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14:森に落ちる影


 朝、爽やかな風とすぐ傍を流れる川のせせらぎを聞きながら四人は歩き出した。

 朝の森の空気は初夏だと言うのに冷たいほどで、眠たかった頭を十分に起こしてくれる。

 川沿いの道は昨日よりは歩きやすく、また仲間に多少の遅れをとっても川に沿ってひたすら歩けばいいという安心感から皆の足取りは軽かった。

 アーシャは歩き出して早々に、偵察も兼ねて先に行くねと言って川原の岩をひょいひょいと登って姿を消してしまった。

 昼にはちょうどいい場所で待ってる、と言っていたので心配するのをやめた三人は歩くことに集中する。

 彼女は森に慣れているようだったし、むしろ心配されるべきは彼らの方なのだろう。

 キラキラと光を反射する川を左手に見ながら三人は黙々と歩く。

 今日も、いい天気だった。




 アーシャは随分と進んだ先の川原で水の中を覗き込んでいた。

 川の幅はそんなに広くは無いが水量は豊かだ。

 覗き込んだ水の中をひらひらと魚影が通り過ぎる。

(後で獲ろうかな……)

 魚はアーシャの好物だ。特に川の魚が食べなれている事もあって好きだった。

 だがそれは後回しにして、先に周囲の探索をしてしまう事にした。


 アーシャがざっと見た限りではこの森は鳥の数と種類が多い。

風がこれだけ強いのだ、滑空したり気流に乗って高く飛ぶ種類の鳥たちは住みやすいだろう。

 地を走る生き物たちは数はそれなりにいるようだが余り多くの種類は見かけない。

 風を避けて生活しているから見かけないのかもしれない。

 植物も風媒花や、風に種を飛ばすものを良く見かけた。

 珍しい物もいくつかあったが、結界を張る理由としてはどれも今ひとつ弱い。


(でもそうなると……)

 余り当たってほしくない想像が当たってしまうな、と考えながらアーシャは先へと進む。

(でも、そっちはまだいいんだよね……)

 今いる辺りは水辺だから水の気が風の気を少し分散させている。

 もう一つの心配事を思い浮かべながらアーシャは川原を離れ森へと分け入った。

 少し離れた所に狭い草地を見つけて荷物を置く。

 ぺた、と手足を広げてうつ伏せに草地に倒れこむと、アーシャは森に話しかけた。

(聞かせて)

 そう心の中で頼むと、答えが返ってきた。


『 ―― 』


 森の返事は曖昧なイメージとして少女の中を通り過ぎていく。

 森というのは個にして全とでも言うべき存在だ。

 小さな花が寄り集まって出来た花房に似ている。

 植物は横の繋がりがとても深い生き物だ。

 だから、木々一本一本に話しかけることも出来るし、その繋がりを通して森と呼べる領域の全てを教えてもらう事も出来る。

 それぞれの木や草花に宿る小さな精霊も、それらを統括する森そのものと言えるもっと大きな精霊も、個としての明確な意思よりも全体の合意で森の理を維持しているようだった。

 全体で一つの大きな生き物のような森と繋がると、自分もまるで仲間に入れてもらえたような気がしてひどく安心できる。


 寝転がったアーシャに向かって色々な音が聞こえてくる。

 森の木々の交わす声や鳥の囀り、動物が歩く音、騒がしい草花のおしゃべり……。

 森を構成する沢山のものの声がアーシャの耳ではない所に届く。

 だがどうやらここからでは川の向こうの事までは見えないようだった。

 水が森を分断してしまっている。

 それなら仕方ない、とそちらの方は諦めて、森を歩く無数の生き物達の小さな足音に混じっているはずの仲間の居場所を探る。

(あ、いた)

 ここからはまだ遠い所を三人が歩いている。その速度から昼までにはこの辺りに着くだろう、と予想できた。

 ふと、アーシャの意識の端に別の気配が引っかかった。

 もっと北西の方に誰かいる。

(一、二、三……四、五……六人、かな?)

 あの人のチームかな、と金髪の変な頭の少女を思い浮かべたが、名前が思い出せなかった。

 彼らはまっすぐ西を目指すルートを選択したらしい。

 だがそれにしては、こちらより一日早く出たはずなのに随分遅い。

 意識を集中すると、六人いる内の何人かがものすごく足が遅いことに気づく。

 どうやら歩くのが苦手な人が混じっている為なかなか進まないらしかった。


(うーん、困ったな……このままじゃそのうちぶつかりそう)

 シャルとあの変な人は仲が悪いのだ、とジェイが言っていたのをアーシャは思い出した。

 お互いの速度を良く観察して考えてみると、ちょうど川を渡るか渡らないかという辺りでぶつかる可能性がある。

(これはやっぱり伝えないとまずいよね)

 先に入った人達がいる事なんてアーシャは忘れ去っていたが、シャル達当人はそうとは限らない。

 ばったり会ってやりあう事になったらとてもまずいだろう。

 歩いている仲間に意識を戻すと、森が小さな警戒の声を投げてきた。

 二番目を歩く人物のイメージが、薄っすらと赤く色付けされて伝わってくる。

 森は彼女を警戒している。

 彼女が自分たちに危険をもたらすのではないか、とアーシャに疑問を投げかけているのだ。

(大丈夫)

 もしもの時は自分が止めるから安心するように、と伝えると森の警戒の声が弱くなった。

 うん、とひとつ頷くとアーシャは森との同調を細くしてごろり、とその場に仰向けに転がった。

 自分の近くに危険な生き物はいない事はついでに確かめておいたので、無防備に転がって森の空気を楽しむ。

 淡い木漏れ日が気持ちいい。

(ちょっとだけならいいかな……)

 腰からはずして投げてあったヒップバッグを枕にして、そばにあった木をぺちぺち叩いて話しかけた。


『皆が近づいて来たら起こして』


 そう頼むと瞼を閉じる。

 すぐにゆるゆると眠りが訪れる。

 ここは騒がしいけれど、耳栓は必要ない。

 この森は少し故郷の森に似ている。

 良い夢が見れそうな気分だった。






 シャルが体調を崩したのは森に入って三日目の夜だった。


 コポ、と鍋が小さな音を立てた。

 覗きこむと白い表面にいくつか小さな泡が浮かび上がっては消えてゆくのが見える。

(もう少しか)

 ディーンは手にした木のスプーンで鍋をひと混ぜし、用意してあった香草を加えて火を弱めた。

 鍋を暖めているのは赤熱石という丸い石だ。

 照明に使う光球の別の種類で、魔力を込めることで熱を発する力を持っている。

 地面に小さめの穴を掘って石を入れ、その上にごく背の低いかまどをしつらえる形で使う。

 森には薪は沢山あるが、風があるため火が煽られては困るのでこれを使っている。

 少々嵩張るが危なくないし、後始末が楽なところも利点の一つだ。


 二日目の行程も問題なく進んだ一行は、また川から少し離れた場所で一泊し、三日目の朝を迎えた。

 西に進むにつれて少しずつ強くなる風は気になったが歩くのに困るほどでもない。

 全員がもう森を歩くのにも慣れ、その日も一日何事もなく歩き続けた。

 しかし、三日目の野営場所を決めて足を止めた途端、シャルが頭が痛い、といって動けなくなったのだ。

 どうやら彼女はそれまでずっと具合が悪いのを我慢していたらしかった。

 急いでテントを張り、シャルを寝かせた後、ジェイはずっとその側に付いている。

 アーシャはここが良い、と野営の場所を指示したあと、シャルの代わりに結界を張るついでに周囲の確認をしてくると言っていなくなってしまった。

 そういう訳でディーンはと言えば、テントをもう一つ張った後こうして保存食を使った夕食作りをしていると言う訳なのだ。


 携帯保存食はそのままでも食べられるとは言え、固く乾いていて美味い物ではない。

 作っているのは保存食の固い雑穀のパンを水でふやかして煮なおし、野草や干し肉を入れて味付けしただけの簡素なおかゆのようなものだが、それでも疲れきった体には暖かいものが必要だ。

 糖分も体に良い、と干した果物などもシャルに勧めてみたが、彼女はほとんど食べなかった。

(こっちは食べてもらわなければ困るな……)

 そうでなければ明日からの進みに支障が出る。

 体調が悪くても少しくらいは食べなくては更に悪化するだけだ。

 栄養が取れるようチーズでも削って入れるか、とバッグの中を探る。


 その時、ガサッと音がして近くの繁みが突然揺れた。

 ディーンは思わず腰を少し浮かし剣に手をかける。だが、繁みの向こうから聞こえてきたのは聞きなれた声だった。

「ただいま」

 少女の声と姿を確認してディーンは体の力を抜いた。

「ごめんね、遅くなって」

 そう言って繁みから姿を現したアーシャの手は泥だらけで、腰には何かの木の実や葉っぱを沢山引っ掛けて吊るしている。

 帰還を知らせる声にジェイもテントから出てきた。


「うっわ、アーシャどうしたんだよその格好! 泥だらけだぞ?」

「んー、この周りをぐるっと回ってあちこちに土を盛ったから汚れちゃった」

 そこまで喋ったところでどうやらアーシャは夕食の匂いに気がついたらしい。いい匂い、と呟くと鍋にそっと近づいてきた。

「簡単な保存食を使った料理だがな。手を洗ってきたら夕食にしよう」

「うん。あ、これちょっとここに置いといて」

 そう言って腰につけた木の実や草をその場に置くとアーシャは川原の方へ走っていった。

 その場に残された木の実の一つをジェイは手にとって見る。

 丸くて茶色い殻がいかにも固そうな、こぶし大くらいの大きな木の実だ。

「こんなの見たことないけど……食えるのかなぁ?」

「採ってきたからには食べられるのではないか?」

「でもすっげ固そうだぜ?ほら」

 プチ、と一つを枝から切り離すとジェイはそれを近くの木に投げつけた。

 カン、と硬い音がして木の実が跳ね返ってくる。

 跳ね返ったものを拾ってみたが、割れ目どころか傷一つ付いていない。

「……まぁ、無意味なものをとってはこないだろう」

 そう信じることにしてディーンは予定通りチーズを探しだすと、削って鍋に落としたく。


 やがて手を洗って戻ってきたアーシャは料理をするディーンの側に座り込んだ。

 ついでに洗って持ってきたらしい川原の石で採って来た葉っぱをすりつぶし始める。

「薬草か」

「うん、シャル頭痛いって言ってたから、とりあえず簡単な痛み止め作ろうと思って」

「痛み止めならこれさえあれば大丈夫とかなんとかいうセットに入ってなかったっけ?」

 魔法薬屋で買ったあの微妙なネーミングのセットには確かそんな薬も入っていたはずだ、とジェイは告げたがアーシャは首を振った。

「さっきシャルに聞いてみたけど、もう使ったって。でもあんまり効かなかったって言ってたから」

 アーシャは手際良く潰した葉っぱを器に移すと、今度は枝に付いた小さな木の実をむしり取り皮ごと荒くひき潰した。

「アルシェレイア、この実は……これは確かイェメスの実じゃないのか? こんなものを使うのか?」

 ディーンが手に取ったのは今アーシャが潰している実の残りだった。

 細い枝には薄紫の皮に覆われた小指の先ほどの大きさの紡錘系の木の実がびっしりと実り、彼の手に揺られてシャラシャラと音を立てる。

 魔法薬学の講義を受けているディーンは、実物を見るのは初めてだがそれの正体がわかった。

「なんだよ、その実がどうかしたのか?」

「この実は痛み止めなどではないはずだ。確か、魔力を抑制する効果がある、と教科書には書いてあった。だから、制御が下手な人や自分で魔力制御が出来ない幼児の為の薄い飲み薬にするとか」

「そうだよ。当たり」

 軽く答えてアーシャは潰した木の実をぱらぱらと器に加える。

「制御って……じゃあ、シャルの具合は単なる疲れとか高山病とかの頭痛じゃないってことか?」

「多分、ね。この森はそんなに高いとこにないし。この薬が効いたらそれを確かめられるかなと思って。別にこの実は毒じゃないし、痛み止めの薬草もいれるから、ちょっとした試しだよ」

 アーシャはそれ以上答えず、更に何種類かの薬草を混ぜるとそれを水で溶いて布で絞ってカスを捨てる。

 残った液体を別の器に移すとそれを両手で捧げ持った。


『森の恵みに更なる力を』


 ぽぅ、と器から緑の光が漏れた。

 アーシャは器の中を確かめると、先ほどよりも一層色濃くなった緑色の液体をちょっと味見し、うん、と頷いた。

「ものすごーくまずい」

「……」

「……」

 シャル飲んでくれるかなぁ? と心配する声に、希望的観測を言うべきかあるいは改善を促すべきか。

 結局男二人はそのまま黙ってそれを見守ることにした。




「美味しかったわ、ごちそうさま!」

 起きてきたシャルは意外にも夕食を良く食べた。

 アーシャが夕食の前にあの緑色の液体を無理やり一口飲ませた結果、元気になったと同時に早急に口直しが必要となったらしい。

 理由はともあれ食欲があるのは良い事だったので男達は黙って彼女におかわりをついでやった。

 役割が逆なような気がするのは既に諦めている。

 そのアーシャは食事を終えると、鍋が置いてあったかまどの穴に先ほどの大きな方の木の実を放り込んで棒でつついている。

「あと一日歩いて方向を変えるんだったわよね?」

「ああ、大体予定通りだ」

 三人は地図を広げて頭を寄せると今はどの辺か、と話し始めた。

「アーシャ、今俺達どの辺りかわかるか?」

「ん? んー、と大体この辺かな」

 この辺り、と思われる場所をアーシャが指で示すが、そこから最深部まではやはりもう少し距離がある。

「ねぇ、じゃああいつらは今どの辺? 近いんでしょ?」

 昨日のうちに変な頭の人のチームと接触する可能性がある事をアーシャは皆に告げてあった。

「あの人たちは多分この辺だと思う」

 そう言って指差したのはここからあまり遠くない森の中だ。

 四人のいる川沿いよりまだ少し北西だが、急げば追いつきそうな距離だった。

「ぷっ、おっそいわねぇ! 絶対コーネリアが我侭言って遅らせてんのよ!」

 シャルは面白そうにくすくす笑う。

 一日遅れで出発して、遠回りのルートを選んだこちらに追いつかれている事がおかしいらしい。


 シャルの笑い声を聞きながらアーシャは穴の中の木の実をひょい、と器用に転がして取り出した。

 熱で炙られた木の実にはぱっくりと割れ目が出来ている。

 ちゃんと割れているのを確かめてそれが持てるくらいに冷めたかそっと触ってみてから手に取った。

 木の実の割れ目に指を差し込んで力を込めると、 パキンと固い音と共に中身が顔を出した。

 中に詰まっていたのは濃いクリーム色の柔らかそうな実だった。

 かすかに甘い香りが周囲に漂う。

「はい、甘くて元気が出るよ」

 種が固いから気をつけて、と言ってアーシャは続けて何個かの木の実を割ると皆に配った。

 三人は見た事のない木の実に少し怯えつつ、それでも礼儀正しく口に運んだ。

「……美味しい! 甘いわ!」

 中身は優しい甘さのクリーム菓子のような味だった。

 ふわりと柔らかくていくつでも食べられそうだ。ほんのり暖かいのがまた美味しい。

「チェクっていうんだ。日持ちするし、栄養あるんだよ」

「あんな石みたいな殻の中にこんな実が入っているとは」

 感心しながらディーンもパクパクと木の実を食べている。

 どうやら彼は意外にも甘い物が好きらしい。

 アーシャがおかわりを差し出すとディーンはためらわず受け取って礼を言った。

「俺にはちょっと甘いかなぁ」

 反対にジェイは少し食べ残していた。

 それでも栄養があるから、というアーシャの言葉に負けてどうにか一個を食べきる。

 アーシャは残ったチェクの実を一まとめにして大きな葉っぱで包むとシャルに差し出した。

「シャル、もう休んだ方がいいよ。さっきの薬、瓶に入れておくから明日の朝また飲んでね」

「ええぇぇ!? まだ飲むの! あれを!?」

「残ったチェクの実あげるから、これ口直しにしたらいいよ」

 木の実は美味しかったがあの薬を思い出すと全然喜べないらしい。

 だが、それが効いて楽になったのは事実なので反論もできない。 

 シャルはしぶしぶとチェクの実を受け取り、 うぅ、と悲痛な声を上げながらテントへと入っていった。



 シャルがテントに入った後、残った三人は簡単に後片付けを済ませた。

 洗い物などをきれいにしてから、アーシャがそっとテントを覗くとシャルはもう小さな寝息を立てていた。

 静かな寝息にほっとしてその事を少年達にも告げる。

 二人も安心したようだった。

「具合はよくなったようだが……さっきの薬が効いた、ということか?」

「ん、多分ね」

「あの薬が効くってのはどういうことなんだ? なんかすごく悪いとかなのか?」

 心配そうにするジェイをよそにアーシャはしばし考え込んだ。

「ねぇ、ジェイ。シャルって昔からあの髪の色だった?」

「へ? え、いや、そうだと思うけど」

「ほんとに?」

「ああ……いや、ちょっと待ってくれ」

 んー、と額に手を当ててジェイは必死で考えた。シャルとジェイの付き合いは長い。彼は小さい頃のシャルの姿を頭の中で思い描いた。

 学校に入った時には間違いなく今と同じ赤茶の髪だった。それからずっとあの色だ。

 けどその前は、確かしばらく会えなくて――

「あっ、違う! 学校に入る前は、確か今みたいな色じゃなかった!」

「どんな色?」

「どんなって、もっと赤毛って感じで……それこそ、髪だけじゃなくて瞳ももっと鮮やかな赤だった気がする。でも、学校に上がった頃にはもう今の色だったはずだ」

 そっか、と呟くとアーシャはまた考え込んでしまった。


「髪の色と、あの薬と何の関係が?」

「うん、それはまぁ一応あるんだけど……シャルの頭痛はね、多分魔力の制御が上手くいってないからだと思うんだよね。ここは、風が強すぎるから」

「風が強いのとなんか関係あんのか?」

 アーシャは空を仰いで風を頬に受ける。

 ここは木の陰になっているから今はあまり風を感じない。

「焚き火に風が吹き付けるとどうなるかな」

「そりゃ、こう煽られて……」

「十分な燃料があるならますます燃え上がるだろうな。飛び散ったりもするだろう」

「だよね?」

「……」

「なるほど」

 そこまで言って二人にもようやくアーシャが言いたいことが判った。

 しかし、人の持つ魔力が風に影響を受けるものかと考えてディーンはその疑問を口にする。

「うん、普通はね、発現した魔法の炎が風に影響受けるってことはあっても、自身の持つ魔力が風に影響を受けるっていうのはないと思うよ」

「なら何故?」

「シャルは、その体に持つ魔力自体が、火の力を帯びすぎてるんだ。それだけ火の精霊に愛されてるんだよ。だから、その魔力がこの森に満ちる風の気に煽られてシャルの制御を離れようとしている。

 シャルは多分それを本能で感じていて、必死で抑えようとしているから頭痛とかそういう形で具合が悪くなったんだよ。きっと苦しいと思う」

「それで、魔力を抑制する薬、か」

「シャルみたいに魔力が強い人には気休めみたいなもんだけど、でも少しは違うから」

「なら、あの薬さえ我慢して飲めば大丈夫ってことか?」

 ジェイの質問にアーシャはまた少し考え込む。けれどその顔は明るくなかった。

「多分、駄目だと思う。これから西へ進めば進むほど風の気は濃くなっていくはず。シャルはこのままだと奥までいけないかもしれない」

「そんな……なんとかしてやれないのかよ?」

 ジェイは自分の事のように心配そうな顔をしていた。

 だがアーシャはその心配に安易には答えられない。

「明日、もう一日様子を見よう。それで駄目ならシャルにも話して、考えるよ」


 その夜も森に吹く風は止まなかった。



ここ数日毎日キーボ叩いてばっかりいたら手の筋が痛くなってきました……。

うーん、貧弱。

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