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ただの貧乏子爵令嬢ですが、枯れる前の花を残したら学院で評判になりました。  作者: あけはる


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第2話

side コーデリア


 親友であるユーリアが、何やら考え込んだ末、

 数本の花を持ち帰ってから、1週間が経った。


 「花の日」の後は各家から持ち込まれた花の片付けなどもあり、7日間学院が休みになるのだ。

 今日はその最終日である。自領が近い場合は実家に帰る生徒も多いが、コーデリアは所属している生徒会の仕事など何かと用事があり学院に残っていた。



 長いようで、短かった1週間。

 朝の光が差し込む学院の自室で、私は何度目か分からないため息をつく。

 

 あの日、美しい装飾を施したガラス花瓶に生けた、白銀の薔薇とブルーの生花は――――

 

 無残にも、萎びてきていた。


 最初で最後の「花の日」。レオンハルト様からもらった大切な花束。

 まばゆい白銀の輝きは失われ、花弁は早くも萎び、力なくはらはらと落ちていく・・・


(平気よ、平気……花とはこういうものなの……)


 生花は儚さも評価のうちとは知ってはいるけれど、やはり私たちにとっては一生に一度の「花の日」。

 特別な花束には思い入れがある分、どうしても悲しさがあふれてしまう。


(ユーリアはあの花をどうしたのかしら)


 ユーリアは毎度何か興味を惹かれるものがあると、”作業”と銘打って自室にこもるのだ。

 そしていつも、面白いものを仕上げる。そういう場面を何度も見てきた。


(ユーリアなら、と預けてしまったけれど・・・)

 

 胸の奥がきゅっとする。


 レオンハルト様からの贈り物を人に預けるなんて、自分で言うのもなんだけど、独占欲の強い私らしくない。

 それでも、ユーリアに「預けて」と言われたあのとき、迷いはなかった。


 思い返せば、そうね。


 一年生の頃、広すぎる教材室で書棚の配置がわからず手間取っていたら、たまたま同じ本を探していた ユーリアと出会い、協力して一冊の参考書を見つけることができたこと。


 刺繍の掛け違いで、課題が台無しになりかけたとき。

 たまたま、席が隣だったユーリアは私の手元をのぞいて、「それ、ほどかなくていいと思います」と。

 「少し図面をお借りしても?」と図面を手に取ったユーリアに半信半疑で任せてみたら、失敗だったはずの刺繍が、修正した図面ごと講師に褒められた。

 私が驚き感謝を言いに駆け寄ると、ユーリアは「よかったですね」とあたたかく笑ってくれて。媚びも打算もなくただただ級友を思う気持ちに感動したのを覚えている。


 上級薬草学の実習でも、ユーリアは的確な薬草処理と、正確な調合を披露し先生を驚かせていた。

 うまくできずに悩んでいたコーデリアがアドバイスを求めると、「えっと、この薬草はですね、教科書に書いている処理よりも実は、ここを火で焼きちぎり原液に振りかけたほうが相性がいいんです。ちょっと野蛮なんですけど・・・」と、斬新な知見を教えてくれたり。

 

 媚びへつらいなく、控えめだが必要なことはきっちりこなすユーリアにいつしかコーデリアは、同級生ながらも、尊敬と、少しの憧れを持つようになった。


 敬語のとれた友人関係になってからは、より砕けた態度の彼女から、実家での苦労話や弟のやんちゃ話、ユーリアが今興味をもって取り組んでいることなど色々な話を聞いた。いつも努力を絶やさないユーリアの姿に、コーデリアも、自領の話や、他の貴族令嬢には話せない苦手なこと、レオンハルトとの恋の話まで話すようになり、家格に差はあれど、4年の月日をかけて、お互いに親友と呼べる存在へとなっていった。


 自慢しないし、恩着せがましくもない。

 実家の家計を言い訳にせず、確かな結果を伴わせるユーリア。


(だから……信じちゃったのよね)


 自分で自分に苦笑する。


 コンコン。


 扉を叩く音に、私は背筋を伸ばした。


「私~!」


 気軽な声とともに入ってきたユーリアは、

 小さな箱を手にしていた。


「お待たせ」

「あら、その顔、もしかして徹夜したの?」


 私が言うと、ユーリアはぎくっとした。


「え、わかる?」

「んもう、ここに出てるわよ。ものすごく黒々としたクマが」


 ユーリアの目の下をちょいちょいっと触りながら、

 コーデリアは思わず笑ってしまう。


「はあ~、コーデリアには隠し事できないね、まったく~」


 と、観念したようにぼそぼそ言いながら、ユーリアは、

 机に置いた箱を両手でそっと、コーデリアのほうに押し出した。


「そんなコーデリアに、お待ちかね、私からの贈り物です、自信作だよ!」


にんまりと満足げに笑うユーリアに言葉に、

私は深呼吸して、蓋を開けた。


 ――息が、止まった。


 中にあったのは、一対の白銀の薔薇とブルーの小花。


 生き生きと、あの時の鮮やかさとみずみずしさをもって、

 茎まで一緒に、寄り添うように並べられていた。

 

「ユーリア・・・・これ・・・一体、どうやって・・・」


 声が震える。


「正直に言うね」


 ユーリアが、少し早口で言った。


「6本のうち4本失敗しちゃった!ごめんっ!

 それで残り1本ずつしかなくなって。失敗したらもう取り返しつかないって……正直、手が震えたよ」


 ユーリアは苦笑していた。


「でも、あのときのコーデリアの顔が頭から離れなくてさ。

 とっても幸せそうなのに、数日後を思って、とても悲しそうで」


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


「それで……?」


「うん。私、コーデリアには、ずっと笑っててほしいから。当たり前じゃん、親友だもん!」


「……ありがとう、本当に、ありがとう、ユーリア。そうね、あなたは私の無二の親友よ」


 こらえきれない涙が頬をつたう。

 私は、1対の花を覆うガラスケースに手を沿えた。

 

「泣くな、泣くな、大げさだよ。正直どれくらいもつか、わからないし」


「それでも、私にとっては十分すぎるわ」


「そんなに喜んでもらえたら、頑張ったかいがあったね」


 私はガラスケースごと花を抱きしめた。


 この花は、ただの花じゃない。

 レオンハルト様からの愛。


 そして、ユーリアが、私の幸せを願ってくれた証だ。


「ねえ、ユーリア」

「なに?」

「私、やっぱり間違ってなかった。あなたに預けて、本当によかった」


 ユーリアは照れたようにぷいっと視線を逸らした。


「……もう。お礼なら、王族御用達のお菓子の詰め合わせを期待してるよ」

「ふふふ、待ってなさい、食いしん坊のユーリアでも食べきれない量を買い込んでくるわ!」


 二人で、顔を見合わせて笑う。


 まだ、この花がどこまで保つのかは分からない。

 でも確かに、枯れるはずだった未来は、少しだけ形を変えた。


 ――そして私は確信する。


 この出来事は、きっと私たちの人生に、幸せをくれるのだと。

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