第8話これがラブコメ要素。行き来する異世界。
自由気ままで人の話なんてひとつも聞かない。けれど明るく優しく、好きな物や正しいことを貫く立原さん。
が、恐ろしい竜王ドラギアスに転生した。
そいつがあまりにも暴君過ぎるので今すぐ転職したい。
「し…死ぬ」
モブ兵に与えられた三人共用の部屋。二段ベッドの下へと倒れ込む。他の二人は寝てしまっているようだ。
俺はと言うと激務後残飯みたいな薄いスープを食べ冷めた風呂に入ってやっと就寝、という社畜っぷり。
貿易商との取引と今月の収支報告、軍法会議。
全部押し付けられた。立原さんこと竜王ドラギアスは後ろで相槌を打ったり爪見たり居眠りしたり。
コッチは初日から過労死寸前なんだけど…
ぐぅぅ…
「腹減ったァ…」
異世界転生後の死因が過労死とか絶対嫌だ───
疲れきったモブ兵士の体はいつの間にか寝落ちていた。
◾︎◾︎◾︎
リリ──リリリリ
聞き覚えのある電子音。毎日の習慣により枕元で音を立てる四角い端末を手に取る。
7:00
端末に表示された時刻と愛犬の壁紙。ぼんやりとしていた頭が次第に覚醒を迎えるにつれ混乱が生じた。
「……あれ?」
飛び起きて洗面台の鏡に映ったのは黒髪センター分け、特に目立った顔のパーツのない見慣れた"宮田律"の姿。
部屋は共用部屋ではなく一人暮らしをしていた自室だ。
「は?…夢?……いや、いやいや!絶対夢じゃないだろ?!」
スマホを手に取り日付を見ると転生した日の次の日。だが、夢と思うにはあまりにリアルすぎる。
「…そうだ立原さん!…って連絡先知らないんだった」
俺と同じくジュラ王国に異世界転生した立原衣留香さん。彼女に会えば何か分かるかもしれない。
俺はハンガーからパーカーを引ったくり鞄にスマホを投げ込む。念の為、というか性格ゆえ講義の教科書も入れて。
一限にはまだ早いが我慢なんてできるはずも無い。俺は大学へ向けて走り出した。
が、結局立原さんは一限ギリギリに教室へ登場。金髪に褐色の肌。睫毛バチバチ、アイラインもリップもギャルに仕上がっている。
脳裏に強面竜王、ドラギアスが過ぎる。
うわ…立原さんだ……な、なんか変な感じ
でも友達と喋ったり笑ったりいつも通り…ってことは転生したのって俺だけ?それともやっぱ夢───
「アッ!宮田ク〜ン!」
ギャルがすごい勢いで近づいてきたと思ったら俺の隣に元気よく着席。短いスカートに包まれた太ももが俺の太ももに密着し喉が変な音を立てた。
「たったちはらひゃ」
「おっはー!起きたら元に戻っててマジビビった〜一生あの強面ドラゴンとかマヂねーわ!」
近い!そしてやっぱり夢じゃ無かった!!
「や、やっぱりアレ現実だったんだな…起きたら戻ってるのは予想外だったけど…」
「でもザンネン〜あっちの世界も結構楽しかったのにね〜」
相変わらず軽い。
俺としては同じモブ人生なら命の危険も王から押し付けられる激務も無さそうなリアルの方が嬉しい。
ギャルパワー全開な竜王ドラギアスが国を変えるのもちょっと見てみたかったけど…
「ねーねー宮田クン宮田クン」
「ン?」
「言ってた新作リップ。どーよ?」
「CAFAだっけ…付けたいって言ってたもん…ね……」
ピンクのハート型ビジューが乗っかった長い爪で薄い桃色で艶のある唇を指す。光沢のある綺麗な唇とその下に控える鎖骨と
胸の谷間。
肩が触れ合うほどの距離をつい意識してしまい、あっと思った時には顔に熱が集まっていた。
ぷにっ
唇に押し付けられる長い爪付きの指先。長いまつ毛と濃いメイクの瞳を細め立原さんは無邪気に笑う。
「どーこみてんの?エッチ♡」
体が発火したのではと思うほど一気に熱と焦りが襲ってきた。
「何も見てない!!」
大声と共に机を叩き立ち上がる。
一拍置いて立原さんが噴き出した。
同時に俺は回りの学生からの視線にハッとした。
「宮田ァ。教科書は見ろ〜」
講師からの注意後、ドッと笑いに包まれる講堂。
人生で一番恥ずかしい日だ───
マジで恥をかいた。
二度と陽キャギャルとは関わらん。そう思ったはずなのにちゃっかり立原さんと連絡先を交換してしまった。
いや別に。胸に惑わされたとかそういうのではないし。断じて。
3コマ分の講義が終わりいつも通りゼミ。
帰宅して風呂に入っている間に立原さんからは、カフェの新作フラペチーノだとか道端の猫だとかいろんなメッセージが入っていた。
『美味しそうだね…猫、可愛いね』…と
立原さんって誰とでもこんな感じなのかな…ギャルってすげぇ。
夜も深けそろそろ寝ようかという寸前、ポコン。立原さんから一つのメッセージが。
『寝たらワンチャンまたドラゴンになってたりして〜』
有り得そうなきもする。俺はラノベもアニメも結構幅広く好きだ。
大体はリアルで死んで転生するか急に転生するか。元の世界と行き来する展開なんて見たことがない。
「寝たらまた、異世界…」
俺は立原さんに一言メッセージを返し部屋の電気を消した。
『まさか。勘弁して欲しい』
◾︎◾︎◾︎
ゆっくりと浮上する意識。パチパチと火の粉が飛び散る音がする。朝かと体を動かそうとすると───
ガチャンッ
は?
両手は壁に固定された手枷に縛り付けられ身動きは取れない。石畳の部屋を照らす松明。目の前には白髪モノクルつきの老人、セルヴァ。
「起きたか…貴様がドラギアス様に呪いをかけたことを証明してやる…」
特大フラグ回収&絶体絶命。モブ兵士宮田律。
今度こそ死んだ───




