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教授とシャンバラの時計  作者: L→R
月の港の極東人
33/40

月の港の極東人 12

 思い返して、感情が溢れてしまったように胸が締め付けられた。

 平静を装ってエインの部屋から出たヴィヴィアンは、逃げるように自室に戻り、駆け込んだ勢いのままベッドにうつ伏せに倒れこんだ。

 走馬灯のように脳裏を過ぎる過去の記憶に、今までにない動揺をしている。

 護れなかったあの時。後悔に苛まれたあの時。

 間に合わなかった『あの時』も、気付けなかった『あの時』も、護り切れなかった『あの時』も…。

 どの時も、ヴィヴィアンにとって、哀しく棄ててしまいたい記憶でしかない。

 特に一番最初の記憶は、消してしまえるなら命も惜しくないほどに、悔しい記憶でしかない。

 思い出すたび、体が粟立つ。

 それは、この手でエインを殺してしまった記憶だ…。


◆ ◆


 アンが亡くなってから、何度も何度も夜中にエインの部屋の様子を伺っては、起きているエインと言葉を交わした。

 神様とか、運命とか、そう言った、人の介在し得ない叡智や意思の存在などは、お互い信じてはいない。

 ただ、とにかく何でもいいからこの悲しみから解放されたいエインの言葉を聞き、同情するではなく前に進める切欠を作りたかった。

 何を調べているのか、エインはずっと本を読んでいた。

 日中も声をかけるが、やはり起きていて、本を読んでいる。

 食事も始めの内は気が進まないと食べずに過ごしていたが、数日すると少量は口に入れてくれるようになった。それでも、時間が惜しいのか、すぐに手を止め、本に目を移してしまう。

 見る見る痩せ細って行くエインをどう扱っていいのか解らず、ヴィヴィアンも手探りで毎日を過ごした。

 やがて季節が変わり秋を迎えた頃、屋敷に来客があった。

 男性で、名は聞かなかったが、エインの旧友と言うので取り次ぐと、エインは男を部屋に入れ、何をしているのか数時間後、帰って行った。

 一度切りなら何も思わなかっただろうが、その来客は毎週、決まった日、決まった二時という時間に訪れた。

 エインも特に警戒する様子も見せないので、ヴィヴィアンも疑問に思いこそすれ、深く追求する事はしなかった。

 男性はいつも、帽子を目深に被っていて、少し肌寒いエディンバラの秋の装いとしては至って自然な黒いコートを、襟を立てて着ていた。だから、顔を見た事は一度もなかった。唯一見えるのは、口許だけだ。輪郭すら、巧く隠している。

 辛うじて声だけは発するが、エインと同い年か、それ以下のようだった。

 そんな事が続いた冬直前のある日、数度目の訪問で、男性がヴィヴィアンを見た。

 暫く無言でヴィヴィアンを見るので、居た堪れずに何かと訊ねると、男は少し間を開けて言った。

「何故、役割を果たさないのです?」

「…!」

「あなたがやらないのなら、私がやりますよ。」

 男は静かに、ゆっくりそう言った。

 ヴィヴィアンの体が細かく震えた。自分の事を知っている。エインの事も知っている。

 ただの知人などではない。

「…あなたは…、施設の…?」

「そうです。

 と言っても、私は『教授の時間の方』ですけど。」

 エインがいた時代…。三〇年前の施設の…。

「…”cakravartin”…?」

 エインの時代もヴィヴィアンの時代も、時を流れる事を許された者は限られる。エインの時代なら特にだ。”cakravartin”以外に、有り得ない。

 だが、そんなヴィヴィアンの思惑は、すんなりと否定される。

「いいえ。

 いい線を行っていますが、私はそれに含まれません。」

 男はそう言って、口許だけで笑った。

「…どちらかと言うと、あなたの立場に近いんですよね。」

 ヴィヴィアンは身構えた。

 自分の立場に近い。その言葉が意味するのは、少なくとも自分の認識の中では一つしかない。

 『エインを罰するために流れた者』だ。

 だが、自分が知る限り、エインがいた時代にそのような役割を担う者はいなかった筈だ。

 記録にないだけなのだろうか。だとしたら、何故ないのだ…?

 さらに、エインの時代の者ならば、そもそも自分の存在を知る筈がない。

「身構える必要はありません。

 私はあなたを監視している訳ではないし、エインを殺しに来ている訳でもありません。

 私の事はじきに解るでしょうから今は言いませんが、ちょっと気になりましてね。」

 男性はそう言うと、口許の笑みを消した。

「気を付けなさい。

 あなたが思っているほど、時間の流れは穏やかではない。」

 男性の言葉に、ヴィヴィアンは眉を顰めた。そんなヴィヴィアンに、男性はふと笑いかける。

「一粒の雫が水面に与える影響は大きい。

 あなたが望めば、道はそちらへ通うかも知れません。

 エインを護るのも、殺すのも、あなたの心次第…。」

 男性はそう言うと、帽子を軽く摘み上げ、それを挨拶代わりに屋敷を去って行った。

 ヴィヴィアンは、男性が去った後もその場に立ち尽くした。

『エインを護るのも、殺すのも、心次第』…。

 自分が望めば、必ず殺さずに済む道が拓けると言うのだろうか。

 だとしたら、縋り付きたい。

 エインが、生きる道があるのなら…。

 翌週、変わらず訪れた男性は、先週の事などなかったかのように、いつも通り屋敷を訪れ、ヴィヴィアンには目もくれずに誘導されたエインの部屋で数時間過ごした後、帰って行った。

 ヴィヴィアンは声をかけようと思ったが、男性の素っ気無さに先週の会話の現実味が薄れ切ってしまい、声がかけられなかった。

 翌週も、その翌週も…。男性は規則正しく屋敷を訪れ、ヴィヴィアンも男性を見るなり無言でエインの部屋へと通す。繰り返し、繰り返し、こんな日を毎週過ごすうち、ヴィヴィアンもそのうち男性に声をかける事を諦めた。

 月日はだらだらと、そして淡々と流れ、エインの様子も変わらぬまま、そして男性の訪問目的は明かされぬまま…、気付けば半年が過ぎようとしていた。

 その間、特に変わった事もなく、ただ時間だけが過ぎて行ったように思う。

 否、違う。

 その時は、そう思いたかっただけなのだ。

 ”気付かなかった”だけだと…。


◆ ◆


 さらに幾月か過ぎ、そろそろ冬の気配を感じるようになった頃、屋敷を訪れた男性が、エントランスであの日と同じようにヴィヴィアンに声をかけた。

「…心は決まりましたか?」

「…。」

 不意に声をかけられたので驚き半分、そして質問の意味を捉えきれず戸惑い半分、ヴィヴィアンが目を見開いたまま無言でいると、男性は口許でふと笑った。

「宜しいでしょう…。

 あなたの心はわかりました。

 エインの心もわかりました。

 従って、私は今日、役目を果たさねばなりません。」

「役目…?」

「ええ。」

 男性は一つ頷いて見せると、ヴィヴィアンに外に出るよう促した。

 男性に続いて、屋敷の裏手へと回る。屋敷のある丘の周辺は、整備されたとは言えまだ森が広がっている。

 男性は森へとずんずん歩いていく。昼間だが、森の中に入れば木漏れ日のみで、辺りは暗い。ヴィヴィアンは足元と男性の背中を交互に見ながら後に続いた。

 やがて、男性が足を止めた。

 そこは森の中だが数本木が倒れていて、小さな広場のようになっていた。

 時折人が来るのか、パイプ煙草の吸殻が落ちていた。

 ヴィヴィアンが何用かと男性を見つめると、男性はヴィヴィアンに振り返ってこう言った。

「いつか、お伝えしましたね。

 私は、あなたと似た立場にある、と。」

「…ええ…。」

「その意味をお教えする時が来たようなのですよ。」

「…?」

 男性はそう言って、外套のポケットに手を突っ込んだ。

「この世の摂理をご存知ですか?」

 唐突に問われ、ヴィヴィアンは口篭りながら「いえ」とだけ答えた。どう答えたものか、難しい質問だ。如何様にも答えられるが、そもそも答えなどない質問だからだ。

「私は、その摂理を守る役目を担う者です。」

「”摂理を守る”…?」

「ええ。

 ヴィヴィアン。

 この世にはね、守らねばならない事が沢山ある。

 ”そう定まった”その日から、”それ”はいつどのような状況にあっても、”そう”でなければならないという決まりの元に、ね。」

「…。」

「ヴィヴィアン。

 ご存知ですか。あなたはどうあっても、”エインを殺さねばならぬ”事を。」

 ヴィヴィアンが目を見開いた。殺さねばならぬとは、どういう事だ…。

「どういう…事です…?」

「ご存じないのも仕方のない事ですね。私はそれであなたを責めたりはしない。

 でもね、私以外の人は、知らないからとあなたを赦せる立場にない、という事です。

 未来ではね、何が何でも、エインが死ななければならないのです。」

「…どういう事です!」

「どうもこうもないのです。そうしないと、歴史が歪むのです。」

「それは、”cakravartin”だからですか!?」

 歴史が歪む。そもそも、歴史を変えようとしているのだから、そうなのだろう。そしてそれならば、エインの他もその対象のはずだ。

 だが、男性は不適に口許で笑った。

「ちょっと違います。

 ”cakra()vartin()”が時間を流れる事も、彼らが歴史を少し変える事も、すべて決まっていることです。だから何の影響もないのです。」

「何故です!?

 歴史を歪める者たちには違いない筈です。」

「理論上はね。

 でもね、ヴィヴィアン。

 この世には時間の”筋”と呼ばれるものがあって、その中を流れる時間は初めから終わりまで定まっているのです。そして、エインはその決まりを変えようとしている。これは由々しき問題だ。」

「…どういう…事です…?」

「詳しくは言えません。

 が、ヴィヴィアン。私からあなたに、エインを殺さぬ選択がある事はお伝え出来ます。」

「…!」

「知りたいですか?」

 知りたい。エインが生きる道があるなら、何でもいいから…。

 ヴィヴィアンが頷くと、男性はそれは愉快とにんまり笑いながら、肩を揺らした。

「それはね、ヴィヴィアン。

 エインの”対”であるあなたが、死ぬ事です。」

「…なッ…!」

 ”対”…?

 ”対”とはなんだ?

 自分がエインの”対”?

「”対”…?」

「そう。”対”です。

 宇宙の成り立ちをご存知ですか?」

「…。」

 宇宙の成り立ちなら、小等部の頃に少しだけ習った。極小さな物質から、莫大なエネルギーの放出があった。エネルギーは一秒という間に物質同士がぶつかり合い、混ざり合い、消し合い、今の宇宙や人類を形成するための物質を作り上げた。その後は冷えながら膨張の一途を辿っている。

 それが何だというのだ。

「ごく小さな物質から産まれたエネルギーに含まれる物質には、”対”となる反物質が存在した。

 これらがお互いを消し合い、残った物質、残りカスが私たちを作り上げた。

 実はね、これはすべての”事象”にも当て嵌まる事が証明されたのですよ。」

 ヴィヴィアンが眉間の皺を深くした。

 その研究については知っている。元の世界で聞いていたし、実際研究に携わった者も、研究所にいた。

 だが、ヴィヴィアンの世界では、それについては証明出来なかった筈だ。

 ならば目の前の男は、ヴィヴィアンの世界よりも”後”の世界から流れて来た事になる…。

「私が…、教授の”対”…。」

「そう。”対”です。

 相反する”対”のものは、同時に存在出来ない。お互い消し合わなければならず、そしてどちらかは必ず残る。

 あなたの世界では証明されなかった事ですが、人は摂理としてそれを無意識に知っている。

 あなたに任を下した”あの人”は、無意識にあなたが”エインの対”である事を知っていたんですよ。

 否、これでは少し語弊が生じるな。言い換えましょう。

 ”エインが生きているという事象”と”ヴィヴィアンが生きているという事象”が”対”、なんですよね。

 だから、あなたがエインの元を訪れるのは決められた事であり、そして…。」

 エインを殺す事も、否、”エインが生きているという事象が打ち消される事”も、決められた事と言う事か…。

 だから、エインを生かしたいのなら、対である自分が生きている事象を消せばいい、と…。

「…。」

「納得出来ました?」

「…それが真実かどうかは解りませんが…。」

 でも、何故かこの男性は、嘘は吐いていないと思った。語られている事は真実であり、唯一の道なのかも知れない、と。

「私が来なければ、教授と消し合う事はなかった、という事ですか…。」

「ええ。でもそれも不可能でした。

 何せ、あなたがここへ来る事は、決まった事でしたので。」

「…。」

 いずれ、どちらかが消えねばならない宿命だったと。そういう事か。

「私が死ねば、教授は生きられるのですか? 喩え、その意志がなくても。」

 それが重要なのだ。

「そうですね。

 彼は自死を選ぶようなタイプではないので…。」

『エインを護るのも、殺すのも、心次第』…。

 なるほど。自分が死ぬか生きるか、その心次第と言う訳だ。

 ヴィヴィアンの口許が緩んだ。

 提示された可能性の皮肉さに、思わず笑ってしまったのだ。

 そして、それでは意味がない事にも、笑わずにおれなかった。

 そう、意味がない。

 エインに生きる意志がなければ…。

 ならば…。

「ならば…。

 私はまだ、教授を殺す訳に参りません。自分が死ぬ訳にも。」

「ほう?

 それは困りました。

 そろそろタイムリミットなんですよね。」

 男性がポケットから手を出し、外套の胸ポケットに入れた。

 ヴィヴィアンが、無意識に右足を微かに引く。

「タイムリミット?」

「ええ。

 そろそろね、エインかあなたが死ぬときなので…!」

 言い終わらぬうち、男性が素早く銃を握った手を外套から抜き、ヴィヴィアンを狙い撃って来た。

「…ッ!」

 辛うじて引き金を引く前に弾道から体を避けたが、狙いは正確で、一瞬でも反応が遅ければ撃たれていただろう。ヴィヴィアンの背中を冷や汗が流れた。

 男性はヴィヴィアンを見て、すぅと息を吸い込んで笑った。

「ほほぅ。噂通り。」

 満足げな哂いに、ヴィヴィアンが顔を顰めた。

 今の銃は、ヴィヴィアンのいた世界で開発されたものだ。火薬による実弾を使用した旧タイプの銃を基本に、特殊火薬を採用し、弾速が三倍になる改良を施した。

 軍でも基本装備として支給されるハンドガンだ。当然、ヴィヴィアンにも支給された。

 だが、エインの時代から来たと言うのに、何故この男がそれを持っているのか。

 彼の言った事は嘘で、本当はヴィヴィアンと同じか、それ以降の時間から流れて来た者なのでは…。

 ヴィヴィアンが思考を巡らせていると、男性は一層哂った。

「さあ、ヴィヴィアン。

 あなたも銃を出しましょう。

 それで私を狙いなさい。

 あなたなら、この私を狙い誤る事はないでしょう?」

 挑発的な言い草に、ヴィヴィアンが苛立った。

 こんな事で苛立ちを覚える性格ではないと自覚していたので、同時に驚いてもいた。

 エインと自分に関する理論に、動揺しているのだと思った。

「さあ…。」

 なお挑発する男性に唆された訳ではないが、ヴィヴィアンはゆっくりしゃがむと、スカートを裾から小さく捲って手を入れた。銃は常に、膝下に添えてあった。”いつ”、”何”があってもいいように。

 指先に冷たい金属が触れた。慣れた手つきでそれを握ると、立ち上がりながら取り出す。

 男性と同じ銃。

 その銃口を男性に向ける。

 黒光りした銃は、きらりと光りながら男性を捕らえた。一方で、男性の銃はどことなく薄い色をしていた。素材が少し違うのかも知れないと、ヴィヴィアンは無意識に推測する。

「そう、それでいい。」

 男性は満足げに言うと、ヴィヴィアンに向けていた銃口を外し、両手を横に広げた。降参のような素振りだが、まるでヴィヴィアンを馬鹿にしたような態度に見えた。

「さあ、引き金を引きましょう。

 それで私を撃つのです。それで総て解決です。」

 何が、総てなのか…。

 何が…、解決するというのか…。

 何も解らなかった。

 だが、不思議とこのとき、ヴィヴィアンは”この男がいなくなれば、エインとの理論は崩壊する”ような気がしていた。

 後に思い返しても、何故そう思ったのか解らない。

 だが、この思いは強かった。

 ヴィヴィアンはほんの少しだけ躊躇いながら、引き金にかけた指に力を入れた。

 ぐ…ぐぐ…。

 力を入れるたび、撃鉄が動く鈍い音がした。

 ヴィヴィアンの鼓動が早くなった。こんなに構えた銃を撃つ事を躊躇った事は、今までなかった。

 だが躊躇いこそすれ、ヴィヴィアンの思い自体に躊躇いはなかった。

 そして…。


◆ ◆


 ふと、我に返った。

 心臓が、ばくばくと震えている。指先は冷たくなり、脂汗を掻いていた。

 ヴィヴィアンは体を起こすと、ベッドの縁に座って頭を抱えた。

 長い長い回想を経て、信じられないものを思い出した。

 信じられない…。

 何故…。

 ヴィヴィアンは両手の平を見て震えた。

 あのあと…。

 ヴィヴィアンは引き金を引いた。

 撃つ直前、急に怖くなって目を瞑った。

 だが、狙いは狂わず銃弾は男性目掛け、真っ直ぐ撃ち出されたのだった。

 銃鉄が、銃針を叩く音が聞えた。今でもその音を覚えている。

 その直後、重く苦しげな呻き声が聞えたのだ。

 ヴィヴィアンはゆっくりと目を開けた。そして愕然とした。

 そこには、エインがいたのだった。

 エインは男性を庇うようにして立ち、銃弾を受けて前屈みに崩れ落ちるところだった。

 ヴィヴィアンの血の気が一気に引いた。

 何故…。

 何故、エインが…。

 手から銃が毀れ、どさりと草上に落ちた音で、膝の力が抜けた。ヴィヴィアンが崩れ落ちるのと同時に、エインがうつ伏せに倒れた。

 そして、そのまま動かなかった。

 男性はにやりと笑ったまま、エインとヴィヴィアンを交互に見ていた。

 男性の思惑通り、エインは死んだ。”対”である、ヴィヴィアンの手に掛かって。

 総ては決められた事。この世の摂理…。

 頭の中で、男性の声が響いた。

 ヴィヴィアンは顔を手で覆った。

 違う。

 何が”決まり”だ。

 あのときそう思って、睨み付けた男性は、帽子を少しだけくいと上げ、暑そうに外套の襟を少しだけ開けた。

 その瞬間見えた男性の顔。

 顔下半分しか見えず、光の具合ではっきりとは見えないが、特徴的な顔…。

 掘りが深い…。

「…イトダ…。」

 間違いない。

 あれは、”イトダ”だ…。

 そして声を思い返して気付く。

 あの男の正体は…、アルフォンス・イトダ。

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