第一章 星の素晴らしさ
◇
「お兄ちゃん? まだ寝てるの?」
少し遠い声で誰かに呼ばれる声がする、ついに俺にもお迎えが来たか、俺は何歳だ? 16?17どちらにせよ早いお迎えだな……。
「あー、もうっ! やっぱり寝てる、信じらんない!」
ドアを蹴破るような豪快な音を立てながら我が妹冬観の声が部屋中に響いた。
「あーあー、起きます今すぐ起きます、今何時ですか何曜日ですか朝ですか夜ですかー!?」
「日曜日午前七時二十分! 早く起きて!」
「日曜日じゃないか寝かせてくれよ」
もぞもぞと体を起こしかけて損した、日曜日に全く何の用だ? 火事か? 地震か? お願いだからもう少し寝かせてくれ。
「日・曜・参・観!」
区切り区切りではっきり言われる、確かそうだった気がする、日曜参観。
寝ぼけた頭を必死に回転させようやく言葉を思いついた。
「やめよう、僕たちの関係は終わりにしよう」
「はぁ!?」
頬を赤らめながら素っ頓狂な声を上げている。すいません、面白くもなんともなかったです。
「早く起きないと、この黒い地球儀壊すよ?」
「起きます! 星河透二等兵! ですからその危なっかしく片腕でぶらぶら揺らす投影機様を! どうか!」
バネのように立ち上がり、兵隊よろしく敬礼。
「……何バカやってんの、朝ご飯できてるから、時間そんなに無いから早くしてよ」
冬観が出ていくまで敬礼を続け、姿が消えてからバカバカしいと自嘲の笑みを浮かべながら冬観の後を追った。
「お、朝からオムライスとは豪勢だな、器用にケチャップで名前まで書いてあ……ん? とーる? 誰だそれは、ハンマーか?」
「いやそれが、『お』が難しくて、いっそ伸ばし棒でいいかなって」
「ほう、じゃあそっちの『ふ@み』さんは誰だ? 少なくとも星河家にはそんなやつは居ない」
「怒るよ?」
「ごめんなさい」
とーるオムライスとサラダ、味噌汁を前にして腹の虫が早く食わせろと鳴くのでスプーン片手に着席。
「いただきます」
「いただきまー」
カチャカチャと金属製のスプーンが音を立てるが、二人して気にせず目の前の物を咀嚼していく。
そんな沈黙を破ったのは壁時計の時刻を知らせる音楽だった。
「あ、やば、もう8時!」
冬観は残ったオムライスを行儀悪くかきこむ皿を放るようにして下げた。
「お兄ちゃんも早く!」
「お、おう」
同じようにオムライスをかきこみ、皿を下げる。
冬観はそのままの勢いで歯を磨きながら二つに結んだ髪を振り、言う。
「ふぉう?」
「は?」
「ふぉれ!」
両手で二つの髪を指さした、今日の髪、どうかな? と俺なりの解釈で変換してみる。少しふざけてみるか。
「全然だめだ、それじゃまるでツインテールじゃなくてツインなすびだな」
「ふぇー!?」
歯磨き粉を飛ばしながら日本語じゃない何かを発し、鏡をちらちら見ながら髪に触れる。
「冗談だ、早く行こうぜ」
「――!」
「ちょ、痛! やめろ!」
足を踏みつけられた上に足の爪で引っ掻かれてしまった、赤くなってる、皮めくれてる、血が出てる最悪。