第53話 屋根裏に眠る記憶
「どうだ、見つかったか?」
「……いいえ、無いわね」
アヤナが小さく首を振る。
「つーかよ、なんで屋根裏がこんなに広いんだよ。俺の部屋の五倍はあるぞ……」
レオンがぼやきながら、頭をかいている。
「屋敷の倉庫として使ってるんだから、それなりの広さは必要なんじゃないか?」
まあ、レオンの文句も分からなくはない。
この屋根裏、想像以上に広いだけでなく、今は完全に倉庫として使われていて、家具や箱が所狭しと積み上がっている。
高級そうなものも多く、庶民のオレは持ち上げるだけでも緊張する。
「飲み物を持ってきましたのですよ〜!」
そんな中、元気な声が屋根裏に響いた。
リリスちゃんが両手でお盆を抱えて、ひょこっと顔をのぞかせる。
そのすぐ後ろには、心配そうに見守るメイドさんの姿も。
「ちょっ……リリスお嬢様! 危ないですから、そこは私が――」
「大丈夫なのです! わたし、アヤナお姉様のお役に立ちたいのです!」
そう言って胸を張るリリスに、アヤナがやれやれと苦笑いする。
「ありがとう、リリスちゃん。でも、階段は気をつけてね」
「はいなのです!」
元気いっぱいに答えたリリスちゃんが、大事そうに運んできたのは、
可愛いガラスのポットに入ったフルーツティーだった。
俺たちはいったん探すのをやめて休憩する。
「ふぅ……冷たくて美味しいわ。ありがとね、リリスちゃん」
アヤナがお礼を言うと、リリスちゃんの顔がパァッと花が咲いたみたいに明るくなった。
「でも……この調子だと、今日中に見つけるのはちょっと難しいか」
マイルが周囲を見回しながら、ぽつりとこぼす。
「そうだな。あんまり長居するのも悪いし……今日見つからなかったら、やっぱり使用人さんにお願いするか?」
俺がそう聞くと、アヤナは小さく頷いた。
「そうね。さすがに何度もお邪魔するのは迷惑だし……しかたないわね」
けど、その声はどこか残念そうなのが気になった。
「……どうかした? 気になることでもあるのか?」
俺が尋ねると、アヤナは昔を思い出すように口を開いた。
「いえ……ただ、あの本は――私が大きくなったら、お母様が“あなたに渡すわね”って言ってくれていたものだったから」
その横顔は、どこか寂しげだった。
「たしか、アヤナちゃんのご両親って……事故で亡くなったんだよね?」
マイルがそっと尋ねる。
「ええ。二人で“ルージュ”に乗って、他国から帰ってくる途中……深雲獣に襲われて」
「そっか……。じゃあ、その本もルージュと一緒で、アヤナにとっては――形見みたいなもんなんだな」
「そうね……」
「なら、頑張って見つけないとな」
オレはそう言って、みんなの顔を順に見渡す。
レオンもマイルも、そしてノクティまでもが、真剣な顔でうなずいた。
――それから、休憩を挟みながら部屋中を探した。日が傾き、窓の外の空が夕焼けへと変わっていく。
太陽が沈みかけたころ、薄暗くなった屋根裏部屋の片隅で、ふと異変に気づいた。
(……スタークリスタルが、光ってる?)
首に下げたクリスタルが、かすかに淡い光を放っている。
昼間の明るさでは気づけなかったが、今は確かに――輝き明滅しているのがわかる。
すると、ノクティが近づいてきて、小さな声でつぶやいた。
「……近くに、“古代の遺物”があるな」
「みんな、ちょっとこれを見てくれ」
オレは光を放つスタークリスタルを掲げる。
「これって……まさか遺物の反応?」
以前オレと一緒に遺物探しをしていたマイルがすぐに気づく。
「ああ、この近くに遺物がある。そしてルージュに関係する本も……」
オレがそう言いかけた瞬間、みんなの表情が一斉に変わった。
「この周辺を探そう!」
オレの言葉を合図に、全員が一斉に動き出す。
そして――すぐに、それは見つかった。
埃をかぶった木箱が、ひっそりと隅に置かれていた。
「あった……」
アヤナが小さく息をのむ。
慎重に取り出し、蓋を開ける。
中には、美しい装飾が施された小箱が収められており――その中には、真紅の表紙に〈ルージュ〉の姿が描かれた一冊の本が、静かに眠っていた。
アヤナは震える手でその本を抱きしめ、ぽつりと呟く。
「……お母様」
◇◆◇
オレたちはその後、エレノアさんに本が見つかったことを伝えて感謝を述べ、一度宿へ戻ることにした。
エレノアさんからは、夕食を用意すると言われたけど、みんな早く確認したくて丁重にお断りした。
別れ際、リリスちゃんが駄々をこねたが、「用事が済んだら遊びに来る」と約束して我慢してもらった。
――そして宿に戻り、改めて本を開いた瞬間。
全員が息をのんだ。
それは“本”ではなかった。
二つ折りになったそれを開くと、淡い光があふれ出し、空間に赤い輪郭が浮かび上がる。
次の瞬間、街で見た街頭ビジョンのように――宙に、鮮やかなルージュの映像が投影された。
「ホロビジョンだな」
……ノクティが静かに呟く。
どうやら、古代の投影技術を使った記録装置らしい。
ノクティは「俺様は何でも知ってる」とか言うくせに、オレが古代文明の事を聞いても、お前に言っても理解できないて誤魔化すんだよな。
最近では、実はほとんど知らないんじゃないかと疑ってる。
そんなやりとりをしていると――。
「……思い出したわ」アヤナが小さく呟いた。
「この映像……昔、見たことがあるわ。どうして今まで忘れてたんだろう……」
映し出された映像には、〈ルージュ〉――正式名称〈コメット・ルージュ〉の詳細な説明が記されていた。
赤い光尾を引いて流れる彗星に由来する名。その姿は、今のルージュとは違っていた。
「ねえ、このルージュって、複座なんだね」
マイルが驚いたようにアヤナへ尋ねる。
「ええ。両親が深雲獣に襲われた時、ルージュも大きく損傷したの。そのあと、残っていた部品だけで再生したのが……今のルージュよ」
「そっか……じゃあ、エンジンコアが壊れたのも、その時……?」
「たぶん、そうだと思うわ」
するとレオンが、腕を組んでうーんと唸った。
「ならよ、使えなかった部品はどうしたんだ?」
「えっと……たしか、先祖代々の霊廟に納められたはずよ」
「待てよ。それってさ、コアの欠片が残ってる可能性、あるんじゃねぇのか?」
「……たしかに、その線はあるな」
オレもレオンの意見に同意する。
「なあ、アヤナ。その霊廟ってここから近いのか?」
「ええ。飛翔船で三十分もかからないわ」
「よし。なら、今から行ってみないか?」
オレがみんなの顔を見渡すと、全員の目に、同じ想いが浮かんでいた。
うなずき合い、オレたちはすぐに霊廟へ向かう準備を始めた。
――アヤナの両親とルージュの真実。
やっと見つけた手がかりに、オレたちの胸は高鳴っていた。




