20話「なんでもしてやる」なんて常套句俺には効かないんだからな!
旧ジュラ王国。現在はギャル王国の東に位置する森。バイオレットサーペントという大蛇が魔物を牛耳り、入ってくる人間を襲うという恐ろしい森だ。
大蛇バイオレットサーペントを狩って売り飛ばしその元金で農作物の加工工場を打ち立てる。言うは易し。
俺はこの森から放たれる異様な殺気に足が竦んでいた。
「さぁて毒蛇狩りにレッツゴー!」
おー、とやる気満々に拳を突き上げるルキアと無表情なりとも同じく拳を突き上げるレティナ。
そして何故か俺。
「いやいやいやいや!!行かないからね!俺は行かないから!」
「え〜ここまで来といてだよ宮田クン〜」
「アンタがルキアとレティナ背中に乗せて俺を鷲掴んで飛んだんだろうが!!ほぼ拉致だわ!
無理無理無理!俺すぐ死ぬってコレ!」
宰相なんて立派な役職名を貰ったが元々ただのモブ兵士。戦闘力は並以下に決まっている。
「だーいじょぶだいじょぶ、アタシ護れるしルキアとレティっちもいるじゃん?」
「えぇ…ふ、2人は大丈夫なんですか?」
「俺ァ義賊だからな。剣技は結構イケるぜ。国の大会で騎士団長に勝ったこともあるからなァ」
「私は魔法が使えますので。自分の身を守るくらいは」
「ちくしょう!俺だけ死に確じゃん!まじで無理だって…俺絶対足でまといになるからさぁ」
「まぁま、入ってみないと分からんし〜」
「入って分かった頃にはもう死んでるっつーの!とにかく俺は行かないったら行かない!」
「情けねぇなぁ…」
「腕に自信がないのならやめた方がいいですよ。ほんとに死にますから」
「ほらほらぁ…レティナさんもそう言ってるし俺は王宮で待ってますって…」
「え〜…ちょぃ宮田クン、カモン」
ルキアとレティナから少し離れ手招きされる。近くに行ってコソコソ話。
「何?俺ほんとに行きたくないんだけど」
「あーし前に言ったよね。宮田クンがいると心強いって」
「言われたけど…でも今回はいても邪魔なだけだって。魔法も鋭い爪も無いし剣もロクに振れないんだから…」
「宮田クンには頭脳があるじゃん」
「立原さんのが発想力あるし頭良くても噛みつかれたら終わりでしょーが。
ルキアもレティナもいるし俺なんかよりよっぽど頼りになりそうだけど?」
「じゃあ行かない」
「は?」
「アタシも行くのやめる」
「はぁー?!じゃあ元手の金どーするんだよ?」
「知らなーい。宮田クンとじゃなきゃ行かないもん」
「もんて…」
子どもか?ギャルって自由奔放なイメージあったし立原さん自由人だけど…流石にわがまますぎねぇ?
「あ、じゃーぁ、一緒に来てくれたらさ」
ドラギアスの巨大な手に両手を握りこまれる。悪戯っぽく細まる金色の瞳に俺は中身である彼女の姿を重ねてしまった。
「アッチの世界で一日なんでも言うこと聞いてあげる!」
俺の思考はフリーズした。
脳内では美白バージョンの立原さんが無邪気に笑い「なんでも♡」と艶のある声で囁く姿がリプレイされまくった。
「なんで、も…」
「そぉ!何でも!」
俺の頭を過ぎる煩悩は一瞬で、すぐ目の前の竜王のニヤニヤにより腹立たしさに変わった。
この人…俺の事またからかうつもりだな…?アッチの世界じゃ可愛い小悪魔的な笑顔なんだろうけど竜の姿だからなんかムカつく…
「分かった。なんでもね?」
「なんでも!よぉし決まりィ!行こっ宮田クン!」
思い通りになると思うなよ…ッ。現実世界に戻ったらスーパーの荷物持ちとか掃除とかに付き合わせて扱き使ってやる…!『宮田クンもう無理〜いつも仕事押し付けてごめんご〜』って言わせてやる!
心中の企みに僅かに笑みを浮かべていたがその直後。ドラギアスに腕を引かれ勢いよく森の中へ突入。
「ちょっまっ!!こっ…
心の準備がぁあああ!!」
◾︎◾︎◾︎
東の森へ足を踏み入れてわずか5分。俺は先程の決断を後悔しまくっていた。
「…おぃ、おぃおぃおぃ!」
グルルル…
俺の背の5倍はあろうかという巨大な猪。逆だった体毛と鋭い牙。
今にも飛びかからん…というかもう飛びかかって来ている。
「キングボアだ!」
ルキアは剣を抜き猪の突進を横に飛んで避ける。レティナも華麗に交わすが生憎俺にそんな反射神経は備わっていない。
早速死ぬ!!
「イヤーー!!」
真隣で、どこから出ているのか疑わしい甲高い叫び声をあげる竜王。
「コッチ来んなぁ!」
突き出した巨大な竜王の掌は硬い表皮に覆われているのだ。猪は構わず、竜王が突き出した掌に突進しぶつかった。
チュドーーンッ
俺は見た。巨大猪がドラギアスの手に弾かれて高く宙を舞う光景を───
地面に落ちた猪は自分の突進+竜王の拒否張り手によりピクピクと小刻みに痙攣しひっくり返っている。
俺を含め剣と杖を構えていたルキアとレティナも唖然。
「ッ〜ーーいったぁあい!突き指ったァ!」
ドラギアスは涙目になりながら右手を上げて喚く。
ドラギアスが強い魔物なのは知ってたけど…流石に規格外すぎるだろ…
俺、生きて出られるかな───
背後の草むらで魔物の瞳がキラリと光った。




