第5話 赤き艦影、村に来たる!
今、オレたちは聖域の古代遺跡からハイノ村へ帰る道の途中にいる。
季節はまだ初夏だけど、日差しは強く、昼間はじっとしていても汗ばむような暑さだ。
道の木陰でひと休みしながら、マイルが持ってきてくれたおやつをのんびり食べている。
「ティーちゃん、これも食べる? はい、あーん♪」
マインの中では、いまだに“ノクティブーム”が続いているみたいだ。
自称グルメのノクティも、食事のときだけはマインに逆らわず、素直にされるがまま。
食欲には勝てないってことらしいね。
「ねえスカイ、今回の成果で、飛翔船の購入資金ってどれくらいになったと思う?」
「そうだな、ざっと三百万ゼニーくらいかな」
「すごいっ! それなら、中古の飛翔船ならもう買えちゃうんじゃない?」
「たぶんな。今度、ファクトリーのある空島へ見に行ってみようと思ってるんだ」
「じゃあ、私も一緒に行くからね。ナビ席はもちろん私が座るんだから!」
――実は、星降りの儀式のあと、マイルに「スカイが旅に出るなら、私も一緒に行くからね!」ってはっきり言われたんだ。
それどころか、彼女がスカウトのクラスを選んだ理由も、オレと旅に出るためだったらしい。
「スカイ一人じゃ心配だから、ちゃんと見ててあげるの。お母さんも応援してくれてるしね」
そう、照れもせずにまっすぐ言ってきた。
……正直、一緒に来てくれるのはすごく嬉しい。でも、本当にマイルはそれでいいのかなって、ちょっと心配にもなる。
「ティーちゃん、あーん♪」……もしかしてノクティが目当てなんじゃ……ないよな?
「ふたりとも、そろそろ出発しようか」
「うん。村に戻ったら、ティーちゃんに夕ご飯作ってあげるからね!」
それからも特に何もなく、オレたちは山道を抜けて、今は整備された街道を歩いている。
日が少しずつ傾き始めて、空気も涼しくなってきた。歩くのにも丁度いい時間帯だ。
――そんなときだった。
雲海を切り裂くように進む、大きな一隻の飛翔艦が視界に入ってきた。
「ねえ、あの赤い船……村のほうに向かってない?」
「ああ……ほんとだ。あの紋章……確か、“リヴェリア第三艦隊”のじゃないかな?」
「ってことは、リヴェリア自由都市連邦の飛翔艦ってことよね?」
「たしか……あれは最近就航したばかりの新型巡洋艦だったはず。今月の飛翔船マガジンで見た気がする」
「へえー、新型なんだ。大きいねぇ……」
「おい、リヴェリア自由都市連邦ってのは、何なんだ?」
「そっか、ノクティはずっと遺物の中にいたから知らないんだよな」
「リヴェリア自由都市連邦っていうのは、七つの都市を中心に結成された都市連合で、オレたちの村もその連合に加盟してるんだ」
「統治は、各都市の代表が集まる『七都市会議』っていう機関が、実質的に担ってるよ」
「なるほどな」
「でも、なんであの飛翔艦は村の方へ向かってるんだろう?」
「そうね……とにかく、村に戻ってみましょうよ」
そう言って、オレたちは急ぎ足で村へと歩き出した。
◇◆◇
オレたちが村に着くと、飛翔艦は村外れにある空き地の上空に停泊していた。
その飛翔艦は流線型の真っ赤な船体、オレがイメージする無骨な軍艦とは真逆の見た目をしている。
広場には上陸用の飛翔艦が数台停まっていて、その周りに村のみんなが集まっている。
「あっ、あの村長と話してるの誰だろう?」
そこには、腰まで伸びた金髪にエメラルドグリーンの瞳が印象的な女性がいた。
「軍服を着てるし、連邦軍の人だろうな」
「ねぇスカイ、もっと近くで見てみよ!」
◇◆◇
「突然押しかけてしまい申し訳ない」
「いえいえ、とんでもございません」
「私はリヴェリア自由都市連邦所属、第三艦隊旗艦〈ルビナス〉の艦長レイナ・ヴァルモンドです」
その軍人はレイナと名乗った。
へぇ、あの赤い飛翔艦の艦長なんだ。
「わしは、このハイノ村の村長ムライですじゃ。して、この度はどのようなご用でしたかな?」
「ああ、その件なんだが少し落ち着いた場所で話せないですか?」
レイナ艦長はそう言って広場に集まった村人を見渡す。
「そうですな、ではわしの家にご案内いたします。こんな辺鄙な村なので軍人さんは珍しいものでな。申し訳ないですじゃ。」
「いえ、ご配慮感謝します」
そう言って、レイナ艦長は二人のお供を連れて村長宅に入って行った。
……その時、レイナ艦長がこちらをチラッとみた気がしたけど、気のせいだよな。
「ねえねえ、もうちょっと近くで飛翔艦、見てみない?」
「ああ、行ってみよう」
――近づいてみると、その大きさに改めて驚かされる。
「近くで見ると、やっぱりすごく大きいね……!」
二人で、空に浮かぶ飛翔艦をしばらく見上げていた。
「一度でいいから、乗ってみたいな」
「スカイって、ほんと飛翔船が好きよね」
すると、少し離れたところで上陸用の飛翔艦を整備していた、作業着姿で五十代後半くらいの、白い顎髭を蓄えたおじさんが声をかけてきた。
「おっ、きみは飛翔士志望かな?」
「えっ、はい! そうです!」
「そっか、いいよなぁ、飛翔船は――夢がある!」
おじさんは、船体の上で作業を続けながら、にこっと目尻を下げて笑った。
「おじさんは、飛翔士だったんですか?」
「んー……まあ、昔ちょっとな。今はこうして、船の整備を任されておるがな」
工具をくるっと回して、胸ポケットに収める。手際がいい。
「飛翔士って、やっぱり大変ですか?」
少し緊張しながら聞くと、おじさんはふふんと鼻を鳴らした。
「そりゃあな。風の流れは読まなきゃいかんし、エンジンの癖も覚えなきゃいかん。でもな──」
と、おじさんは空に浮かぶ飛翔艦を、ふと見上げる。
「一度でもあの空を翔べば、もう地上じゃ満足できなくなるぞ。そういうもんだ……」
「まっ、きみも頑張れよ!」
そう言って、軽く手を振るとおじさんは作業に戻った。
「はい! ありがとうございます!」
それを聞いて、今まで以上に飛翔船で空を飛びたいという気持ちが強くなった。
それから、少しの間飛翔艦を眺めてから家に帰った。
◇◆◇
家に戻ったオレたちは、マインの母さんが差し入れてくれた夕食を囲んで、ほっと一息ついていた。
「ねぇ、あの艦長さん、すっごくかっこよかったよね。できる女って感じで、同じ女性として憧れちゃうなぁ」
「女性で軍艦の艦長って、けっこう珍しいな」
そのとき、ノクティがふいに口をはさんだ。
「そういえば……お前、気づいたか? あの女、スターリング《指輪》を着けていやがったぞ」
「えっ? 本当に?」
「ああ、間違いない」
「ってことは……レイナ艦長にも、ノクティみたいな精霊がついてるのかな?」
「おそらくな。ただ、どちらにせよ俺様よりは劣るだろうがな」
ノクティは自信満々に胸を張って、どや顔を決める。
「うんうん、ティーちゃんが一番だよねぇ〜」
マインがくすっと笑いながら頷いた。
「とりあえずさ、指輪のことはひとまず置いといて……明日、村長に何があったのか聞いてみよう」
「うん、そうだね。朝ごはん食べたら、行ってみよ」
◇◆◇
――翌朝、三人で朝ごはんを食べていると、不意に家の戸を叩く音がした。
「スカイ、おるかの? お前さんに話を聞きたいという方がおってな。会ってくれるか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
オレは慌ててノクティに指輪へ戻ってもらい、急いで身なりを整えると、玄関の扉を開けた。
そこに立っていたのは、村長――そしてその隣に、キレイなエメラルドグリーンの瞳に、陽光を思わせる金色の髪――。
昨日、見かけたあの女性艦長が、そこに立っていた。
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