第一章 星の素晴らしさ
「それじゃ、行くか」
「ちょ、待って」
冬観は指を一つ、二つと折りながら何か考えている。
「あ、戸締りか」
「そ、お母さんに頼まれたし」
結構こういうとこしっかりしてるよな、性格は躾のなってない猫レベルだが。
「お兄ちゃんなんか失礼なこと言った?」
「かわいい我が妹の悪口なんて言うわけ無いだろ?」
「どうだか」
こういう鋭いとこも野生の猫並みだ。
しばらくしてやけに巨大で、これぞスタイリッシュと言わんばかりにどこか未来チックな建物が眼前にそびえていた。
「これ、学校か? 研究所だろ」
「正直私も最初は引いた、けど、かっこいいでしょ」
錆びひとつない金属製の校門が全開していてその左右には防犯カメラがぎょろりとこちらを睨んでいる。
「でもさでもさ、見てこれ、ここ、かわいいでしょ~? ここも、ここも!」
その場をくるくる回りながら主張するのは、両腰に装飾されたパンツのリボンよろしく小さなリボンに、胸元に添えられたパンツのリボンよろしく赤いリボンに、お尻の上あたりに縫い付けられたパンツよろしく大きなリボン。
「まるでパンツだ」
「は?」
「いや、すまん俺が悪かった」
「……とりあえず入ろ、あそこ受付ね」
冬観から心なしか軽蔑を送る目を感じながら、指さされた先を見る、確かに香水臭そうな奥様や、今にもクレームを言い出しそうな奥様がいる。
「俺もあそこに混ざるのか……気が引けるなぁ」
「いいから早く」
背を押されつつ向かうは受付、受付の先生は男が居ることに目を見開いたが、すぐ大人の対応で、営業的なスマイルを作った。
「お父様ですか?」
「父親としては若すぎでしょ……お兄様ですよ」
「はぁ……」
少し眉間に皺を作り、笑顔が少し引きつっている。
やべ、余計な事言ったから少し疑われてる?
「あの、星河冬観です、両親がちょっと旅行に出かけてるので……確か連絡行ってるはずですけど」
「あー……ハネムーンとかなんとか……ならそちらは、お兄さんですか? ではこれを首にかけて、ここの星河という名前に丸を」
しかし、父親と間違えられたということは俺は老けて見えるということか? 服装の問題か? 黒のチノパンに黒いTシャツ、黒の上着、確かに黒色は大人びた印象を与えるというがまさかここまでとは。
「あのー? お兄さん?」
「あ、すいません、えーと、ここに丸ですね」
指示された枠に丸を書き入れ、渡されたカードを首にかけるとそのまま建物に侵入した。
「中も広いな、地下に研究所でもありそうだ」
というのも、つい最近に見たB級映画でこんな場所があり、地下には研究所があったのだ、後に研究していた生物が暴れ出したりするのだが、それはさておき。