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第一章 星の素晴らしさ

 ◇


「ごめんなさい」

「ほんっっっっっっとに恥ずかしかったんだから!」

 先ほどの興奮は収まり、代わりに冬観が鬼の形相で拳を震わせている。

 いや、でも仕方ないだろ? あれほどの物を見ちゃったら冷静でいられるはずがない。

「で、何の用?」

「それがな、お兄ちゃんはとてつもない、なんていうか言葉には言い表せれないものを見てしまったんだ」

「……? なんなの?」

「ま、それはお前も見てみればわかるって!」

 冬観の手を引っ張りあの教室へと向かう『プラネタリウム同好会』素晴らしいじゃないか、俺がもし数年生まれるのが遅かったら一緒に活動したのになぁ……ああ、ここは女子中か、となると俺は女に生まれないといけなかったのか、ちくしょう、現実ってのはいつも厳しいぜ。

「ど、どこに連れて行くの?」

「とりあえず来てみろって、お前腰抜かすぞ」

「へぇ……でも、そっち理科室しか無いんじゃ?」

「13番目の部屋だ」

「?」

 間も無く到着する。さっきの光景をもう一度拝むことができるとはまさに眼福だ。

「括目せよ!」

 引き戸に手をかけるのももどかしいほどで、脳内ではあの光景をリピートし、早く開けろ早く見せろと急かした。そしてようやく勢いよく戸を開けた。

「あ、なになに? またお客さん?」

「……不法侵入者、再来」

 何やらよく響く高い声と、落ち着いたゆっくりな声が耳に入る。

「お、お兄ちゃん? 見せたいものって、こ、こ……これ?」

 冬観がドン引きしてるような、額に青筋浮かべてるような。

 何がおかしいのかと、冬観と同じく教室に入った。するとそこはあの夢のような世界は無く、少女が二人、小さくかわいいおしりをこっちに向けてちょこんと四つん這いになっている。スカートは役割を放棄し、そのせいでパンツという名のホワイトオンリーとホワイトとライトグリーンの規則正しい横縞が見えた。

「堂々と覗きして、この子達のパンツに感動したから私にも見せるって、どういう神経してるかわかんないけど……なんのつもりかな? オニイチャン?」

 冬観は笑顔だった、青筋立てて、目尻をひくつかせて、ギリギリと音が立ちそうなくらい拳を握ってるけど、それでもやっぱり笑顔だ。

「ま、待て! 俺はそんなつもりじゃ! お、おいお前ら! さっきここでプラネタリウムがあっただろ!」

 すると、おしりをこっちに向けたままホワイトオンリーの方から声がする。

「……閉幕」

「え、それは……」

 次の瞬間、左顎に鈍い音と鈍痛、そして視界がチカチカとフラッシュし、世界が揺れた。我慢の限界を迎えた冬観が渾身の一撃を左頬に浴びせたのだろう、嗚呼、すごく痛い。



「おーい、そこのお兄さん大丈夫かーい?」

 ひやりと床の冷たさを背中で感じながら目を開けると、顔を覗き込むように、冬観と初対面二名様の顔が見える。

「大丈夫じゃねえよ……」

 情けなくもクリーンヒットしてしまった為、脳震盪で少し意識を失ったらしい、妹ながら恐ろしい一撃だった。有望なボクサーとして将来安心だな。

「自業自得じゃない」

「ま、私たちのパンツ見てパンチ一発で済めば安いもんだよ、パンチ無かったら一秒につきコレ」

へらへら笑いながら少女が指を五本立てた。

「5円?」

「5万」

「高すぎだろ! お前のパンツにそんな価値あるわけねえだろ!」

「はてはてそーかなー? ピチピチ中学一年生のロリロリ縞々パンティ、オクに出せば……へっへっへ」

「おう、もう一回言ってみろよ! 録音して校長に叩きつけてやる!」

 最近の子供はませてるって言うが、さすがにませすぎだろ……。

「へえ、同級生なんだ、クラスどこ?」

 冬観が下品な会話を真顔でスルーしながら口を開いた。

「私も百合もBクラス!」

「……姫、自己紹介、まだ」

 どこか眠たそうな目をしている子が細い声でぼそっと呟くように言った。

「そだね! よっしゃ自己紹介祭りの幕開けだぞ野郎共!」

 お前パンツも高けりゃテンションも高いのか、ほんと驚きだよ。

「よっしゃ! まずはこれ!」

 パンっと手を叩いた、羽虫でも飛んでいたか? と思わせるような突然なことだったが、その行為は続きがあるようで……。

「ハイッ!」

 Vサイン、続いてOKサインを作る、最後に遠くを見渡すようにきょろきょろと。これは何かの暗号か?

「パン、ツー、丸、見え」

 パンと手を叩いて『パン』Vサインは数字の2英語で『ツー』OKサインはOKでは無く『丸』辺りを見渡す行為は『見える』という意味、なるほど。

「冬観、こいつなんとかしてくれ」

「ごめん、無理」

「まあまあ、冗談はさておき、一年Bクラス! 出席番号19番! 棚崎姫(たなざきひめ)! よろしくね、てへっ」

 てへっ、と短く舌を覗かせている、肩甲骨辺りまで伸びる髪の毛は丁寧に手入れしてるのか、癖一つ見えない、それに加え控えめな長さのポニーテールにさくらんぼを模ったヘアゴムが見えファッションに気を使っているようだ、表情豊かで八重歯がたまに顔を出すこの子はどこかの雑誌でジュニアアイドルとして表紙を飾っていてもおかしくはなさそうな容姿である。


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