23話立原衣留香は「カワイイ」が好き
アタシ、立原衣留香。“可愛い”に命を懸ける女。
見た目はノリ重視。でも実は意外と慎重派〜
「お…戻ってる戻ってる」
朝イチで洗面台の鏡を眺めるとゴリッゴリの竜から女子大学生にマジカルチェンジ。
アタシはどうやら異世界転生なるものをしているらしい。一日寝る事に国とか王様とかアニメの中みたいな世界に転生し、今日は現実世界ターン。
ヘアクリップで前髪を留め、スキンケアを施すのも久しぶりな気がする。
竜の時って面白いけどネイルもメイクもできねーしカワイくはないんだよね〜
起きて即メイク。ドレッサーに座ったところでデコパーツがギラギラ光を放つスマホが音を立てた。
「宮田クンだ♪ギャルうさぎスタンプおくっとこ」
同じ学科の宮田律クン。
彼もアタシと同じで異世界と現実世界を行き来する仲間だ。
真面目で常識人。石橋を叩いて渡り何事も計画的に実行するアタシとは真逆のタイプ。
そんな宮田クンとアタシの出会いは結構昔だったりする。
アタシはずっとギャルが好きだったしギャルになりたかった。
色黒または色白で派手な髪色と盛り盛りの頭。不便そうな長い爪に大きなデコパーツを引っ付けヒョウ柄とか大きなハートとか、とにかくそういうものを身に纏うのが好きだった。
高校の時は校則キビくて化粧もさせて貰えなかったンだよね〜その分休みの日はウィッグとかつけ爪使って派手にしてみてたっけな〜
高二の夏。アタシは休日に友達と遊ぶ予定があり電車で移動していた。
「ね、お嬢さん。アナタ肌だしすぎよォ?」
電車で座っていたら唐突に声をかけられた。目の前に立っているおばさんは更に続ける。
「まったく最近の若い子は変な格好が好きねぇ。アナタそれじゃあ体安売りしてるみたい。軽い女って思われちゃうわよ」
うわ…変な人だ。ヤバいカッコしてんのは自分でも分かってるしオメーの為にしてるわけじゃないから何言われてもいーんだケド…
体安売りねぇ…チョット、気分悪いかも
「あの」
アタシの横に座っていた黒髪ブレザーの男の子。
「彼女は好きな格好してるだけですが、貴方になにか迷惑をかけたんでしょうか?」
淀みのないハッキリとした口調におばさんは面食らったようだ。
「め、迷惑ではないけど…ねぇ……はしたないじゃない?女の子がこんなに短いスカート…」
「つまり貴方が気に入らないから目の前の見ず知らずの女の子に服を着替えろと、そう言いたいんですか?」
「そんなことはっ」
「じゃあただの嫌味ですよね?
あ、そうだ。俺、花柄のスカート下品で嫌いなんですよね…やめた方がいいですよ?似合ってませんし」
「なっ?!し、失礼よ貴方!」
「分かりましたか?これが貴方が彼女に言っていることです。文句があるなら見なければいい。
貴方は大人でそれが出来るはずだ。寧ろ貴方のような人の好みを自分で塗り替えようとする人間は迷惑です。とても」
隙を与えない理論詰めによりおばさんは撃沈。電車が止まったのをいいことにそそくさと降りていった。
すご…あーしの言いたいこと全部言ってくれてた。カッケー…
「あのさ…」
お礼を言おうと横を見ると、男の子は深い安堵の息を漏らしながら伸ばしていた背筋を丸めた。
「こわかったぁ……あ、ごめんね。俺めっちゃお節介だったよなぁ。つい口が止まんなくて…」
先程とは別人のような柔らかい笑顔。おばさんの言葉で傷んでいた胸が暖かく柔らかく鼓動を始める。
「でもさっきのおばさん見た?真っ赤になっててちょっとスカッとした」
そう言って、ふはっと笑う彼にアタシは心臓を掴まれたのだった。
あの日のことはよく覚えてるけど…連絡先聞くの忘れてたんだよね〜。マヂ寝込んだ
マスカラでまつ毛を上げ、リップは桃色のツヤツヤになるやつ。
「そろぼちまつパかな〜」
ポコン
通知音がしてスマホを覗くと宮田クンから『おはよう』と返事が返ってきていた。
電車で助けてくれた彼と大学で再開したのは最近のこと。
頭が良くて常識人で真面目。でも、笑うとチョー可愛いし抜けてるところもある。
あーしのこと覚えてないんだもんなぁ。こんな派手な見た目なのに
『おは!昨日めっちゃヤバかったね!生きてる〜ってカンジする!』
『分かる。生きてるって素晴らしい。平和って素晴らしい』
『噛み締めてんのウケるw』
『(怒ってるアザラシのスタンプ)』
宮田くんとのメッセージのやり取りに自然と笑みがこぼれる。
「ぁは…宮田クン…アタシとの秘密、また一個増えたね」
大好きなルーズソックス。大好きなピンクのヒョウ柄。大好きな大きいキラキラデコパーツ。
今日もアタシは自分の「好き」に生きる。
『ね、今日も家いっていい?』
既読だけついて返事のこないメッセージ。
宮田クンアタフタ〜って困っちゃってるかなぁ〜
「いひひ…可愛い」




