲げることもできるが…
準人は結愛の能力がどの様なものなのかが知りたかった。
ワザと簡単によけられるような攻撃をしつつ自らを隙だらけにしてみせたのだ。
(さあ、隙は作ってあげたよ…君の能力どんなものか見せてもらうよ)
いともたやすく結愛は回避し、プシュケーを込めた腕を地面に付ける。
その行動を終始目の当たりにしていた準人はその目を疑った。
(あの構え方は!?)
準人が危険を直感するコンマ数秒前に彼の回りから無数の腕が現れた。
「ちっ!」
すぐさま準人は飛び上がると足元からも腕が出現する。
結愛の能力に確信を持った準人はプシュケーをフルに展開する。
出現した腕の指先にうまく着地し即座に次の腕の指先に飛び移るのを繰り返し結愛に少しずつ距離を詰めていく。
「お見事です、指先から指先に移る人など今までにない行動です」
準人の足捌きに感心する結愛だが彼女の能力は自らの身動きが取れ無くなる能力だと準人は知っている為、
「感心している場合じゃないよ、僕の接近を許せば君は忽ち敗北なんだよ」
忠告するが最早今更能力を止めた所で準人は彼女に命中させれる事も確信していた。
だが、
「さあ、どうでしょうか?」
結愛には余裕の笑みが浮かんでいた。
(愚かな…)
やはり足手まといと準人は見損ないながらプシュケーを足に集中させ剛脚を放つ準備をする。
先程とはちがい威力はそのままに素早く繰り出せる一撃だ。
手加減する意志も無い彼の攻撃を食らえば、男性でさえも運が悪ければ永眠させれてしまうのだ。
とても結愛に耐えられるはずがない。
しかし結愛の能力は既に解かれていた。
同時に後ろに飛び退き準人の剛脚を見事に避けてみせたのだった。




