4-7 氷上の激闘
氷界/氷上地丘
初音達が辿り着いたのは氷でできた丘の中腹の辺りだった。
「ここが氷の世界…なんて綺麗、で冷たい世界なの?」
空気は雪粒を含み、氷上の地面はきらびやかな輝きを見せながら滑ることのない大地を形作っていた。
「まだ緑が残っていた頃には魔導境界が住んでいた記録もあるけど…」
「こんな寒さでは凍死は間違いありませんね」
黒葉の呟きに善之が言葉を返す。
「今がどういう変化を起こしているのかは見てみないとわからないからな、先に進んでみないと」
「夏樹の言うとおりね、行きましょう氷の大地の先へ」
初音の合図に一行が移動を開始しようとしたその時
「殺気!?既に何かが近付いてきている。気をつけて、もう敵が何処かに…」
言いかけて黒葉は駆け出していた。
黒葉には見えていた、視線の先に吹雪に紛れて接近してくる白体の猛獣が!
「うわぁ!?」
ガサッ!
赤光る眼は夏樹を目掛けて飛び掛かっていた。
その小さな体で夏樹を突き飛ばし、自らが猛獣の捕食対象になった。
「な、黒葉」
ガリガリと肉がえぐられ半透明な氷の床に鮮血を滴らせる。
黒葉は一瞬にして仕留められた。
「なんですか、こいつは!?」
夏樹はオーラを循環させ接近する。
生きている保証は無いにしろ黒葉を助けなければ!
(恐竜?いや、しかし現代でも生きているモノなの?)
果敢に立ち向かっていく夏樹をみながら初音は黒葉を今もなお、捕食している白体の生物を観察する。
鳥竜にも似た形態に真っ白な身体、その身体に波打つような水色の模様、トサカとおもしきものは角のように尖っている。
「初音様!」
その時、善之の声が響く。
振り向くと、善之が正反対の方向に指差していた。
その方を見ると、赤光る眼が二つ。
「まさか…きゃあ!」
バシッ!
不意に飛び掛かってくるも、反射的に右足の蹴りを白体の恐竜の顔面に入れていた。
クギャアアアァッ!
蹴られた怒りなのか甲高い咆哮を上げ、オーラを纏う。
「ウソ!!覚醒能力まで使えるの?」
循環させたオーラが口内に収束し青白い光を発する。
「まずい、夏樹様!避けてください。間接能力攻撃です」
善之がいち早く叫びかけ、それに夏樹が応答する。
「ん?…はっ!?」
振り向いた矢先、もう一体の恐竜がいることを知る。
「ちっ!」
しかし善之の掛け声を無視し目の前の恐竜に応戦する。
「夏樹様、危険です!早くその場から離れて!」
善之の忠告が言い終わると同時に恐竜が口から青白い光を吐き出した。
放たれた光は光線となって直線上に夏樹を目掛けて向かっていく!
「夏樹!?」
初音がまた無茶をしようとしている夏樹に恐怖を覚えようとした時!
サッと夏樹の姿が消えた。
「なっ!」
「速い!」
善之と初音、二人が同時に驚く。
二人はそうだが白体の恐竜は驚くことなく、光線の出力を高め地平線の果てまで飛ばす。
避けられていることを知っている恐竜だったが周囲を見渡しても一向に姿を見せない。
「夏樹様どうしました?」
善之も一緒になって見渡す。
とその時。
ビキッ!
恐竜の足元、氷の床に皹が入り。
ドボーッ!
山の様にもりあがって割れ、恐竜が氷の海に落ちた。
クギャアアアッ!
唐突の出来事に恐竜も慌てふためいていた。
が、即座に次に驚くことが起こった。
クギャアアアアーッ!!
恐竜の身体が突然激しくもがきうごめいたかと思うと、その身体がただ浮くだけになっていた。
そして零度の海から夏樹が姿を見せた。
その瞳には雷の力を宿すかのように黄色く変化していた。
「なんとか一匹は始末できたか」
雷尾線という名の能力で恐竜を感電死させていた。
レアがとり憑いていたことによって、雷の魔力を得ていたのだ。
漸く能力を使えるようになったのに…
初が魔術という事に初音は納得がいかなかった。
「初音様もう一匹が来ます」
善之の声に初音は恐竜を見据える。
「こいつは私がやるわ、善之と夏樹は黒葉を連れて逃げて!」
「わかりました」
そういって善之が夏樹の方に向かっていく。
その頃、夏樹は氷の海から上陸した所だった。
服は勿論の事、全身びっしょりで非常に身体が重そうだった。
しかし学を獲得した夏樹の体はそんな重量感をものともせず自由がきいていた。
同時に彼の瞳には初音と迫ってくる恐竜の姿を捉えていた。
「くっ!」
恐竜に対してハンデを与えてしまっている初音。
氷界の低温によって炎を操るプネウマが弱体化しつつある状況は初音にとって絶体絶命にも等しかった。
(接近戦で恐竜に当てるのは難しい、それに炎はかなり弱くなってしまって意味はない、どうしたら…)
考えを張り巡らせている間さえも恐竜はどんどん接近してくる。
(こうなったらいちかばちか、全身に巡るプネウマを集中させて…)
頭の中でバラバラのパズルを組立て出来上がった光景をイメージさせる。
そしてその光景になるように初音は全身を巡っているプネウマを右腕に集中させた。
「これで決めるしかないわね!」
炎を操る能力者である初音の左腕からは、強力な電撃を発する光体を出現させた。
それを夏樹を介抱していた善之は見て驚いた。
「あ、あれは電!まさか初音様はオーラの属性変化を!?」
介抱する腕を止め夏樹は再び初音の方を見る。
初音の現在の状態、炎のプネウマを雷のプネウマへと変化させ左腕から体外に放出し発光させていた。
「いやそれだけじゃない。元々ある炎のプネウマを完全に雷のプネウマに書き換えている、今の初音は炎を操る力を捨て雷のプネウマを操る能力者に変わっている」
善之に介抱されながら夏樹が独り言の様に呟く。
「これで決めるわ…何が何でも!!」
そう言って初音は恐竜に立ち向かっていく。
不完全な属性変化を無理に起こしてまでもこの状況を打破しなければならなかったのだから。




