第一章 星の素晴らしさ
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それからというもの、3人目が発表を開始した時点で授業終了を知らせるチャイムが鳴り、気まずい空気が飽和状態な教室を抜け出すことを先に考えていた俺は、そそくさと脱出に成功した。
HRがあるらしく、それが終わるまでの間この広い学校を見学でもすることにする。女子中学校をふらつく機会なんてめったにないのだから。
授業を終わらせた教師や女子生徒、その保護者から珍獣でも見るような視線を現在進行形でぶつけられていることを抜けばこの学校は何かと居心地が良い。確かに自分が通っていた中学校とは似て非なるものだが、校長、設計者どっちの拘りか知らないがその拘りがとても懐かしい雰囲気を醸し出している。例えばさっきの教室なんかもそうだろう。
「お、あれか」
思わず声を出す。
教室の数が多すぎると誰かがぼやいていた、あの理科室を見に来ている。
「はは、確かに、多いな」
ペチペチとスリッパの音を廊下に響かせながら、第一理科室、第一理科準備室と順番に続くネームプレートを見ていた。
「あれ?」
そこで、ふと気付いてしまった。冬観は確か12の部屋があると言った、だが、数え間違えてなければ、俺の目の前にある部屋、この部屋は13個目。
少し背筋が冷える、止めたはずの足音が長い廊下に響いてさらに恐怖を湧き立たせる。追い打ちをかけるように非常口と主張する緑光がちかちかと点滅し、俺の中で何かやばいんじゃないか? と警鐘を鳴らした時。
あるものに気付いてしまった。
『プラネタリウム同好会』
脱力した。
それは13番目の部屋の引き戸に貼り付けられている、材質は画用紙、丸っこい字、油性マジック。
「……プラネタリウム、か」
自室にある愛用機を思い出す、中学生が作る物ならカップラーメンの容器とか、段ボールとかで作るんだろう、もしくは作る目的ではなくて見るだけとか?
どっちにしても、星に興味があるなんて珍しいよな、少し見てみよう。
「失礼します」
誰か人がいると思い、戸を引きながら声をかけたが、返事が無い、それどころか、部屋が真っ暗だ。
「……待て、これは!」
壁に薄ら見える光点、それを見た瞬間、まるで探偵のように閃き、「これはプラネタリウムだ!」と思うより先に戸を閉めた。
「あ、う……」
まるで異世界だった。
思わず頬を抓り、夢か幻かと疑ってみたが、目に映り続けるそれは間違いなく本物だ。
無数に煌めく小さな、強い光の粒。「素晴らしい」「凄い綺麗」そんな言葉が失礼に思えるほどだ。
透は思考が停止し、見とれ続けた、赤や青、エメラルドグリーンなんかの宝石が濃紺の空間に散る、まるで本物の夜空みたいに無窮にも思えるこれは今まで見たプラネタリウムの中で一番だ。
――キーンコーンカーンコーン。
現実の世界に引き戻されるとはこのことだろう、催眠術にでもかかっていたかのようにはっと我に返る。
「こ、これは……冬観に見せるべきだろ」
誰かとこの感動を共有せざるを得なかった。全身が震え、鼓動が早くなる、RPGのボス戦前みたいなドキドキとワクワクをそのまま持ってきたみたいな、そんな感じに似ている。
「冬観!」
一気に冬観の教室まで駆け戻り、戸を勢いよく開けた。木製の備品が漂わせるどこか懐かしい香りを吸い込みながら叫ぶ、そして……。
「え? ちょ……」
一年Aクラスにいる全員が俺を注目する、冬観を見れば顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。
まだHRは終わってないようだ……。