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ただの貧乏子爵令嬢ですが、枯れる前の花を残したら学院で評判になりました。  作者: あけはる


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第4話 その2

 夜。


 ユーリアは自室の机に向かい、深く息を吐いた。


 灯りは最小限。集中するときの、いつもの配置だ。

 それに今回はなるべく花に負担がかからないようにするための配慮でもある。


 机の上には、真っ赤に花開いた紅星花。

 そして、いくつかの小瓶と、メモ書きだらけのノート。

 コーデリアの保存花を作るときに試行錯誤した記録を引っ張り出してきた。


(……相手は公爵夫人、いや王弟殿下、らしい。

 失敗しちゃいました、じゃ済まないわね)


 喉が、からりと乾く。


(条件は1か月持たせること。

 ――やれるだけ、やるしかない)


 ユーリアは花を一本、そっと持ち上げた。

 数本は実験に使ってもいいとお許しをいただいている。


 指先に伝わる感触だけで分かった。白銀の薔薇より、明らかに水分量が多い。

 重みと花弁の分厚さは際立っている。


(このままこするとと潰れてしまうわ)


 だからまずは、表層だけ。


 蒸留精製した酒精を極薄く染み込ませた布で、

 花弁の裏側をゆっくりなぞる。


 力は入れない。

 一度でやろうとしない。


(……焦るな)


 自分に言い聞かせながら、少しずつ、少しずつ。

 一晩かけて、ようやく全体の処理が終わった。


 赤い染料がついた指先が、じんと痛んだ。


 ――二日目。


 次は、粘性のある保存液への移行。


 保存液は、異界蜜樹から採れた樹液と、

 パッカーという木の実からとれるパッカー油を混ぜてつくる。


 白銀の薔薇では問題なく使用できた。

 だが、紅星花は同じ配合では難しいのではと感じる。


(……一気に沈みすぎる)


 重みがある分沈み切る速度が速い。

 沈める角度を変えたり、液から引き揚げ時間を短くしたり。

 ここからは実験の繰り返しになる。


 それでも、嫌な予感が消えない。


 ――三日目。


 嫌な予感が的中した。

 花弁の縁が、わずかに暗く変色している。


「……あー……」


 思わず、声が漏れた。


(保存液との相性が悪いな)


 原因は分かる。保存液の粘度だ。

 これが花弁の細胞に負担をかけている。

 放置すれば、確実に黒ずみが広がるだろう。


 保存液を、すべて廃棄し、樹液とパッカー油の配合を変えて何度も作り直す。

 一枚、また一枚と黒ずんだ花びらが積み重なった。


 心臓が、どくんどくんと鳴り続ける。


(あと、何日?花は何個残っている?)


 記録が書きなぐられたノートを見る。

 失敗は、もう許されない。


―――四日目

 選んだのは、二層構造。


 下層は、形を保つための支持液。

 上層は、色素を守るための軽い保存液。


 沈み切る前に処理を固めてしまおうと液の密度を利用して2層に並べた。

 沈める速度、角度、室温――すべてを調整する。


 焦りと不安で手が震える。


(落ち着け)


 ここでミスしたら、花は二度と戻らない。


 ―――五日目。


 睡眠は、細切れ。

 何度も起きては、花びらの状態を確認してしまう。

 夢の中でも花を見ていた。



 六日目。


(この配合だ・・・!)

 2層に分けた液に通した花びらは

 変色のない状態を保っていた。


 その後は一心不乱に、残っている紅星花を2層液で処理していった。

 まるで時が止まったかのように美しく、生き生きとした紅星花・・・


 そして、七日目の朝。


 ユーリアは、机の前で、しばらく動けなかった。


 そこにあったのは、紅星花の花束。

 1週間以上がたったが、深紅の色を保ち、花弁は落ちる気配もなく、生き生きとしている。


 「できた・・・!」


 そう小さく呟いた瞬間、全身の力が抜けその場にへたりこんだ。


プリザーブドフラワーの制作工程を参考にしていますが、完全に同じではないようにしています。(脱色、染色の工程とか・・・)

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