表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの貧乏子爵令嬢ですが、枯れる前の花を残したら学院で評判になりました。  作者: あけはる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第7話

 講堂の空気は重い。


 保存花に違法性や疑義がないことがやっと認められたところに入った、イリーナ・オルロフ公爵令嬢の横槍。

 

 むしろこちらの横槍のほうが本命ではと思われ、

 その狡猾さが宙に残っているようだった。


 "学院として、管理すべき"


 その一言が真に意味することを講堂に集ったどれだけの人が理解しているのだろうか。


 ――技術を、開発者個人から切り離す。

 ――名目は安全上の理由でもその実体は、新技術の奪取と利益誘導だ。


 これまで貴族的な駆け引きとはほぼ無縁だったユーリアに咄嗟の対応は難しかった。


(いつか来るとは思ってたけど…今日この場で仕掛けてくるとはさすがに予想できなかったわ)


 そしてユーリアと同じく、貴族的政治には手を出しづらい教授陣も、明確な答えをできずにいる。


 学問技術としては潔白。

 だが、政治としては?

 ヴァルデック公爵家とオルロフ公爵家、

 我が家はどちらにつくのが得策だ?


 講堂にいる誰もが頭を巡らせていた、膠着。


 それを破ったのは、扉の音だった。


 コン、コン、コン。


 規則正しいノックが響き


 講堂に入ってきたのは、一人の貴婦人。


 

 深紫のドレスに身を包み、

 その所作はまさに貴族女性の模範と言えよう。

 

 ついっ、と動かした淡いブルーの視線ひとつで、

 貴婦人は場の空気を整えた。


(アレクサンドラ様…!)


 周囲のざわめきが、すっと引いていく。


「お取り込み中、失礼いたします」


 穏やかな声に、その場にいる全員が立ち上がった。


「ヴァルデック公爵夫人……!」


 公爵夫人は、軽く会釈する。


「形式ばった挨拶は不要ですわ。

 今日は、少し気になる話を聞き、参りましたの」


 その視線が、ピタリとユーリアで止まる。

 目が合った瞬間、アレクサンドラは小さく微笑んだ。


 "貴族の闘い方を覚えてね"

 そう、言われた気がした。


◇ ◇ ◇


「“管理すべき技術”という言葉が、聞こえましたわ」


 公爵夫人は、静かに言った。


 怒気はなく責める調子も含まずにただ、事実を確認する調子だ。


「どなたのご意見かしら?」


 イリーナが、一歩前に出た。


「わたくしですわ」


 貴族然とした貼り付けたような笑みは崩さない。


「優れた技術であるからこそ、

 学院、あるいは然るべき機関が管理すべきでは、と提案させて頂きましたの」


 公爵夫人は、鷹揚に頷いた。


「つまり、"開発者から取り上げろ”、と?」


 直接的な言葉に、微かなざわめきが起こる。


「では、教授方へ伺います」


 公爵夫人は、その鋭い瞳を教師たちに向け、問うた。


「この技術に不正がありましたか?」


「……いいえ」


「違法性は?」


「ありません」


「再現性は?」


「条件が揃えば、可能と考えます」


 教授陣は明確な回答をきき、

 アレクサンドラは、満足そうに微笑んだ。


「では、なぜ、“管理”が必要なのでしょう?」


 静寂。


 イリーナの笑みが、ほんの一瞬揺れる。


「そ、それは……安全性の問題ですわ」


「安全性」


 公爵夫人は、イリーナの言葉をなぞる。


「そうおっしゃるのならば、危険だと判断する根拠がおありなのね?」


「それは――」


 イリーナは言葉に詰まる。

 追い討ちをかけるようにアレクサンドラが笑顔で問う。


「是非、教えていただきたいわ」


「そ、それは…」


 言い淀むイリーナ。

 それを確認したアレクサンドラはここで初めて、

 明確に聴衆へ訴えかけた。


「ご自身でも回答できない事由を理由に、一生懸命開発した技術を取り上げてしまうというのはずいぶん、乱暴ではないですこと?」


 勝負がついた瞬間だった。



◇ ◇ ◇

 公爵夫人は、ゆっくりとユーリアの方を見た。


「ユーリア・ベイガー嬢」


「……はい」


「あなたの技術は、あなたのものです」


 きっぱりと。


「少なくとも、不正も違法もない限り、

 誰かが今すぐ“預かる”理由はありません」


 公爵夫人は、穏やかに微笑んだ


「学院は学びの場。才能を囲い込む場所ではありません」


 その一言で、決着はついた。


◇ ◇ ◇


 解散後。


 講堂を出たユーリアは、しばらく歩いてから、ようやく息を吐いた。


「……助けられちゃったな」


「それは違うわね」


 隣で、コーデリアが微笑む。


「あなたが積み上げたものがあったから、

 あの方は線を引けたの。それにアレクサンドラ様は以前おっしゃってたじゃない、あなたに興味があるって」


 ユーリアは、少しだけ考えてから、頷いた。


「……そっか」


 守られた。

 でも、それは“始まり”でもある。


 今日のことで、

 この技術が、ただの個人的な工夫では済まないと、

 皆が知ってしまったから。


(次は……もっと、はっきり狙ってくる)


 貧乏子爵家出身で、保存花の技術開発者。

 ――それが、今の自分の立ち位置だ。


 2人の間を春のあたたかな風が、廊下を抜けていった


この前の邂逅でアレクサンドラはユーリアが貴族どうしのいざこざとかの経験がなさそうと見抜いていたんですね、それに安定した場所にいたユーリアを、自分の依頼で引きずり出して貴族社会の権力ゲームに巻き込んだ自覚はあるので、常に見守りをつけていたようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ