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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
3章 地球政府代表の新任
30/58

3-3 水中型融合獣

「あの、さきほどはありがとうございました」

藍は頭を下げる。

「いや、それよりもすまない。君の班は君以外全員…」

焚火を囲み、飯盒で炊いた御飯を摘みながら千博は顔を低くする。

「いいえ、それでも貴方は必死になって助けてくださいました。それだけで十分ですよ」

藍は笑っていた、千博を励ますようにして…

彼女の笑顔は千博を元気づけるのに十分だった。

二人の間で何かができようとした時それは起こった。

突如として、大海原に嵐が巻き起こり、千博達のいる島を取り囲む様に迫ってきた。

「なんだ!?」

千博は驚きの声を上げた。

嵐は島に流れ込む潮から現れている。

どうやらそれ以上は近付く事はできないようで、千博達を襲う事はないようだ。

しかしこれでは船に乗船することは愚か、脱出することは不可能だ。

これも異形の生物の仕業とすれば、本体はこの島にいるのだろう。

だとすれば、それは…

「この場ですか!?」

善之の放った言葉、それはこの島こそが目的の生物である事を示していた。

その直後!島全体が揺れる。

「ビンゴのようだ…くるぞ!!」

不意に森林に隠れたところから巨大な首が迫る。

大口を開けている、その姿から、島ごと千博達を食すつもりなのだろう。

だが、善之が気付いた事によって三人、だけは逃れることができた。

島亀…一つの島の様に巨大な亀の事、海上で過ごすが潜水する事はなく、島の様にじっとして生活する。

やはり、核汚染によって、首の伸縮性が異常発達し、軟体的な亀とかしているようだった。

千博、藍、善之が避け、その首が一気に通り過ぎる。

他の者は船長も含め全て森ごと食われてしまう。

幾つか隊がいた場所には、血の跡が残っていた。

恐らく気付いた者もいたが、逃げ遅れてしまったのだろう…。

「島全体が覚醒生物だ。気をつけろ!」

千博が発した言葉に、善之と藍が構える。

ここまで長い首を持つということは、尾も長いのだろう…千博がそう判断したとき、対峙している覚醒生物は東西南北の四神、北西を差す五獣、玄武と酷似している。

しかし、陸の活動能力も持つ玄武が島亀と化している状態、稀に見られる覚醒生物間の融合が起こっていると推測する。

(あの伸縮速度、何もかもを飲み込む咀嚼性…玄武を起点として、頬白鮫、鼈、沙羅曼蛇、等が融合しているようだな)

首の動きから、特徴を観察する。

鮫肌のある首、伸縮性、蠢く無人島。

水棲生物の凡ゆる利点を余す所無く取り込んでいるのだった。

「掠っただけでも、あの鮫肌が致命傷にしてしまいます。お二方共、気をつけてください!」

善之が、二人に小型の刃物を渡す。

鉄の刃程度では物理的なダメージが通用しないのは分かっているが、何かと扱えるのがこの刃物だ。

「十徳ナイフ?」

藍はそのナイフに驚く。

逆に千博は彼女がナイフを知っていることに驚いた。

やはり地球軍のエリートと呼ばれているだけあって、銃刀類の扱いは心得ているらしい。

「高級ステンレス材質の刃だ。物質にオーラを通す方法は心得ているな?」

「勿論ですわ」

華奢な外見に見合わない姿からは想像もつかなく、いち早くナイフを抜刀して構える。

「また経費がなくなるが仕方ないな…行くぞ!!」

千博の掛け声と意味深い言葉と共に、三人が散開する。

その直後に島亀の尾が現れ、各個を襲撃する。

叩きつけようと、振り下ろすも目標の小ささとすばしっこさに、翻弄されつつも狙われた藍に何度も尾を向ける。

一番弱いと、独断で判断した島亀に小さな反撃が返される。

「それでは私には当てれませんわ!くらいなさい!!」

再び尾の叩きつけを避けたかと思うと、藍は十徳ナイフにオーラを通して投げる。

コーティング材の役割を担うオーラを持った刃は島亀のオーラ壁を容易に貫き、刺々しい鮫肌に見事に突き刺さる。

その途端、そのナイフが爆発を起こした。

過去に同じような構造で作られた物だった。

火薬を詰め込んだナイフだと、藍が気付いたのはオーラを込める時だった。

おそらく過去に生産されたものより爆発力は強力なもので、爆発の規模から見てC4クラスはあるだろう。

しかし、そんな火力を持ってしても島亀にはそれほど大したダメージを与えているようには見られないようだった。

それどころか、爆発の影響で全身を覆う鮫肌という重りが脆くなった事によって軽量化を生み、先程よりも勢いのある叩きつけを繰り出してくることになる。

俊敏な一撃をギリギリでかわすところは、彼女の反射神経が見せた神業だった。

「藍、離れていろ!!」

千博が咄嗟に現れ、十徳ナイフを投げる。

それに続いて現れた善之も同じように投げる。

二つのナイフは、どちらも藍が爆破した尾の部分に突き刺さると爆発を起こす。

巨大な尾は大きな空洞を開き、人がはいれるようなサイズにまで広がっていた。

「どうやら、こいつは能力界特有の生物の様だ。半機械化したこの亀は覚醒生物ではないそうだ」

千博が、事の事情を語るとそれに続いて善之が説明に入る。

「この亀は、核汚染によって変異した亀などではありません。人為的に更に生物の特徴も持たせた半分が生物で半分が機械化している生き物なんです、おそらく能力界の産物でしょう。地球の技術では覚醒生物を捕獲することはできません、そこで内部破壊を起こすことを決断しました。外部からの破壊では完全に破壊するのには時間がかかりますし、何よりそんな武器がありません。急ぎましょう、もう巨大亀は再生に入っています」

説明を受けると、三人は巨大亀の体内へと侵入していった。

それから程なくして、亀の尾は完全に破壊された尾を再生させてしまい、千博達の脱出経路はすぐさま閉ざされてしまったのだった。


島亀の体内/鞴胃路

千博は島亀の奇襲の原因は島亀本体ではなく別の場所からだと推測していた。

その最初の原点として目をつけたのが、今いる鞴胃路と呼ばれる島亀の体内だ。

巨大故に消化液の放出量も多く侵攻は困難だが、近付く程にその奥にいるオーラの反応が強まっている事がわかる。

「近いな…もうすぐ奇襲の原因にたどり着くだろう。構えておけ」

千博の放った言葉、奇襲の原因、それはやはり覚醒能力者なのだろう。

生物の体内で生活できる種は今日まで発見されていない。

仮に新種だとしても、覚醒生物は体型が大型な種が多いため原因が覚醒生物というのはまず有り得ない。

だとすれば、島亀をも手懐けてしまうほどの覚醒能力者、能力界の住人の仕業だと思われる。

相手は強大だと見て問題ないだろう。

逆にそのような者と対峙できることに千博は期待をしていた。

そして胃路の奥底で立ち尽くす者を見たとき、三人はフォーメーションを取った。

存在感を強く主張し、今尚その者は立ち尽くし続けていた。

「よく、ここがわかりましたね」

その者は高いような、それでいて低い声を発した。

声帯が男女の判断を難しくさせるように、その姿でさえも判別は愚か、グロテスクに見て取れた。

左半身が女性で、右半身が男性の顔付きをしていたのだ。

それでいて、色とりどりな暗めの色のシャツ、Gパンとアンバランスな格好に加え、髪型はより性別の判断を難しくさせるように微妙なバランスで統一している。

恐らく、目の前の少年とも少女ともとれないその者は、人間ではないのだろう。

「なるほど…玄武がキマイラなら、その傀儡師もキマイラという事か」

千博は島亀と、目の前の人ならざる者の正体に見切りをつけた。

キマイラ…ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持つ、ギリシャ神話に現れる伝説の聖獣。

しかし神聖視されてはいるものの、その行動は悪魔そのものとされる。

その代表格が、今の目の前の者だ。

島亀の酸液を浴びているからか、その身体は半分溶けかかっており、それがより一層不気味さを露にしている。

「コイツが本体なら、島亀もコアを失くし絶命するだろう…行くぞ!」

約300人はいた地球軍のエリート達はこの生物によって壊滅した。

その仇を討つべく、三人は怒りに業を煮やし問答無用で襲撃するのだった。

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