育成ゲーム
十数年前発売され、未だその人気は衰えることを知らない。『モンスター・ポケット』は、子供から大人まで、幅広い年齢層に爆発的な人気を博した。
『モンポケ』は、その年の流行語大賞の筆頭候補として疑わず、学校などでも『モンポケ』の話題で占領されている。
B少年も、当然のことながらこの『モンポケ』に夢中になっいる子供の一人だ。朝から晩まで『モンポケ』のことを考えているし、寝ている時だって夢に出てくるほどの熱中ぶりだ。消費した電池は数知れない。
たまらないのは、B少年の母親だ。学校から帰ってきてもすぐにゲーム機に向かってしまい、そのまま寝るまで黙々とカチャカチャやられたのでは、満足に会話もできない。可愛い一人息子をゲームなどに奪われて、母親としては面白くない。大した反応は返ってこないとわかりつつも、ついつい話しかけてしまう。
「ねぇ、それってそんなに面白いの?」
我ながらつまらない質問だ、と言ってしまった後に思った。
案の定、B少年は当たり前だろう、というような顔で、
「うん。」
とだけ言った。その間も画面から目を離そうともしない。
「なにがそんなに面白いわけ?モンスターを集めるだけなんでしょ?」
まったく相手にされないのに腹を立てたのか、イヤミな口調になってしまう。
「それだけじゃないよ。育てたモンスターを友達のヤツと戦わせたり、交換したりするんだよ。何度も戦わないと手に入らないレアなモンスターとかもいるからね」
B少年がめずらしく一言返事ではなく答えた。
「それが面白いわけ?」
また同じような質問になってしまったと思いつつも、呆れた声で言った。
「そうだよ。」
一言返事に戻る。
B少年の母はいま一つ息子の言う面白さがわからなかった。大体彼ぐらいの年のころは、外で元気に遊んでこいと言いたい。なぜ最近の子供たちは外で力一杯遊ぼうとせずに、家の中でゲームのモンスターを戦わせることに夢中になるのだろうか。たまりかねて、母はB少年にたずねた。
「ねえ、あんたたちはゲームのモンスターを育てて、戦わせて、なんでそんなのが、楽しいわけ?それで勝つとなんかいいことあるの?自分が特訓したわけでも、戦うわけでもないのに?」
つい、強い口調になってしまったと、母は思った。しかし、B少年はきわめてさめた視線で窓の外の光景を指さした。
窓の外の向かいの道路では、なにやらずいぶん派手な格好をした奥様が二人、頭にキンキン響く声でお話ししている。行き来する通行人や車のことなどお構いなしに、道に君臨している。
「まぁっ! お宅のお嬢さん、外美中須加高校に合格なさったんですか。まぁ~、うらやましいですこと! 宅の息子など、成金来来高校が精一杯でしたのよ!」
「なに言ってらっしゃいますの! こちらこそうらやましいですわ! お宅の息子さん、よくおできになるから。」
「いえいえ、いつも言ってるんですよ! お宅のお嬢さんを見習えって。まったく、お宅のお嬢さんがお嫁にきてくれると、安心なんですけどねぇ。」
「あらっ!それは名案ですわね。お宅の息子さんなら、こちらこそお願いしたいぐらいですわ!」
『オーッホホホホホホ……!!』
子は親の鏡。親は子の窓。