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ただの貧乏子爵令嬢ですが、枯れる前の花を残したら学院で評判になりました。  作者: あけはる


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第5話

 披露の場は、驚くほど静かだった。


 ヴァルデック公爵邸の客間。

 華美な装飾はなく、名門貴族らしい落ち着いた調度に柔らかな光が満ちている。


 ユーリアは、紅星花が入ったガラスケースを両手で抱えなおす。


(……とうとうこんなところにまで来てしまった)


 向かいに座るのはヴァルデック公爵夫人アレクサンドラ。

 今日も深紫のドレスに身を包み、背筋をスラリと伸ばしている。

 ただ座っているだけで、場の空気が整う凛とした・・・


(美魔女ね・・・)


 その瞳には、好奇心の光が変らず宿っている。


「では、拝見しましょう」


 ユーリアは立ち上がり、ケースを重厚な木製のテーブルの上に置く。

 そしてそっと、蓋を開けた。


 現れたのは、ガラスケースに包まれた深紅の花束。

 まぎれもない、紅星花。


 落ちる気配のないその大きな赤い花弁はみずみずしく張り、

 まるで摘んだ瞬間から時が止まったかのように咲き誇っている。


 室内の誰もが、一瞬、息を止めた。


 公爵夫人も、すぐには口を開かなかった。

 身を乗り出し、その大きな青い瞳で花を覗き込む。


 持ち上げて角度を変え、光に透かし、茎の状態まで確かめる。


 沈黙が、長く感じられた。


(……大丈夫、自信をもって成功と言えるものに仕上がったはずよ)


 やがて。


「……なるほど」


 小さく、しかし確かな声がした。


「期待以上、ですわ」


 ユーリアがぱっと顔を上げると、優しい笑みをたたえたアレクサンドラがいた。


「これは、魔法ではありませんね。残滓が全く感じられません」


 アレクサンドラはガラスケースをなでる。


「そして奇跡でも、偶然でもないわ」


 その青い視線が、ユーリアをまっすぐ捉えた。


「理解し、覚悟を以て挑んだ者にしか辿り着けない技術です。


 ……素晴らしい仕事をしました、ユーリア嬢」


 その瞬間。

 ユーリアの胸の奥で、何かがほどけた。

 評価されたのは、花だけではない。


 素材と向き合った時間、難題に挑むと決めた覚悟、成功させた胆力。

 それら含めたユーリアの努力全てが、貴族社会に認められた瞬間だった。


 それは途方もないことであることを理解したユーリアは、深く、頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 公爵夫人は、満足そうに頷く。


「この技術は、あなたのものです」


「誰かの名声や後ろ盾で成立するものではない。あなた自身が積み重ねた結果です」


 ――守られた。

 公爵家の言葉をもって、ユーリアを肯定してくれた。そう感じたのだった。


◇ ◇ ◇



「聞いた?」

「王弟殿下の婚約花、紅星花だったらしいわね」

「それを保存して、みずみずしいまま1か月後に披露したって……」

「一体どうやって・・・?」

「タチアナ姫はとてもお喜びになったと、どの新聞にも書かれていたわ」


 噂は、広がる。


 ――――そして、歪む。


「魔法じゃないなら、何なの?」

「ヴァルデック公爵家が関わったらしいわ?」

「それじゃあ、あの家の古い魔道具かしら」

「いや。何の関係もない貧乏子爵家の功績だって聞いたけど・・・」

「子爵家・・・?分不相応じゃないか?」


 評価の裏側で、社交界には別の感情も確かに芽吹いていた。


◇ ◇ ◇


「……面白くありませんわね」


 とある高位貴族の令嬢が、パタリと本を閉じる。


「ヴァルデック公爵家お抱えの子爵令嬢ですって?」


 同調するように取り巻きの令嬢たちが口々に発言する。

「功を急いだ公爵家の何かしらのからくりがあるのかもしれませんわ」 

「本物かどうか確認が必要ですよね」

「そもそもイヴァン王弟殿下の花束に子爵令嬢が触ることができること自体怪しくてよ!」

「あやしい古代魔法や禁じられた魔法のひとつでもつかっているんじゃありませんこと?」


 さんざめく令嬢たちを満足げに見守ったあと、


「そんなお力があるのならば、この目で是非見てみたいものですわ。

 ――“調査”させましょう」


 その言葉は静かに投げられた。


◇ ◇ ◇


 夕方。


 コーデリアは、違う授業に出ていたユーリアを見つけるなり足を止めさせた。


「ユーリア……覚悟して」


「え?」


「あなたの技術について、正式に違法性がないか調べるべきだ、という声が出始めているわ」


 ユーリアは、少しだけ目を伏せた。


(……違法、ね)


「おおかた、ヴァルデック公爵家の対立派閥の貴族からの進言でしょうけど・・・」


 顔を上げ、静かに言う。


「私の技術は私が守るよ。負けない」


 潰させない、無かったことにはさせない。


 コーデリアの抱えたガラスケースには、今日も、変わらぬ鮮やかさが保たれていた。

家格に合わせ地味に過ごしていた(これがこの世界の常識)ユーリア、ついに貴族社会に”見つかり”ます・・・

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