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二人二声之影Ⅱ外伝 scarlet mystery   作者: LAR
2章 アフリカ軍との共同戦線
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2-8 実力行使

準人が具現化したモノ、それは今回の任務の目的の相手だった。

岩盤にプシュケーが集まり、具現化すると、巨大な鎌が二つできる。

すると、岩盤は急に動き出し、その姿を表に晒す。

石のような姿とは裏腹に大人しい種族であるはずの彼らが能力界の人間に使役されていたのである。

「マンティス・シャフラワース!?彼等に使役されていたのね!」

初音は今回の内容に些かの疑問は感じていたが、ようやくその謎が解ける。

「ザンギラスと違って、マンティス・シャフラワースは能力界の瘴気には耐えれない。だから能力の人達が愛護団体を集って、この世界に逃がしているけど。あなた達はそんな団体でもなんでもない屠殺者」

初音の言っていることは、この世界に逃がす代わりに使役という形で従わせることなのだろう。

マンティス・シャフラワースのオーラはザンギラス時に比べると格段に弱く、能力界に満ちる瘴気に耐えうる程の強さはなく、棲息しているだけで死んで行くのだ。

よって愛護団体を近年形成したと言われるが、棲息範囲の広い彼等が屠殺者に飼われても何らおかしいことではない。

扱い方次第では地球での残忍な殺戮兵器にすることだってできる。

今回の任務はそれを踏まえての事だったのだろう。

だが、同時に絶滅危惧種に指定されていることもあり、初音にとって目の前のマンティス・シャフラワースを仕留めるのには大きな抵抗感を抱いていた。

「僕はコイツを使役するだけで手いっぱいだ、コイツを倒せれば僕は無力になる。さあ、君に相手が務まるかな?」

自信ありげに準人は、マンティス・シャフラワースを操ることに集中する。

「全力で戦うことをオススメするよ、コイツはもう普通のマンティス・シャフラワースじゃない。殺すことでしか正気が保てないように改良したからね」

準人のプシュケーがマンティス・シャフラワースに伝わる。

その瞬間、巨大な六肢で近づいてくる。

地面が砂であるのにも関わらず、軽快に駆け寄る。

「早い!」

初音は、距離を離そうと後退するがマンティス・シャフラワースの巨大もあって、引き離すことができない。

寧ろ徐々に至近距離に連れ、その鎌が黒光りし始める。

「殺られる!?」

初音がそう思った瞬間、巨大な鎌が空を切った。

ブシャーッ!


一方、夏樹、赤城、金聖輝はというと、屠殺者の一人、斌に追われていた。

「オラァー!!テメェーラァ!!!逃げるんじゃねー、正々堂々と戦いやがれー!!」

広い砂漠地帯で、甲高い声が響く。

三人には余力が残っているため、斌から距離を大きく離す事がてきた。

なのにその大きな声は、すぐ隣にいるかのような感覚を覚えさせる。

「くっ!、しつこいな…」

夏樹が走りながら後ろを振り返り、斌との距離を測り見る。

僅かだが、少しずつ距離は詰められている。

追いつかれるのは時間の問題だ。

だとすれば、やることは一つだった。

キキー!とブレーキをかけるように、スリップを利用して、夏樹が斌に向く。

それを見て斌は、

「やっとやる気になったか、その度胸だけは褒めてやるか」

と、その場で足を止める。

「夏樹さん!」

夏樹の背後から赤城の声が聞こえてくる。

「赤城さんと、金聖輝さんは逃げてください!ここは俺がなんとか食い止めます!!」

夏樹が構えるが斌はというと、

「威勢がいいな。俺を止めるとは…気に入ったぜ!力は同じにしてやるよ」

そう言った斌はプシュケーを夏樹のオーラと同等の強さより僅かに上くらいで抑え構える。

かなり弱めた為か先程の足捌きと違い、構えに動かす腕はゆったりとしていた。

見ての通り、完全に舐められていた。

「おい、逃げろって言ってくれてるんだ!さっさと逃げてやれよ!!」

斌は赤城と金聖輝に向かってそんな言葉を吐いた。

それを聞いた二人は、一度、夏樹を見ると、砂塵の吹く砂漠の中へと消えていく。

「やっと邪魔は消えたな、さあ~殺し合おうじゃねえか?せいぜい楽しませてくれよ」

最早夏樹と早くおっぱじめたいがために、二人を何処かにやりたかっただけのようだった。

迷いのない動きで夏樹に突っかかってくる。

「まずは一発、浴びてもらうぜ!こんなんでへばるなよ!?」

抑えたプシュケーであっても、その速さはさほど変わらず、夏樹にはギリギリ捉えられるくらいだった。

(早い!だが…)

夏樹にも迷いはなかった。

赤城と金聖輝がいないおかげで、少なくとも屠殺者の二人には襲われないだろうという確信があったからである。

斌の一撃を受け流し、逆に腹部に遠心力のついた蹴りをお見舞いする。

ドボッ!と鍛え上げられた体に、強い弾力を感じ、そのままオーラを伝えて蹴り飛ばす。

「うおっ…」

よけられるとは思わず、斌は一瞬戸惑い、その間に受けた腹部の一撃に吹き飛ぶ。

破壊力重視の蹴りを浴びた大男は、そのまましばらく飛んでいくが、やがては砂に落ちる。

「手応えがない…外れた」

飛ばしていながらも夏樹は直前で分かった。

効いていない。

痛そうな、苦しそうな表情はフリだ。

そう確信していた。

案の定、斌は夏樹が予想していたよりも早く起き上がる。

「内部式のオーラか、こりゃちと厄介なタイプだな」

険しい表情を浮かべるが、白々し過ぎる。

夏樹はその仕草に無性に腹が立ってくる。

「フリはやめろ!デカイだけの駄男(だお)が!」

オーラが全身をめぐり、一気に距離を詰め、渾身の拳を顔面から腹部へと連なってぶつけていく。

「ぐっ!!」

顔面であろうが、腹部であろうが、効いている様子はないものの、怯んでいるフリをしている演出がさらに夏樹の怒りを奮い立たせた。

「この!」

爆発寸前になると、怒りを抑えて少し屈め、拳にオーラを集中させる。

「その態度をやめろーっ!!!」

声を発すると同時に正拳突を入れた。

「ぐっ…ごばあぁぁーっ!!」

吐血し、先程よりも遠くに吹き飛ぶ斌。

砂に落ち、大の字で暫く伸びていた。

「はぁーはぁーはぁー…」

久しぶりに全力を出したのか、夏樹は全身で息をしていた。

「ふざけないで、ちゃんと戦ってください!いらぬそぶりは逆に命取りですよ」

そう言って、プシュケーが感じ取れなくなった斌を背に、赤城と金聖輝を探そうとした時。

「…!」

その背に、巨体の気配を感じた。

怒気と殺意の混じったモノも一緒に、

思い切って振り返った途端。

ドゴーッ!

強烈なフックが飛び、夏樹は顎に直撃する。

「うああーっ!」

衝撃と威力に吹き飛ぶ。

「ガキが!人が態々、力を抑えてやっていれば調子に乗りやがって!!」

夏樹が砂に落ちる。

「オラァ立ち上がりやがれ!不意付いた一撃如きで倒れるようなオーラには見えねぇぞ!!」

怒気のこもった声に、夏樹は起き上がる。

完全に読まれている。

夏樹はこのまま伸びているふりをして彼を遠ざけるつもりだったが、生憎先程の夏樹の攻撃で斌の逆鱗に触れてしまったらしい。

誤魔化す事は愚か、逆に火に油を注ぐ結果となってしまったようだ。

「大人しくパーティーさせてくれりゃ半殺しで許してやろうと思ったが、気が変わったぜ。ブッ殺してやらぁ…」

斌の全身からプシュケーが止めど無く満ちる。

「いいか!?冥土の土産に俺の能力を見せてやる!!」

プシュケーが、両腕に集まり刺の様に覆う。

「嘗て、トゲグローブなる物が人間の世界にはあったと聞くが、俺のは一味違うんだろうな…」

プシュケーを見事なまでに両腕だけに集中させて、グローブの様に具現化し、ボクサーの様な構えを取る。

「デュアクレイン・ライジンググローブ」

具現化したそれは斌の腕にグローブの様に形作っていたものの、その先からは、刃物の様なものが突き出ていた。

「掠りでもすれば、致命傷になりかねないだろうな…覚悟しな!!」

そう言った途端、斌の姿が一瞬にして夏樹の視界から消える。

先程までとはうって変わったような恐ろしい俊敏性。

夏樹のオーラでは、斌が一体どこに向かって駆けたのかさえわからない。

「どこ…からだ?」

夏樹は神経を研ぎ澄ますために目を閉じる。

初音との実践訓練の中で得たものを用いる。

姿が見えない敵に対しては感覚で探し出せ、と、

「そこだ!!」

微々たるプシュケーを感知し、左足を一度捻って後ろから右足のある方向にまで動かす。

遠心力を利用して威力を底上げする回し蹴りだった。

斌の向かってくる方向は先程の夏樹から右側。

間合いも位置も完璧だったが…

バキンッ!

傷ついたのは夏樹の方なのだった。

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