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ただの貧乏子爵令嬢ですが、枯れる前の花を残したら学院で評判になりました。  作者: あけはる


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第4話

 正直に言えば、会うかもしれない、とは思っていた。


 前日の夕方、コーデリアが少し申し訳なさそうな顔で言ってきたのだ。


「ユーリア……驚かないで聞いてほしいんだけどね」


 その前置きだけで、嫌な予感はした。


「レオンハルト様が、あの”保存花”の話をお義母様にしたみたいで……」


 もう1か月以上、瑞々しい姿を保っているあの一対の花は、

 いつしか”保存花”と呼ばれるようになっていた。


「その・・・公爵夫人が、一度あなたに会ってみたいっておっしゃってるみたいなの」


 ――あ、終わった。

 

 本物の高位貴族の登場に、一瞬気が遠くなりかけたユーリアを見て、

 コーデリアはすぐに付け足した。


「無理に、じゃないわ。あくまで“興味がある”、のだそうよ」


 興味。ある意味それが一番怖い。


 だから、ユーリアは、

 その日からずっと、心の準備だけはしていた。


 していた、のだが・・・


 魔法動物学の先生から昼休みに生徒会室に行くようにと指示され、

 

 (コーデリア、私に何か用事かな~)

 

 などと考えながら、生徒会室の前に着いた瞬間、ユーリアは悟った。


(……あ、これは“来た”)


 静かで、張りつめているわけではないのに、場が引き締まっている。

 扉を開けた視線の先。


 そこにいたのは、一人の貴婦人だった。


 深い紫色のドレス。

 装飾は最小限、それでいて隙のない仕立て。


 淡い金髪には銀が混じり、きっちりと結い上げられている。

 背筋は自然に伸び、ただ座っているだけなのに、存在感があった。


 その表情は、どこか楽しそう。


 品のある微笑み。

 そして、少しだけ悪戯っぽく光る瞳は。


(淡いブルー・・・・

 もしかして、この方……)


 考えるより早く、その貴婦人が口を開いた。


「初めまして、ユーリア・ベイガー嬢」


 声は柔らかいのに、よく通る。


「急に来てしまって、ごめんなさいね。

 本当は“お手紙だけ”、のつもりだったのだけれど」


 そこで、ふっと微笑む。


「――どうしても、直接見てみたくなってしまって」


 淡いブルーに茶目っ気が光る。


「私はアレクサンドラ・フォン・ヴァルデック。レオンハルトの母です」


(やっぱり・・・!)


 予想はしていた、けど…!


(緊張するものは緊張する……!大物すぎる・・・)


 ユーリアは反射的に、深く一礼した。


「は、初めまして……!

 ベイカー子爵家が長女ユーリア・ベイガーでございます」


 声、震えてない? 礼、大丈夫だよね?


 公爵夫人は、ド緊張しているユーリアを見て、楽しそうに目を細める。


「ふふ。そんなに身構えなくていいのよ」


 (いや、無理です)


「今日はね、あなたに“お願い”があって来ました」


 その合図で、公爵夫人の後ろに控えていた侍女が一歩前に出る。

 差し出されたのは、深紅の花束。


 見たことのない、大輪の花がたくさん。


(何、この花・・・)


「これは紅星花(こうせいか)と呼ばれる花です」


 公爵夫人は、さらりその答えを話し始める。


「さる、やんごとなきお方・・・いえ、隠してもしょうがないわね」


楽しそうに弧を描いた赤い唇がその詳細を紡いだ。


「この花束は・・・王弟殿下のものです」


(は・・・?え?いやいや、待って?)


 ユーリアの困惑をよそに話は進んでいく。


「隣国キュイツ王国の第一王女、タチアナ様から婚約の証として、つい昨日、贈られたばかりなの」


 (いや、情報量・・・)


 というかそもそも我が国の王弟イヴァン殿下が隣国の王女様と婚約されたこと自体、未発表だ。

 それに、なんだって?紅星花・・・?


 ユーリアの脳内が、一瞬、処理落ちする。


「条件はこう」


 アレクサンドラは、指を軽く組んだ。


「永遠は求めておられません。1か月。1か月持たせてほしい」


ブルーの目が瞬く。

「タチアナ様が来月、我が国にお越しになるの。その日まで、もたせてほしいとのご依頼よ」


(1か月・・・)

 長い、と思った。コーデリアの保存花が今、ちょうど1か月を過ぎたところだ。

 まだみずみずしさを保ってはいるが、この一例しかユーリアには経験がない。

 そして、この紅星花は今すぐに処理を始めないといけない。

 枯れ始めてからでは遅いのだ。


 ユーリアは、花を見つめたまま、正直に言った。


「……先に、申し上げます。

 非常に難しいご依頼です」


 公爵夫人は、鷹揚に頷いた。


(できない、とはどうやっても言わせてもらえない・・・)


「私にできるのは、“時間を延ばす”ことだけです、いつ枯れるかも正直予測できません」


「ええ、1か月持てば充分だわ」


 アレクサンドラの潔い返答に、ユーリアは息を吸った。


(断ることはどのみちできない……覚悟、決めないと)


「……お引き受けします」


 責任に押しつぶされそうになりながら喉奥からしぼりだした声は、

 思ったより落ち着いていた。


 公爵夫人は、満足そうに微笑む。


「ありがとう。

 やっぱり、あなたに直接会いに来て正解だったわ」



レオンハルトの好奇心をたたえた淡いブルーの目はアレクサンドラ譲りです。アレクサンドラは公爵夫人としての威厳を保ちつつも、息子をコーデリアとくっつけ、これまた保存花なんていう変なことをしているユーリアに興味津々です。

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