第51話 政治と歴史の都フォルティナ
――季節は春。
アストリア飛翔学院に入学して一年、オレたちは無事二年生に進級した。
街を抜ける風はほんのりあたたかくて、空にはピンク色の花びらがふわふわと舞っている。
学院の正門では、新入生たちがちょっと緊張した顔で門をくぐっていた。
「……なんか、懐かしいな」
「うん、去年はわたしたちも、あんな感じだったよね」
オレは今、マイルと一緒に校門の前で新入生たちの姿を眺めながら、レオンとアヤナが来るのを待っていた。もちろんノクティも一緒だけど、今はスターリングの中でおネムだ。
二年生の始業は一年生より一週間遅いため、その間に――せっかくだから、みんなで久しぶりに遠出をしようという話になった。
行き先は、――リヴェリア自由都市連邦の首都にして、政治と歴史の都〈フォルティナ〉。
現在、オレとマイルの〈ルミナーク〉はもちろん、レオンの〈パンツァー〉もグラン工房でアーティファクトのエンジンコアを搭載した機体として整備を終えている。
そして残る一機、アヤナの愛機〈ルージュ〉のエンジンコア強化に必要な“欠片”の手掛かりを探すために、今回フォルティナへ向かおうと、みんなで話し合って決めた。
「二人とも、おまたせ」
手を振りながらアヤナがこちらへ駆けてくる。
オレたちも笑顔で手を振り返す。
「あとは、レオンだな」
オレがそう言ったとき、ちょうどレオンの声が聞こえた。
「よう、待たせたか?」
笑みを浮かべて近づいてくるレオンに向かって、「いや、大丈夫だ」と答える。
「どうする? このまま出発するのか?」
「そうだな。リヴェリアは少し遠いし、早めに出よう。弁当はマイルが作ってくれたからさ」
レオンの質問にオレがそう答えると、「おっしゃ! マイルの弁当はうまいからな!」そう言ってニッと笑う。
「ん? メシか?」
その声に反応したのは、スターリングの中で寝ていたはずのノクティだ。
「ティーちゃん、まだだよ。今日はティーちゃんの好きなテリヤキも作ったから、期待しててね!」
マイルが笑顔で言うと、ノクティのテンションは急上昇。
「テリヤキか! それなら、いくらでも食えるぜ!」
ノクティがスターリングから飛び出し嬉しそうに飛び跳ねる。
どうやらマイルは、冬の休みの間に、“テリヤキ”の味にさらに磨きをかけたらしい。
そして今後のことも考えて、じつはノクティには変装をしてもらっている。
――といっても、羽付きの服を着せて“カムフラージュしてるだけ”なんだけどな。
本人は認めないだろうけど、これで誰が見ても羽付きの服を着た、ちょっと変わった犬に見えるはずだ。
「じゃあ、さっそく行くか」
そう言って、オレたちは駐機場へ向かいフォルティナへと飛び立った。
◇◆◇
アストリアを飛び立ったオレたちは、途中小さな無人島で休憩をとった。
マイルの弁当はやっぱり絶品で、気づけばみんなであっという間に平らげてしまっていた。
その時、ノクティがテリヤキを独り占めしようとして逃げ回る――という小さなアクシデントはあったものの、それ以外は順調そのものだった。
「なぁ、アヤナ。フォルティナに着いたら、まずどこから調べるつもりなんだ?」
「そうね……。まずは、私の生家に行こうと思ってるわ」
オレの質問にアヤナが答える。
――以前、第4ファクトリー事件のときに聞いた話を思い出す。
アヤナの今の両親は育ての親で、生みの親ではないということ。
そして、両親を幼い頃に事故で亡くした自分を「実の子のように育ててくれたの」と心から感謝していると言っていたのを覚えている。
そして――アヤナの生家が、フォルティナにあることもその時に聞いていた。
「フォルティナの実家は、両親が亡くなってからは親戚の家族が住んでいるんだけどね、私が小さい頃に屋根裏で〈ルージュ〉の絵が描かれた本を見つけたことを思い出したのよ」
「ルージュが描かれた本?」
「ええ。それでね、今になって思い返すと。もしかしたらあれ、ルージュの取扱説明書だったんじゃないかって」
「なるほど。じゃあ、まずはその本を探すわけだな」
「そう。まだ残っていれば、いいんだけど」
――日が地平線へと沈みかけ、空が青からオレンジへと染まる頃。オレたちは、ようやくフォルティナに辿り着いた。
政治と歴史の都と呼ばれるだけあって、街には古き時代の面影を残す建物が立ち並び、荘厳な雰囲気を醸し出している。
そして、街を見下ろす小高い丘の上には、ひときわ大きな建物が鎮座していた。
かつて王族が住んでいたというその場所は、今ではリヴェリア自由都市連邦の中心――連邦議事堂として使われている。
オレたちは飛翔船を駐機場に止め、まずは宿泊先を決めるため街へと繰り出した。
上空から見たとおり、街は歴史を感じさせる建物が立ち並んでいる。
だけど不思議なことに、古臭さはまったくない。
古き良き意匠と、最新の技術が絶妙に融合した――そんな独特の雰囲気を持つ街だった。
「さすがリヴェリアの中心都市だな。人が多すぎて、歩くだけでもひと苦労だぜ!」
レオンが目を輝かせながら周囲を見渡す。
「古い町並みに、大きな街頭ビジョンって……なんだか不思議な感じだね」
マイルも感心したように呟く。
「おい、あそこの街頭ビジョン見てみろよ! 最新の飛翔船が立体で映ってるぞ!」
レオンが指さした先を見上げると、そこには〈飛翔船マガジン〉で紹介されていた最新モデルの飛翔船が、まるで本物のように空中へ浮かび上がっていた。
「ほら、いろいろ見て回りたい気持ちは分かるけど、まずはホテルを決めるわよ」
アヤナがオレたちに視線を向け、苦笑する。
「ああ、そうだな。じゃあ行こうか」
オレは頷き、みんなと一緒に中心街を歩き出した。
だが、いざホテルを探してみると――さすがはリヴェリアの首都。どこも宿泊料金が、びっくりするほど高い。
「どこも高すぎるな。学生のオレたちにはちょっと無理がある」
「だよね。ハイノ村なら節約すれば一ヶ月は暮らしていける金額だよ……」
マイルが苦笑しながら財布を握りしめる。
「そうね、中心街はどうしても高くなるの。観光客も多いし、国外への“見栄”っていうのもあるのよ」
「困ったな、アヤナはどこかオレたちでも泊まれそうなところ、知らないか?」
オレが尋ねると、アヤナは少し考え込み、それから頷いた。
「そうね……私が住んでたころの記憶だけど、まだあるかしら」
アヤナに案内され、中心街を外れて少し奥まった通りを進む。
しばらく歩くと、小さな広場の向こうに、一軒の宿屋が見えてきた。
「ここよ、まだあって良かったわ」
アヤナが微笑みながら入口へ近づき、扉を開ける。
「マーサおばさん、いる? アヤナです!」
アヤナは懐かしそうに、宿の店主を呼ぶのだった。
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カクヨムコン11に向けに執筆していた、現代SFオカルトストーリーが一段落したので、こちらも少しづつ連載を再開します。
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