2-3 姉妹達の宿命
初音が吹き飛ぶ中、次第に威力は落ちてゆき。
バフッと砂のクッションに埋もれた。
しかし、攻勢の手を緩めず16は光の剣を持ち構え初音のいるところへと駆けていく。
だが、16の体は非常に重い質なのか、思う様に身動きが取れないようだ。
それを潮時と見て、夏樹は特攻をかける。
「うあぁぁぁー!!」
ラー家に対抗できるほどの強さを持つ夏樹であれば初音と違って目の前の巨体と対等に戦えるはず。
だったのだが…
接近と同時に、16は夏樹が来ることを予想していたのか、光剣を一気に振り下ろしてきた。
ズビイィン!
間合いは十分に取れていたが、間一髪のところで夏樹は身を翻し頬に切れ込みを入れられたくらいですんだ。
そのまま地面に倒れこむ。
「ザコが!人間風情が私の相手になると思っているのか?」
右腕に光剣を構えていることから予想できたはずなのに、16は左腕の構造を変化させ、指が砲塔と化す。
そして5連装の銃口から砲弾が放たれる。
距離はこの武装から見てゼロ距離だろう。
「散りと化すがいい!!死ね!」
細めの指型の銃口から放たれた砲弾は、小型ながらも爆発性の高いグレネードだった。
ポスッ!
ドッゴーン!
砂塗れの砂漠に着弾すると、一気に爆発を起こす。
可燃性もあるようでしばらく、砂漠の上で炎上する。
「まずは一匹といったところか…」
指の銃口を皮膚に戻し、再び初音を襲おうと、足を動かそうとした瞬間。
ドバシィーッ!
砂煙の巻き起こる視界から夏樹のドロップキックが16の左頬に炸裂する。
「どうだ!?」
頬に入れた一撃で首がボキボキと鳴る音がするが、16はひるまず夏樹の足を左腕で掴む。
その力は強く、空中で横になっている体勢のまま夏樹は拘束された。
「人間にしてはやるじゃないのさ、だけど妹の言ってたことが聞こえてなかったのかい?」
16は掴んだ夏樹の足をブンブンと振り回し、砂まみれの地面に叩きつける。
「うぁあっ!」
サラサラの砂のクッションだというのに、投げつけられた衝撃が夏樹自身の意識を飛ばすほど大きかった。
戦闘不能なのは16からも目に見えていたが、
「あたいはラー家16番目の娘、その程度じゃ傷すら付けれないんだよ!」
エナジー・サージェスを振りかざし、その刃によって夏樹を貫こうとすると、
「だめえぇぇーっ!」
そこへ、砂にうもれていた初音が、一気に16との距離を詰めてかかる。
腰部に掴みかかり、全身のプネウマを重力に変換する。
「うはっ!」
その重さに支えきれず共に砂に倒れる。
「もうやめてよ。こんなことで罪を重ねるのは!」
重力に変換したプネウマを今度は握力に持ち越し、16に殴りかかる。
ドゴッ!
バキッ!
握力の補助力と化した拳の連続に16は先ほどの夏樹のドロップキック以上に首のあたりがボキボキと音が鳴る。
しかし、半べそをかく初音の拳の連続は感覚が空きすぎているために、弱々しくダメージはさほど受けている様子はなかった。
「もう…もうやめてよぉ、夏樹には怪我させないで…」
遂には涙まで流し拳の連続に動かしていた両腕は顔を覆うのに止まってしまった。
その様子に無機質な体格の16は、しばらく攻撃的な態度を見せることができなかった。
今は敵対しているとはいえ、91人いるラー家の中の75人の妹の一人なのだ。
姉としてそれ以上に酷い事はできないだろう。
「ハッ、あたいもつくづく甘いんだねぇ…」
そんな初音を抱きしめ髪を撫でる。
彼女には守るものがあるという証を、知った16なのだった。
しばらくすると泣きやんだ初音と16は互いに構えていた。
今度は夏樹に手を出さないように、深く釘を刺して置いてある。
元はといえば夏樹が16と初音の戦いに手を出したのが行けないと16に言われたからであった。
「今度手を出せば容赦なく殺す、いいね!?」
そんなことまで言われれば、流石に夏樹も手を出せない。
じりじりと機を伺う二人、お互いにプネウマが満ち、迂闊に加勢しようものなら即座にそれらから殲滅されそうな勢いだ。
「姉妹とはいえ、戦い合うこの宿命は変えられないのさ…。手加減はしないよ!」
言葉が始まりを告げるかのように16が先に攻める。
しかし、同時に初音も動いているのは言うまでもない。
ラー家の特有の能力として常に発生する覚醒壁。
それが二人の衝突とともに、ぶつかり合う。
生半可な能力者ならばそれを見ることさえかなわないが故に、夏樹にはそれが見えず二人が接近し合うだけで何もないところから火花が散るのは見ものだった。
しかし、そんな程度で驚いている暇はなく、すぐさま16の強固な拳が初音を狙って振るわれる。
だが、それは予想していたのかあっさりと初音によけられ、同じように準備していた拳を逆に浴びせる。
バキッと小さな手応え、プネウマを込めてようと16との力の差は大きかった。
肉弾戦に持ち込もうなら、初音に勝ち目はない。
ひるむことなく16が再び拳を、今度は勢い任せに下から振るう。
ボゴッと腹部に入ったとたん初音は痛みとともに湧き上がってきた血を吐く。
「お嬢様!?」
それをみた夏樹は先程言われた言葉を思い出す。
「うごくんじゃないよ!」
一瞬の怯みを逃さない16はそのまま拳を連続を初音に叩き込む。
ボコッ!バキッ!バゴッ!
華奢な彼女には重すぎる一撃を何度も加えていく。
夏樹が見ているのは女性だが、傍から見れば漢の喧嘩総受だろう。
このまま、続けばいくら初音とて、無事では済まない。
これされるのを覚悟で夏樹は飛び出そうという決心を心で悩ませていた。
「オラッオラッオラッ!!」
ドゴッ!ドガッ!!
最早、見ていられないとばかりに夏樹は顔を伏せる。
しかし、そんな彼の耳に思いもよらない言葉が聞こえてきた。
「トドメは楽にしてあげるよ…。ラー家の運命を忘れさせられるように精一杯楽に、ね」
そういって、左腕から5連装のキャノンを換装させたかと思うと、5つの口径を初音の腹部に当てる。
それを見たとき夏樹の中で何かが吹っ切れた。
16に向かって、駆けていく。
「卑怯者ーーっ!!」
いきり立って、接近していくが気付かないフリのように振舞っていた16がすぐさま夏樹の顔元に5連装キャノンを向かせ、
「約束を破るとわかっていたよ。というか、あたいは最初にあんたから殺したかったんでね」
16の罠、それを今知った。
だがもう、手遅れだろう。
腕に仕込まれた引き金を今正に引かれようとしたとき。
スポッ!
突如、初音の後ろに40ミリ程の鉄の塊が地面に着弾した。
その直後!
けたたましい轟音と、激しい光が二人と夏樹を包んだ。
夏樹は、16が弾に気を取れられている間に、地面に身を伏せた。
初音は後ろから聞こえて来る音に耳を痛めたが光は背中によって防がれた。
「ぎゃあああああぁぁーーーー!!」
16は轟音と激しい発光に攻撃の手を完全に止めた。
そのおかげで初音は傷だらけの中、命が助かることとなった。
痛む耳を塞ぐとわかる。
(きっと私の後ろにあるのはライオット弾ね。こんな物を撃って来るってことは…)
スサッスサッスサッスサッ!!
16も気付いた様で、振り返ると、光の影響で残像が一面残る眼を未だに閉じたまま
「ちっ、軍がこられちゃかなわないね。初音、今回はお預けまたどこかで殺り会えるといいわね」
表情は真剣なのに言ってる事がマトモではない。
言い終えると16は、初音を向いたまま全力を込めて高く後ろに飛び上がり、歩きにくい砂を着地してはまた飛びを繰り返して砂塵の霧に姿を消した。
スサッスサッスサッスサッ!!
16が見えなくなると次第に激しい音と光も弱っていき、初音と夏樹に接近してくる者達が見えてくる。
「紅初音さん、羽真宮夏樹さんですね?お待ちしていましたが、砂漠地帯で火花が見えると連絡があり、駆けつけてまいりました」
この暑い環境でも平気で、暑苦しそうな軍服をきた兵隊達が二人の前に現れる。
「・・・中佐がお待ちです、我々も同行いたしますので拠点に参りましょう」
突然舞った砂煙に、誰かの名を呼んだ声は聞こえなかった。
「さあ、我々と共に…」
初音と夏樹は、軍隊へと招待されることとなったのだった。




