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第一章 星の素晴らしさ

第一章


「なあ、星を見たことあるか?」

 ぽつんと独り言のように星河透(ほしかわとおる )は呟いた。

「……何を寝ぼけたこと言ってんだ? 上見てみろよ」

 透の左隣には缶ビールを危なっかしく摘み何やら哀愁を漂わせている30代後半のおっさん――星河大樹(ほしかわだいき )がいる。その、父さんと呼べる人だが、缶ビールをくいっと一口含むとベランダの手すりにもたれたまま透の質問に対し空を見上げた。

「……ほら、あそことあそこにあそこにも」

「数にして?」

「20~30ってとこか、それがどうした?」

 20~30それがこの空に見える星の数。透はじっとべランダから恨めしそうに町明かりを睨んだ。

 星屑のように散りばめられた光は幻想的で綺麗、素敵と賞賛できるかもしれない、けれどそれは天に在るべきもの眩ませる原因の一つなのだ。

「ま、眠らない町とは上手いこと言ったもんだよ」

 父さんと同じように空を見上げれば、完全な暗闇とは言い難い空が目に映る、濃い青紫を水で溶いて薄く伸ばしたような、そんな色だ。

「じゃあさ、父さんは星は好きか?」

「母さんは好きよ?」

 透がそう言い終わるよりも先に言葉が重なる、その声はすっとよく通り、ベランダを抜けて外に散った。

「お、母さん丁度いい、もう一本」

「ふふ、ダメです~」

「それにしてもいきなりなんだ? 星がどうたらって、確かに透は昔っから星に目が無いが、それよりも彼女連れてこい」

「母さんに似たのかしらね、私星大好きなの」

母さんと自分を呼ぶ、まさに理想のお母さんと呼べるような容姿をもつこの人は、星河なつめさんだ (ほしかわなつめ )、突然だけど、この人は本当の母さんではない、父さんとこの人は子持ちのバツイチ同士というのもあって気が合い、再婚したようだった。正直父さんには勿体ないくらい美人だ。

 最初は複雑な気持ちで、母さんと呼べなかったが、なつめおばさんと呼んだ際泣かれてしまい、その日を境に母さんと呼ぶようになったのだ。

「あとな、透」

「?」

「父さんと母さん、予定なら明日オーストラリアまでハネムーン行くって言ったよな」

 父さんにしては妙に真剣だ、何かあるんだろうか。まさか実は母さんと上手く行ってないとか?

「旅行中にな……冬観に手を出すなよ!」

「は?」

「何をとぼけた顔を、血が繋がって無いから大丈夫という考えを持ってるんだろ!? 父さんはお見通しだ!」

「どこにそんな根拠あるんだよ! 濡れ衣過ぎでしょ!」

「ははーん? 知らないと思ってるのか透よ、母さんのことやらしい目で見てるじゃないか! このエロガキめ!」

「そうだったの? いやーん」

 母さんがくねくねと一昔古いセクシーポーズをとった。

「それは母さんが悪いだろ! お風呂一緒に入ろうとか、父さんが喜びそうだから裸エプロンとか、暖房かけまくって熱いから脱ぐとか、俺だって高2だぞ! そんな年頃な男子高校生を前に露骨なストリップが多すぎるんだよ!」

「いやぁ~、でもねぇ、母さん?」

「そうねぇ、えっちなのはやっぱり父さん似よねぇ?」

 ああくそ! やっぱりこの二人お似合いだ!

 透はずきずき痛むこめかみを抑えながら部屋に戻ろうと体を動かした。

「ま、頼んだぞ、家に冬観にかわいい彼女」

「最後のは無理そうだけど、前二つ大丈夫だろ」

 肌寒いベランダから暖房の効いたリビングへ避難すると、先ほどから話題に出ている冬観という存在は居なかった、自室にでも戻っているのだろう。

 親二人がベランダでいちゃついているのを尻目に横長のソファーを独り占めし、誰も見られていないテレビは最近話題のお笑い芸人を映している。

 透は電気代節約と内心で呟きながらテレビを消し、カレンダーに目を向けた。真っ先に目が入るのは赤ペンでぐるぐると何重も丸をされ、色が黒く変色し、世界が終わりを迎える日を連想させるかのように枠は赤黒く塗られている。

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