13話恨みよりもリア充を
竜王ドラギアスと平民代表ルキアとの対談は陽キャ同士上手くいっていたように見えた。
しかしセルヴァを連れてきた途端、ルキアの目が据わる。室内に緊張感がはしった。
「……セルヴァと知り合いか?」
「あぁ。そのクソ野郎のことならよォく知ってる」
「ふん、汚い庶民が王宮に出入りしていると思えば…どこぞの義賊のネズミじゃないか」
「…そのモノクルかち割ってやろうか?」
どうやらルキアとセルヴァは仲が悪そうだ。
セルヴァを悪魔の遣いに仕立てようとしていた俺にとっては好都合だけど。
「なになに?ルキアってセル髭のこと嫌いなん?アタシもだぃっっきら〜ぃ」
べーと舌を出す立原さんだが実際は竜王の長い舌が不気味に垂れていて怖い。
「俺も大っ嫌いだ。コイツはな
……俺の家族を殺したんだ」
ルキアの奥歯がギリリと音を立てる。
「あれは5年前、俺が15の時だァ。
突然現れたドラギアスは多くの村を焼け野原にし王の首をすげ替えた。
重税に徴兵。俺の村も殆どが女子供と年寄りばっか…おまけに流行病。
俺の村は王政に助けを求めたが王にも会えず門前払い…
ンでぇ…セルヴァ。コイツが俺の村を隔離し王都は愚か街にも入れねぇようにしやがったんだ」
「流行病を広げないために決まっているだろう!ちっぽけな村ひとつで済んだのだ!お陰で我が国は存亡の危機を乗り切った」
「隔離は文句ねぇ。だが物資も流してくれやしなかった。ただの口減らしなのは分かってんだよォ!」
「うっわ…マジセル髭サイテー…」
全く、欲望だらけの老人には辟易する。
「流行病で弟も妹もばぁちゃんも死んだ!親父は戦争にいったっきり戻ってこねぇし、おふくろだって…」
「……ルキア…」
15、16歳の頃だろうか。ルキアが家族を失ったのは。きっと並々ならぬ努力と折れない心で今日まで生にしがみついてきたのだろう。
軽い口調の裏に大きな辛さを抱えている。想像もできない人生に俺は口を挟むことができなかった。
ルキアはさらにヒートアップする。
「ドラギアスも嫌いだったがなァ、奴を利用して力もないのに弱者を踏みにじる。
テメェみてぇなクソ老害が俺ァ死ぬほど嫌いなんだよ!
悪魔だなんだ、ンなこたァどうでもいい。セルヴァが裏から糸引いてたのは曲がらねぇ事実だかんなァ」
「いっ言わせておけばッ庶民の分際でぎゃあぎゃあ喚くな!貴様の家族が病に伏したのは貴様達が庶民であるせいだ!貴様の母親がま───」
セルヴァが言い終わる直前にルキアの目の色が変わる。
腰からナイフを引き抜くルキア。あっと思った時にはセルヴァ目掛けて飛びかかる。
刺され───
ガッ
ルキアの深い恨みはドラギアスの掌によって塞がれた。ドラギアスの硬い掌に弾かれルキアは尻もちを着く。
「立原さ…ッ…ドラギアス王!」
掌にナイフ刺さったよな?!血が………
出てない
「ッ〜!イッたぁあああぃ!!」
ドラギアス、否立原さんは巨大な掌を天井に向けバタバタ痛みに暴れる。しっぽが床を打ち、軽く震度3。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇっつの〜!見てコレ!赤くなってる!!」
分厚い皮と鱗に包まれた掌を見せられるが赤くなっているかはイマイチ分からない。
「テメェなんで庇いやがったァ…?やっぱり俺たちを騙すためにそのジジイとグルかよォ?」
「だーれがこんなヤツと!!屑だし嘘つきだし宮田クン殺そうとしたし馬鹿だしキモイし死んだ方がいいって思ってるし!」
すげぇ言うな…
「でもッそんなヤツのせいでルキアの手が汚れんのは断固拒否!」
「……ハッ。お優しいねェ…だが気遣い無用。俺ァコイツを殺すことを家族に誓ったんだからなァ!」
「ぜーーったい駄目」
「あ?やんのかテメェも?」
「ちょっと二人とも落ち着いて…」
「殺してその後は?ルキアはその後ずっとずーっとこのクソ野郎を刺した感触と生きていくんだよ?
最初はスッキリするかもしんない。でも次からおいしい物食べたりダチと遊んだり、好きピできたりしても、セル髭の死に顔とか断末魔とか…刺した感触とか思い出してもう何も楽しくなくなる。
そんなのぜーっったいダメ!」
「ンなのッテメェに何がわかんだよ?!泣き寝入りしろってか?そんなの…楽しく生きられるはずねぇだろォ…」
「大丈夫!アタシそばに居るし!宮田クンもいるし、ね?」
「っ…うん…力になれるかわかんないけど…遊ぶのは、できるかな?」
「ドラギアス…ミヤタ…まぁ…コイツを殺しても…家族は戻らねぇ。殺す価値もねェよ」
眉を下げ悲しげにだが言葉を収めるルキア。憤りも怒りも悲しみもあるだろう。
ちょっとでも前向きになれたかな…
立原さんの言葉…感動した…日本文学好きなだけあって言葉の深みもある。そこばかりは俺も気が合いそう───
「とまぁこのくらいにして。このクソ野郎どうしてやろうかああ゛ン?」
セルヴァの体を鷲掴みにし恨みたっぷりの視線を向ける竜王ドラギアス。
あれ?
「近くにユリスカの森ってのがあってよォ…ゴブリンの住処らしいぜェ。木に縛り付けときゃ良いエサだァ」
え〜…?
「良いねぇ!生きたまま食われ痛みと苦しみと恐怖の中…孤独に死を迎えることになぁある」
イヒヒ、悪魔のような笑みを浮かべた2人がセルヴァを取り囲み残酷に囁く。セルヴァは半泣きだ。
「ちょ、ちょちょっ!待って待って!今の良い感じの話なんだったの?!
殺しちゃったらこれからの人生楽しく無くなるんでしょ?!」
「それはァあくまでルキアとかアタシが直接手を下すコトを指していてぇ…」
「俺らの知らねぇとこで悲惨にくたばって貰うのは全然いいって言うかァ…な?ドラちゃん?」
「ね、ルキア〜」
「俺の涙返せェ!!」
「えっ宮田クン泣いてんの?ちょっと写メ…」
「人でなし〜!」
喚く俺とケラケラ笑うドラギアス。
その傍らでルキアは口元を弛め小さく「ありがとな」と呟いたのだった。




