第一章 星の素晴らしさ
「……確かに大きいよね、まだ分からない部屋いっぱいあるもん」
「で、お前の教室は?」
「一年生はこっち、6階まであるけど、一年生は2階」
「へぇ、6階もあるのか、でかいわけだな」
「まだ新しいから空き教室いっぱいみたいだけどね、理科室なんて準備室合わせて12も部屋があるの、絶対無駄だわ」
「確かに多いな、時間あればあとで見に行ってみるか」
辺りをきょろきょろしながら冬観の後を追う、いくら近代的とは言っても2階へはやはり階段だったりする、多分エレベーター、エスカレーターも実現可能だっただろうが、子供の足腰を鍛える線も考えてあるのだろう。
「ここが私の教室、1年Aクラス、A~Dまであるけど、例外に……ううん、やっぱDまで」
「……? ああ、バストのサイズに比例してるのか、確かにお前まな板だもんナァ!?」
急に鳩尾をやられ息が詰まった、こちらに非があるとはいえ容赦ないな……。
「胸のサイズでクラス分けてる学校なんて近代的じゃなくて変態的じゃない……」
「そ、そこを……怒った、の、かよ……」
「……もっかい殴られたい?」
ふるふる震える拳を見せる冬観に対し、息ができないまま首を必死に振る、もし俺の死に場所が女子中学校なら、変な噂が立ってきっと成仏できないだろう。
「とりあえず、入ってもいいっぽいから入って」
「……おう」
ようやく回復し、教室に案内されるまま足を踏み入れると、そこは思ったよりも見慣れた光景だった。
「黒板に木製の机……床まで木だ」
「そ、なんかこだわりがあるみたい」
てっきりホワイトボードとか巨大なモニターとかあるものかと思ってしまった。
「んで、ここ私の席」
きゃーきゃー黄色い声が教室に響くのを聞き流しながら、机に目を向けると、思わず首を傾げた。
「ノートパソコン?」
「そ、一人に一台引き出しに入れてあるの」
「ほう、それはまた贅沢だな」
「使ってみたはいいけど、ダメね、やっぱどこもかしこもブロックだらけ、せっかくハイスペックなのに」
「そりゃエロ画像ばんばん保存されりゃ困るだろうしな」
「あのね……」
思わず両手を挙げ降参する。
「とりあえずお兄ちゃんはあの辺で授業見といて、そろそろ始まるから」
「よし、任せとけ、かわいい女の子はしっかりチェックしておく」
「……はぁ」
呆れられてしまった、特に気にしないが、いつも的確に突っ込み入れてくれるからついついボケちゃうんだよな。
チャームポイントのツインテールをゆらゆら揺らす冬観を尻目に授業参観でいう定番の位置へと向かう、既に奥様方がずらりと並んでおり、様々な香水でむせそうになるのを堪え、一番換気が効きそうな引き戸付近に非難した。
それからしばらくして、聞き覚えのあるチャイムが響き、それとほぼ同時に若そうなショートカットの女教師が入室した。
「はい、皆静かにー」
一声して騒いでいた子供たちを黙らせると、登場して早々チョークを摘み、粉を散らせながら大きく文字を書いている。セオリー通りなら自分の名前でも書き殴るんだろうが……。
『自習』
そっかー、自習先生って言うのか、変わってるなー。
「今日は手元の超ハイスペックノートパーソナルコンピューターを使って個人個人で自由に自習です! ただし、何人か調べたものを発表してもらいますからねー!」
待て、自習……だと? 授業参観で自習とはどういうことだ? ほらみろ奥様方も動揺してざわついてるじゃないか! あと先生、超ハイスペックノートパーソナルコンピューター、て言う意味あったんですかね!?
「あ、えっちな画像とか調べたらダメですよ?」
もうダメだ……クレーマーが来るぞ! モンスターが出るぞ! モンスター出現! どうする? コマンド、辞職、退職、離職。……破滅の道しか残されてないじゃないか!
女教師を見れば、にやりと何かをやり遂げたような自信満々の笑みを浮かべている。
しばらくして、非情にも時間はゆっくりと永遠にも思えるような遅さで進んでいく。あまりに暇で教室を観察していて見つけたのだが、授業の時間は50分授業らしい、早く終わってくれと願うのは俺だけではないはず……。
30分が経過した頃、ようやく女教師が立ち上がった、ようやく発表とやらに移行するようだ。
「言い忘れてました! 私、比戸町明美って言います! 以後よろしく!」
どうでもいいわ! 今更何をいうかっ! お願いだから早く授業進めろ!
さらに5分経ち、ようやく授業が動き出した、奥様方も安堵の息を漏らしている。
「それじゃ、今日は28日だから、出席番号28番とあとは面倒だからその後順番で」
面倒って言ったよな……。