挿話 婚約者の目に映るもの
生徒会の定例会が終わり、
人の引いた生徒会室に、夕方の光が差し込んでいた。
「一体、それは・・・!どうしたんだ……!」
レオンハルトは、コーデリアの腕に抱えられたガラスケースから、目を離せずにいた。
「見せたかったの。あなたに」
コーデリアは、少しだけ緊張しながら、机の上にケースを置く。
白銀の薔薇と、淡いブルーの小花。
寄り添うように並んだその姿は、花の日に贈られたときと、ほとんど変わらない。
――いや。
正確には、「生花」とも雰囲気が違う。
時間の流れだけが切り取られたような、不思議な佇まい。
「すごい……すごいぞ!どうやって保っているんだ。もう一週間以上もたつというのに!」
レオンハルト声は低いながらも、驚きと喜びに満ちている。
「ええ。花の日から、もうそれくらい経つわね」
「ああ、普通なら……もう、触れただけで落ちる頃だ」
そう言って、ためらいがちにケース越しに指を伸ばすレオンハルトは興奮で少し早口になっている。
「本当に、すごいな、
こんなことができる魔法も、魔道具も、聞いたことがない・・・!」
彼は目をキラキラさせてコーデリアを見つめた。
「コーデリア、一体これはどうしたんだい?」
ただ、純粋に知りたいという目だった。
「ふふふ、私の親友が、手を尽くしてくれたのよ」
コーデリアは、得意げに胸を張る。
「ユーリア嬢が?」
「ええ、また素晴らしいことをやってくれたわ・・・!」
レオンハルトの眉が、わずかに上がる。思い当たる節が、あったのだろう。
コーデリアとの恋愛において、レオンハルトは何度かユーリアの”お世話”になっている。
地味で目立たないが、要点は外さない子爵令嬢。
ちょっと(いや、かなり)家は貧乏だが、
持ち前の公平さと飾らなさで、コーデリアともよき友情をはぐくんでいる。
「……なるほどな」
彼は、再び花をじっと見つめる。
永遠の愛を謳う、鮮やかな白銀と淡いブルー。
「君にふさわしい花をと懸命に探し、
一生を添い遂げるという思いを込めて僕の瞳の色を添えたんだ――」
恥ずかしげもなくまっすぐ語られる愛の言葉に、コーデリアの頬は熱くなる。
「だが、永遠を願う一方で、生花であるがゆえ、枯れてしまう、”失われる”ことも、わかっていた」
恥ずかしそうに頬をかいてレオンハルトは続けた。
「あの日は、僕たちにとっては最初で最後の「花の日」だったろう? 大切な人におくった花束だ。
ずっと、僕たちの愛のように、できる限り長く咲いていてくれ、と願っていたんだよ」
コーデリアを見つめる淡いブルーの瞳が愛おしそうに優しく弧を描く。
「それが、今」
ガラスケースを優しくなでる。
「残したいと思った僕の気持ちごと、守ってもらったような、大切にしてもらったような気がする」
「……レオンハルト様」
二人は優しく抱きしめあった。
◇ ◇ ◇
「ユーリア嬢に、礼を言わないとな」
レオンハルトは、真っ直ぐにコーデリアを見た。
「この花も、僕たちの想いも守ってくれた」
コーデリアは、静かに頷いた。
「ええ。1週間かけて形にしてくれたの、目の下に大きなクマを携えて・・・
だから、どうしても、あなたに見せたくて、ふふ、私ったら生徒会室まで持って来てしまったわ」
二人は春の温かい夕日が差し込む生徒会室で、微笑みながらしばらく花を眺めていた。
やがて、レオンハルトがぽつりと言う。
「……この話、母にしてもいいか?」
コーデリアは、少し驚いた。
「お義母様に?」
「ああ、新しいもの好きの母だ、それはもう目をキラキラさせて、驚くぞ。それに――」
彼は、真剣な目をしている。
「これは、個人の奇跡で終わらせるには、惜しい気がする」
コーデリアは、ほんの一瞬だけ考えてから、微笑んだ。
「ええ。同じ思いの方もたくさんいるでしょうから。
・・・でも、もうすでに噂が立ち始めているの、あの子に無理はさせたないでね」
「ああ。約束するよ」
ガラスケースの中で、一対の花は変わらず寄り添って咲いていた。
レオンハルトはコーデリアと結ばれるまでの間にいろいろあったので、当然ユーリアとも何度かかかわっています。その辺の話もかければいいなあ・・・




