第一章 星の素晴らしさ
「なんだなんだ? 二人してこそこそデートの約束か?」
「うふふお赤飯? 孫は女の子がいいわぁ」
「デートなわけねえだろ! あと母さんも訳の分からないこと言わないでくれよ……日曜参観だよ」
「あらやだ、近親相姦?」
「あーもう! ハネムーンは耳鼻科行けよちくしょう!」
「ねえ、お兄ちゃん? 近親相姦って何?」
「お前も黙っとけ! 日曜日行ってやるから、分かったら早く寝ろ! 俺も寝る」
3人がまだ何やら言っているがそれを無視してリビングを後にした。
「はぁ……父さんも母さんも何考えてんだよ」
そんな呟きと同時に自室に入る、電気のスイッチを手探りで弄れば、一番に目が行ったのは木製のフローリングに、分厚いカーテン。そこは年頃の高校生の部屋と言うには味気が無いもので、普通ならゲームやらテレビやら読み終わったコミックの塔が築いていてもおかしくはないのだが、それは無かった。あるのは勉強机代わりのちゃぶ台、古ぼけた座布団、自分の匂いが染みついたベッド、あとはちゃぶ台の上に立つ黒光りする角ばった物体。
その他の物はクローゼットに仕舞い込んでいるのだから透の私物はこれが全てとなる。
中でも透が好んで使うこの『黒い物体』、ホームプラネット・リトルスターⅢと金字で彫ってある。透はこの金属の肌を一度撫でると、部屋の明かりを消し、代わりにこの物体のスイッチをオンにする。すると、この物体は細かく鋭い光を吐いた。
それは天井や壁、透にまで張り付き無数の光の粒を映し出す、神秘的とも幻想的とも言えるこの光の粒は、数にして1万を超えていて、所謂小さなプラネタリウムを作り出している。
透はこの投影機を高1の時に必死にバイトをし、お金を溜めて購入した。本来ならもっと大きなものをと思っていたが、高いもので数十万円安いもので数千円と結局どれを買えばいいか分からずして、8千円という微妙な値段の物を購入した。
透はぼんやりと光を眺めていたが、ふと先ほど父親と眺めた星を思い出して、一つ大きなため息を付くと、投影機のスイッチをオフに、そのままベッドに潜りこみ、沈んだ気持ちのまま眠りに付いた。