表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/88

第二部epilogue:見えぬ未来


 祭りの後の学園は静かだ。

 もうほんの少し後には新年の休暇を迎えるべく、生徒も学園の職員も帰省の準備や祝いの準備に追われることになる。

 今はその前の小休止のような期間だ。

 やっと静かになって喜んでいるのは、騒がしくて研究に没頭できなかった研究室の人間や、後片付けや雑事の残る忙しい教授達くらいだろう。

 中央棟の執務室の一つで、そんな雑事に追われる人間が一人、夕暮れの灯りの中で仕事をしていた。

 普段はその窓からうるさいくらいの子供達の声が聞こえるのだが今は風の音しか聞こえない。

 競技会の熱気が冷めた途端、いつの間にかすぐ傍に忍び寄っていた冬の寒さに気付いた生徒達は、授業が終わればそそくさと校庭を横切って家路を辿る。

 静けさが嬉しいような寂しいような、そんな気持ちを覚えながら学園長は目の前の書類に視線を走らせていた。

 不意に戸も窓もぴしりと閉まっていたはずの部屋に、冷たい風が吹き込んだ。

 学園長が顔を上げるといつの間にか窓辺に一人の青年が立っていた。

 肩に白い鳥を乗せた金の髪の青年は、穏やかな笑顔で学園長に微笑みかけた。


「こんにちは」

「これはこれは。こんにちは、お久しぶりです」

 旧知の間柄らしい彼らはにこやかに挨拶を交わす。

 青年はポケットに手を入れて執務机に歩み寄り、その上で手の平を開いた。

 ころころと色とりどりの紙に包まれた飴玉が転がり落ちる。


「お土産。美味しいからどうぞ」

「これはどうも。……レイアルのものですかな?」

「そう。ちゃんとしまっておいたから、まだ新しいよ」

 学園長は頷くと、一つとって紙を剥がして口に運んだ。青年もお土産と言いつつ一つ手に取る。

 中に甘く煮たフルーツを閉じ込めたこの飴は、レイアルの有名な菓子工房で夏の市の時期だけに作られる名物の一つだ。

 今の季節に味わうには少々奇妙な品物だった。

 だが二人はそれに関しては何も言わず、しばしの間黙ってその味を楽しんだ。


「……お会いになられましたかな?」

「うん……夏にね。大きくなってたね。びっくりしたよ。やっぱり君か」

「そろそろあの塔も点検時期だろうと思いましたから……貴方は祭りがお好きですし。まぁ、ほんの賭けのようなものでしたが」

「賭けは君の勝ち、か……ありがとう」

 いえ、と学園長は首を横に振った。


「これも運命というものでしょう」

 その言葉に青年は少しだけ笑いを浮かべた。

 運命に感謝するのではなく、その言葉を笑うかのような曖昧な彼の笑顔に学園長は少しだけ寂しい顔を見せた。


「どうですか、あの子は?」

「……まだまだかなぁ、随分良くなったみたいだけど」

「そうですか……」

「そういえばあの子、かくれんぼも知らなかったよ。本当に、どんな子供時代だったんだか……ってまだ子供だけど、やっぱり失敗したなぁ」

 彼の困ったような顔を見て、学園長は苦笑を浮かべて首を横に振った。


「仕方ないのではありませんかな」

「まぁね。元はと言えば僕が失敗した結果であって、グラウル老に文句言えた筋合いじゃないからね。あの子が生きてここにいるだけでも奇跡に近いんだから」

「そうですとも。あの子にも友人が出来ましたし……これからまだまだ育ちますよ。現に、今回の競技会では目に見えて成長しておりましたしのう」

 うん、と青年は頷くと窓の向こうに目をやった。

 窓から見える空は灰色で、葉を落とした木々がいかにも寒々しい。


「見てたよ、遠くからこっそり。面白かったね」

「ええ」

「君の魔法もなかなかすごかった。風を扱うのはあんなに下手だったサミー坊やとは思えなかったよ」

「それはそれは。師匠が良い証拠、とでも申しておきましょうかな?」

「あはは 相変わらず口だけは君に敵いそうにないな!」

 口だけとはひどい、と言いながら学園長もまた笑った。

 明るい笑い声が執務室の重厚な雰囲気を明るく変える。

 ひとしきり笑いあった後、青年は学園長に向かって一つ頷き、窓辺へ歩み寄ってその扉を開けた。

 途端に身を切るように冷たい風が部屋の中に吹き込んでくる。

 ひゅぅ、と音を立てて部屋に舞い込んだ風は、青年の周りをくるりと回り、暖かい空気を大分連れ去って窓からまた出て行った。


「もう行くよ。また来るけど……東のをここに呼び戻そうかと思う。来年にでもポストを一つ二つ頼めるかな」

「それは構いませんが、あちらはよろしいのですか?」

「大丈夫。なんとかするよ」

 バサ、と羽音が響く。青年の肩の鳥が窓から飛び立ち、それを追うように彼も来た時を同じ窓からひょいと姿を消した。

 三階にある執務室はまた元のように静けさに包まれた。

 学園長は手元に残った飴の包みをもう一つ開いて可愛らしい中身を口に放り込んだ。

 冬の空を彩る雲は少しずつその厚さと暗い色を増している。

 天気が崩れる前に仕事を片付けて宿舎に戻るべきだな、と学園長は一つため息を吐いてまた机に向った。




第二部 了

第二部を読んで下さってどうもありがとうございました。

ひとまず二部はここまでで終わりです。

かなり省いた話などもあったのですが、とりあえず終わらせられてほっとしています。

省いた話などもいずれきちんと整理して閑話とするなり、二部を修正するなり出来ればと考えています。


この話はまだ続きますが、とりあえずここで小休止となります。三部が始まるまでまた少しお時間を頂きます。

ここはこのままで、今までの話を載せたサイトを近日中に開く予定です。

そちらの方では近況などを書いておりますので、お暇でしたらたずねてやって下さい。


今回も長い話になりましたが、読んで下さって本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ