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開戦

『作戦ニ変更無シ。九月十ニ日、○二○○作戦ヲ決行ス。』

フルダス国第一揚陸艦隊の旗艦アーネムーンに司令部から入電があった。

第一揚陸艦隊旗艦アーネムーンの艦長ハイデ少佐は先の文章の後に書かれた作戦の内容をさっと目を通しただけだった。


中央暦十四年九月三日息子の海軍高等学校の入学式から二日たった後の衝撃は忘れられない。朝、愛する妻のコーヒーと食パンを食べながら新聞読もうとした。コーヒーを右手に半分に折ってあった新聞を広げた。ハイデはコーヒーを口に近づけて手が止まった。

一面には2ヶ月前我が国が石油の塊−オイルライン−を見つけた島、カーキ島(フルダス連合王国領)にクライン(クライン合衆国)が侵攻して来たことで埋まっていた。

「とうとう来たか…。欲深い野郎共めぇ…」

ハイデは明後日まで妻とゆっくり過ごすハズだった。

ハイデの呟きに反応した妻、サディンがハイデに近づき

「あなた、どうしたの?また軍様からのお知らせ?」

「たぶん今日中には来るな…お知らせが…。すまんが支度してくれ。艦に戻る。」

「何故急に?今日はデートのハズでしょ?」

「フルダスがカーキに入って来た。デートは俺が帰って来てからな。」

そう言ってコーヒーを置きパンをかじった。



ハイデは椅子から立ち上がり副艦長に

「参謀を覗いて来る。ここを任せる」

「は。」

副艦長のアデネ中尉はハイデの目を見て返事をした後ピタッと前を向いた。それを見たハイデは立ち上がり

「今は力抜いとけぇ。作戦中に力入らなくなったら困るからなぁ。」

「すみません…。実戦は初めての物で…。」

「今回の作戦で俺らの出番はないだろうがな。」

「しかし…」

「口答えするな」

「は。失礼いたしました。」

実際、実戦の経験がないのは副艦長だけではない。たぶんこの艦に乗っているほとんどがそうだろう。なのに、副艦長がこんなんで大丈夫なのだろうか…。少し不安を残しハイデは作戦室に入った。



「ただいま入電があった。作戦に変更はなしとのことだ。」

ハイデ少佐は暗い部屋で作戦区域の地図を広げた机を囲む参謀達に言った。

「わかりました。では今回の作戦について詳しく話し合いましょう」

とハイデよりも10歳歳上である、参謀長ウォーレン大佐が睨むようにしてハイデに言った。ハイデも負けまいと

「あぁ。まずは私から言う。」

艦長の権限は戦闘時が一番強い。だが今この状態では作戦の考案にすぐれた参謀が強い。

「まず、旗艦を中心に輸送船で囲う。」

輸送船の駒を旗艦の駒の周りに並べる。

「前衛に軽巡(軽巡洋艦)のタージャ級を左からサムタージャ・カトリージャ・マセトリージャの順で配置。右舷には軽巡のムル級トムルとハムル、左舷には同じくムル級のカムルとエムル。後衛に重巡(重巡洋艦)のイーバ級のヤリーバとナイーバ。どうだ?問題点は?」

ハイデは自信を持って言った。でなければなめられると今までの経験が活かされた。

ウォーレンは睨んでいた目をさっきよりもキツくしハイデに言った。

「私は意義なしです。さすが前大戦を生き抜いた艦長だけのことはありますなぁ。お前ら、何か気に食わないことは?」

するとウォーレンの左にいた若い参謀が

「いえ。特にありません。」

と言って地図に向けていた目をウォーレンに移した。

ハイデは若い参謀のその動きを確認し

「その後、輸送船団をカーキ島のナフル海岸まで10Km地点まで前進させ、陸軍にあとを任せる。」

と言いウォーレンと目を合わせた。

やはり、ハイデを睨んでいた。それもさっきとはまた睨み方が違う。実は笑っているのではないのかと錯覚するほどに睨まれていた。

「作戦会議を終了する。では健闘を祈る。」とウォーレンはハイデに敬礼した。

ハイデは踵を揃え敬礼をし

「はっ。」

と礼儀正しく重苦しい作戦室を後にした。

参謀のドアを開けると甲板に反射した太陽の光が艦橋を照らしていた。

ハイデは清々しい気持ちで椅子に座った。

「気持ちいいなぁ」

と忙しく動き回る士官達を見て言った。

「は?」

アデネにはなんのことだか理解できなかった。

「ああ、いや。独り言だ。忘れたまえ。それより参謀室の奴らは気味が悪い。どうせ机の上でカリカリしかやったことがないんだろうよ。」

とハイデは肘をついて言う。アデネは

「はぁ。」

としか言いようがなかった。

「参謀長は睨んでくるし、居心地悪いな、この艦は。」

「私はこの艦はとても好きです。二つ目の家と思ってます」

と言うとハイデがアデネを睨んだ。

「ああ、すみません…。」

「まぁ、いい。二つ目の家か…。物好きだな。」

ハイデは前に顔を向け、目を細めた。

「いえ、そんな…。たぶんここにいる皆さんもこの艦が好きですよ」

アデネはまたハイデの視線を感じた。

「お前はよく反論するなぁ。学校でそう教わったのか?それともこの艦は好きだが俺のことは嫌いなのか?」

「そんな事はないです!…すみませんでした。…あ、そろそろ機関室を確認してきます。」と言ってアデネは軍帽を直し艦橋を出る。

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