潮騒の庭で 6
行きとは違い、帰りの船旅は長い物となった。
ブライを出発したガレオン船は、ロワイヤン、ラ・ロシェル、ル・コンケを経由して、一時イギリス領へ入り、ガーンジーを経てカレーへと直行する。その後、ドーヴァーを渡り、ロンドンに到着するのは、四日後の朝八時頃となる。
その間、する事と言えば、港に停泊中に露店で食事をするか、旅を共にする大道芸人の芸鑑賞くらいであったのだが、エインの鞄半分ほどを埋めた書籍のお陰で、暇を持て余す事は少なかった。珍しく船内にシェフがおり、食事まで振舞われた約四日の船旅は、フランスでの憂鬱な日々を暫し忘れるほどに充実した物と思え、エインも終始上機嫌だった。
読書やこれらの暇潰しの合間、特に就寝前には、二人で何気ない会話を交わした。
料理の話、掃除方法の話、花の話…。
大抵はエインが少々の薀蓄を語り始め、それにヴィヴィアンが質問する事で会話に発展して行ったが、珍しくエインが知らぬ事について質問し、ヴィヴィアンが教示するという事もあった。
ただ、話の内容は本当に何気ないものだったのに、後に思い出しても、二人ともこの会話の内容はきちんと総て覚えていた。
そして、天候も懸念されていたよりずっと安定した四日となり、予定より二時間ほど遅れはしたが、無事にロンドンの「ハウランド・グレート・ドック」に到着した。
積荷を下ろすシティ・ポーターや乗客、乗客を出迎えた人人でごったがえす中、両手に二人分のバッグを下げ、匠に人の波の隙間を縫って進むエインを、ヴィヴィアンが小走りで追う。大通りで辻馬車を拾おうとしていたようだったが、下船する乗客目当てに往来している辻馬車はあっという間に第一陣が発ってしまい、出発は当分出来そうもなかった。
「仕方ない。港から出るのは気が進まないので、その辺りの露店でも覗く事にしよう。
ああ、ちょうどいい、食事をしよう。」
そう言ってエインが指差した先には、行きに食事をしたあの露店があった。
歩み寄り、挨拶をすると、振り向いた店主がにこりと笑った。
「やあ、教授。やっとお帰りかい?」
「ああ、今回はちょっと長かったよ。」
「珍しい事もあるもんだ。大抵は一週間くらいで戻って来るのにねぇ?」
「色々イレギュラーな用事が立て込んでね。二人分お願いするよ。」
エインは店主に幾らか手渡すと、ヴィヴィアンにあそこに座ろうと言って席に着いた。
すぐに、店主が常備してあった紅茶と、出来たばかりのサンドイッチが運ばれてきた。
「メニューを少し変えたんですよ。」
目の前に置かれた皿の上には、先日見たものとは別の具材が挟まったサンドイッチが並んでいた。が、店主が言っているのは具材ではない事はすぐに解った。その隣に、こちらでは見慣れない食べ物が見えた。それは小鉢に入れられ、振動が伝わるたびにプルプルと揺れる薄桃色の何かだった。ヴィヴィアン自身も、久しくこの食べ物を見ていなかった。
「果物が値上がりして、大した儲けにもならなくなっちまったんで、女房と二人で作ってみたんですよ。
東洋の”カンテン”とか言う材料をただで分けてくれた人がいましてね。それが水と混ぜると糊みたいに固まるんだ。こりゃ面白いってんで、粗めのペースト状にしたフルーツに、砂糖とミルクと混ぜてみたんですよ。」
店主の言う”カンテン”は、ヴィヴィアンの時代で言う大昔に”寒天”と言われた多糖類の事で間違いないだろう。すると、これは差し詰めミルクゼリーとでも言うべきか。ミルクゼリーは、まだ食用として純度を高める事が出来ないゼラチンの代わりに寒天を使う事で、若干固めではあるが、艶の抑えられた上品な佇まいで小鉢の中で踊っている。
「アイデア商品だね。」
エインが言うと、店主は「でしょう」と満足そうに言って、「ごゆっくり」と去って行った。
「急ぎの用はないから、ゆっくり頂こう。」
エインの言葉に、ヴィヴィアンはちらりと通りの方を見やる。辻馬車一陣はまだ戻って来る気配がない。元々そこまで速い食事が出来ない性分だが、時間が余ってもと思い、いつもよりさらにゆっくりと食事を進めた。
だが、所詮簡素な食事である。三十分ほどをかけるのが関の山で、デザートのミルクゼリーに手を着ける事になった。大分丁寧に冷やされていたのか、まだ小鉢は冷たかった。ティスプーンで掬うと、ゼリーはぷるるんと揺れ、朝日に輝いた。薄桃色の正体は苺とラズベリーだったようで、口に含むと、甘酸っぱいベリーの酸味と、程よい甘さが広がった。
普通のフルーツを食すよりずっと清涼感があるデザートのお陰で、腹は満足に満たされた。
最後に紅茶をもう一杯貰い、席を立ったタイミングで、辻馬車が何台か通りに見えた。
「いい頃合いだね。」
エインがポケットから時計の針は、もう少しで十一時を指そうとしていた。「ちょっと半端だけど、いいか」と独り言を言いながら、エインがバッグを持って辻馬車へ向かう。
荷物についてはもう何も言う気も起きず、ヴィヴィアンは黙ってついて行く事にした。
待合客は数名いたが、運好く一台の四輪箱馬車を捕まえる事が出来た。荷物を車内に置き、目的地を目指す。
「ウエスト・エンドのハイド・パークへ向かってくれ。」
行き先を告げると、運転手が鞭を一振りする音がし、馬車が揺れ始めた。
「一時間ほどかな。
以前言ったけど、連れて行きたい店があってね。
その前に、数時間ほど、所用を済ませなければならないんだが…。
パークの東のパークストリートに、友人が店を構えているんだ。
少少男勝りで、ヴィヴィとは正反対だが、歳が近いから見知っておくといい。」
そういえば、エリーズが言っていた。なんでも、『セレクトショップをやっている女性』が友人にいるのだったか。
「どのような方なのですか?」
興味が沸いたのと、目的地までの約一時間弱の間の暇潰しになればと思い尋ねると、エインは質問が嬉しかったのか、嬉々として話し始めた。
「サンアッチ教授の紹介で知り合った、ロンドンで初めて出来た友人なんだ。
溌溂としているし、たまに辛らつな意見を言うが、性格は決して悪くないし、気遣いも出来る女性だよ。
色々な知識も持っているし、礼節も弁えている。
ヴィヴィにとっても安心して付き合って行ける友人になるはずだ。」
そんな語りから始まったエインの話によると、女性はアラベラ・オルコットと言う名らしい。縫製職人の家に生まれ、家業を継ぐ傍らで自らの作品を売るショップを出店した実業家だそうだ。
そのうち、自作のドレスに限らず、方方で入手した様様な小物やアクセサリーを併せて取り扱うようになり、現在のセレクトショップを確立したそうだ。
実業家としての才能は高く、一見男勝りだが、裁縫のほか、フラワーアレンジメントも得意とする女性としての一面も兼ね揃え、ユーモアも持ち合わせて、エイン曰く「ボクの友人の中でも一、二を争う高度な女性」という事だった。
些細な、しかしヴィヴィアンでも思わす笑いそうになるようなユーモラスなエピソードを幾つか聞いているうちにハイド・パークに着き、先に所用を済ませると言って、御者にさらに細かな説明をし、馬車はとある屋敷の前で停まった。
「ここの主人からも仕事を引き受けていてね。その報告をする。」
言いながら、エインが屋敷の扉を叩くと、中から身なりを整えた執事を思しき老紳士が顔を出し、エインを見るなり「お待ちしておりました」と言って中へ招き入れた。
デリケートな話だと言うのでヴィヴィアンは独り応接室に通され、茶や菓子を振舞われたが、エインが屋敷の主人と書斎に籠もって話し込む凡そ三時間の間、ほぼ放置された状態となった。
庭なら自由に歩き回ってよいと言う事だったので、ヴィヴィアンは庭へ出る事にした。庭へは通された応接室から直に出られ、疲れたら部屋に戻ると言う事を繰り返し、暇を潰した。が、当然それだけでは飽きて来る。程なくして執事が書籍を幾つか持って来てくれたので、待ち時間の殆どを読書に費やした。
やがて、陽も傾き、部屋の中も薄暗くなった頃、エインが戻って来た。
「済まなかったね。」
「いえ。」
すくと立ち上がると、エインは「行こうか」と言い、執事に声をかけた。
「馬車のご用意をしております。」
「お手数おかけします。」
「お安い御用にございます。ミス・オルコットのショップでよろしいでしょうか。」
「はい。お願いします。」
主人の好意で店まで馬車を出して貰え、徒歩で凡そ十分ほどの道のりを、馬車で走る。
そして、アラベラの店へと到着をした。
エインが御者に礼を述べている間に、ヴィヴィアンは荷物を下す。戻って来たエインが、店の扉を思い切り開ける。
「御免下さいな。」
おどけるエインの声に、店の奥から真っ赤なドレスを来た女性が出て来た。女性はエインを見るなり、ぱっと大きな口を広げて笑った。
「教授!」
女性の反応に満足げに笑い、エインはヴィヴィアンが脇に置いた荷物を持って店内に入る。ヴィヴィアンも続くと、店の適当な場所に荷物を置き、エインが女性に手を差し出しながら歩み寄った。
「久しぶりだね、アラベラ。」
「本当に! お待ちしてましたのよ!」
そう言い合いながら、エインとアラベラは軽いハグを交わした。本当に親しい様だ。
「今日は、ちょっと頼み事があってね。紹介するよ、先週からボクの屋敷に来ているヴィヴィアンだ。」
エインの翳した手の先にいるヴィヴィアンを一目見、アラベラは淡く笑った。
「いらっしゃい…、ヴィヴィアン…。」
何故か切なげにそう言うと、アラベラはヴィヴィアンに近付き、ふんわりとヴィヴィアンの頬に両手を添えた。
初対面で、しかも今初めて紹介されたというのに、アラベラは、まるでヴィヴィアンとの再会を心待ちにしていたかの様だった。
「初めまして…。」
驚いて控えめに返すヴィヴィアンをまじまじと見つめるアラベラの瞳と、艶やかな髪は漆黒色。頬はチークを入れているのか薔薇色をしていて、同じ色のアイシャドウも挿している。大きくしかし決して下品ではない唇には、真っ赤な口紅がひかれている。そしてドレスは深紅色。
派手だが、厭味のない出たちのアラベラは、ヴィヴィアンにすっと馴染んだ。居心地の好い人物、そんな印象を身に纏っている。
アラベラは暫くヴィヴィアンを見つめた後、エインに振り返り、「頼み事って?」と尋ねた。
「好いドレスがないかと思ってね。」
「まあ。ちょうど良かったのよ。今し方出来上がったばかりの新作があるの。きっと似合うわ。」
そう言いながら、アラベラがヴィヴィアンを見た。
誰の、とエインは言わなかったのに、アラベラはヴィヴィアンの物だと承知して話を進めている。エインも何も言わないので、アラベラの想定は正しいようだ。エインの胸のうちなどお見通しなのだろうか。
「ヴィヴィとお呼びしても?」
「は、はい、どうぞ…。」
「じゃあ、ヴィヴィ、早速試着しましょ。サイズを合わせないと。」
アラベラは嵐のように次々話を進めて行く。颯爽とヴィヴィアンの手を取ると、奥にあるフィッティングスペースに引き摺って行き、中に入るように言って、自分は早足でさらに奥へと行ってしまう。と思えばあっという間に帰って来た。手には美しい乳白色のシルクのドレスを持っている。フィッティングルームに一歩入り、カーテンを締めると、ヴィヴィアンをくるりと回し、背の包みボタンを外し始めた。
「サイズは試着をして、すぐに合わせ直すから。」
「…はい…。」
戸惑いながら返事をする。
アラベラは手慣れた手付きでドレスをヴィヴィアンに宛がい、少し身を引いてヴィヴィアンを見回したり、ヴィヴィアンを右、左とくるくる回して状態を見た。
「少しの直しで良さそうね、ばっちりだわ。」
そう言うと、アラベラは改めてヴィヴィアンと真正面に向き合い、微笑んだ。そしてカーテンの隙間からエインを見、「すぐに出来上がると思うわ」と言った。
それを聞いたエインは、「じゃあ…」と言い、壁から背を離す。
「ちょっとそこら辺りをうろついて来るよ。二十分もあればいいかい?」
「ええ。」
アラベラが頷くと、エインは「頼んだよ」と言い残し、店を出て行った。
独り取り残され、ヴィヴィアンの戸惑いはさらに大きくなった。しかし、アラベラは困惑の表情を浮かべるヴィヴィアンにも構う事なく、ドレスのところどころを摘み始めた。
「近々、教授が誰か連れて来ると思って待ってたのよ。
間に合ってよかったわ。」
「以前も、このような事が…?」
アラベラの言い回しに疑問を感じ尋ねると、アラベラはくすくすと笑いながら、しかし手を休める事もなく続けた。
「とんでもない!
教授は女性に何て興味ないんじゃないかと思うくらいの人よ。でも最近、素敵な助手さんを迎えられたと聞いたので、何か探しに来るんじゃないかと思って。」
「……。」
「サンアッチ教授にも、よくして頂いているの。彼からのご紹介なんでしょう?」
「はい…。」
「サンアッチ教授も、よい子を出しておいたからと仰っていたから。」
「……。」
何とも返答のし難い話で、ヴィヴィアンは黙って聞く事にした。アラベラは話しをしている間に、ヴィヴィアンのドレスを一度脱がせ、先ほど摘んだ部分を留め針で止めまわしている。
「体型も大体伺っていたの。でもこんなにきちんと合うとは思わなかったわ。さあ、試着は終わり。手直しもすぐ終わるから、一度その可愛らしい緑のドレスを着て、待っていて頂戴。」
言うなり、アラベラはさっさと店の奥へ行ってしまった。
ヴィヴィアンは元のドレスを着直すと、フィッティングルームから出、店の片隅にあるソファに腰を下ろした。そこへ、アラベラが戻って来た。手には小さな丸椅子と、針や端切れ布、糸のたんまり入ったバスケット、先ほどの白いドレスを持っている。
アラベラはヴィヴィアンの傍に椅子を置き、そこへ座ると、針仕事を始めた。
「フランスへ行かれてたんですって?」
「はい。ボルドーへ行って参りました。」
「そう。フランスは初めて?」
「はい。」
「どなたに会ったの? ボルドーへは、ベルトワーズ伯のお屋敷にお邪魔するために行くと聞いたけど。そうそう、アンはお元気? 一度、フランスまで行って、ドレスを一着差し上げたことがあるの。」
忙しなく、しかし規則正しく指先を動かすアラベラは、手元から視線を外す事なく楽しそうに話していたが、 アンの話題になり、ヴィヴィアンが口を閉ざしたので、怪訝そうな表情で顔を上げた。
ヴィヴィアンは俯いて、何故かじんと痛む指先を擦りながら、「亡くなられました」と答えた。
「まぁ…。」
アラベラは、意外とも、そして半ば予想していた通りとも取れる、何とも微妙な反応をした。
「五日前になります。」
「……そう…。あまり、体の具合が好くない人だったから…。
残念ね…。」
アラベラは溜息混じりに言い、再び針を動かし、そして「でも」と続けた。
「これで、教授の肩の荷も降りた事になるわね…。」
「…と、言いますと?」
気になり、アラベラの顔を覗き込むと、アラベラはふと笑った。
「ん? うん…。
アンには、ずいぶん頭を悩ませていたと聞くから。」
曖昧に言い、表情も変えずに針を注視するアラベラに茶を濁されたようで、ヴィヴィアンは少少歯痒かった。が、古い馴染みとあれば、色々と知る事もあろうし、本人の許可なく話す事も赦されないだろう。
仕方なく、ヴィヴィアンは深追いをせず、「そうですか」と短く答えて終わりにした。
それから約二十分、当たり障りのない、しかし、割かしと興味深い話を聞き、過ごした。
針はその間も止まることはなく、あっという間にサイズ直しは終わった。
「さあ、出来た。もう一度、フィッティングルームに入ってくれる?」
言われて、再びフィッティングルームに入り、今度は指示をされる前にドレスを脱いだ。
緑のドレスと白いドレスを交換し、着ようとすると、アラベラが「ちょっと待ってね」と言い、店の奥から大層なボリュームのパニエを持って来た。
手渡されたパニエを履き、ドレスを体に通す。その間に、アラベラがフィッティングルームの片隅にある布のかかった大きな板に近寄った。布の下から現れたのは、大きな全身鏡だった。
アラベラはヴィヴィアンの後ろに回り、ヴィヴィアンを鏡に向けると、背のボタンを留め始めた。
手直しされたドレスは、先ほどの試着よりずっと体に合い、動き易くなっていた。内心、アラベラの腕の高さに感心をしていると、背後でアラベラが「どう?」と問うた。
「着易いドレスですね。」
答えると、アラベラはふふふと笑った。
そして、ヴィヴィアンの肩に手を置き、後ろから鏡を覗き込む。
「うーん。」
何か不満なのか、アラベラは唸りながら店へと出、すぐに何かを手にして戻って来た。
帽子と、アクセサリーのようだ。
「ヴィヴィは色が白いから…。」
そう言いヴィヴィアンの前に立つと、幾つか鷲掴みにしていたアクセサリーの中から、真っ赤なガラス細工のネックレスを摘み上げた。それをヴィヴィアンの首に回しながら、
「濃い色が似合うと思うのよ。」
と言う。
帽子も、幾つか色や装飾の違うものを持っていたが、鍔の大きな真っ赤な帽子を選んで被せた。たわわな白い羽と、様々な木の実を模した小物が縫い付けられた帽子は、とても賑やかな印象なのに、派手過ぎず、好い印象だった。
「さあ、出来た。」
アラベラが身を退ける。
目の前の鏡に、自分が映った。今まで見に付けた事のないドレスに、帽子、ネックレス。
見るだけでは凡そ自分には似合わないと、絶対に選ばないものばかりを身に付けた姿は、自分の知るヴィヴィアン・トーマスではなかった。
「どう?」
問われて、「素敵なドレスですね」と言うと、大笑いをされた。何が可笑しかったのかとヴィヴィアンが驚きながら見ると、一頻り笑い尽くしてから、アラベラは静かに微笑んだ。
「ねえ、ヴィヴィ。
もう少し自分を愛しなさいな。
このドレスも帽子も、ネックレスも、ヴィヴィが身に付けたから素敵に鏡に映っているのだから。」
『自分を愛する』…。
余り、自発的には意識しなかった発想だ。黙ったまま、鏡越しにアラベラを見る。
「あなたの大事なものが大事にしているものを、あなたは愛さなきゃ駄目よ。
それが、失わずに済む、一番の近道だから。」
言われて、はっとする。今度は直にアラベラを見ると、彼女は少し何かを含んだように笑い、ヴィヴィアンの頬に手を添えた。
「この世は無常ね…。少しでも支え切れなくなると、粉々になってしまう。
自分を守りなさい。
それが一番の、近道だから…。」