第50話 春、再び空へ
「あ〜〜、やっぱりパンツァー飛ばしてー!」
「なに言ってるんだよレオン。カレンポート事件とか指名依頼とかで授業がだいぶ遅れてるんだから、仕方ないだろ」
オレは最近、同じことばかりボヤくレオンに、半ばあきれながらも苦笑いを浮かべた。
「それは分かってるけどよぉ……」
レオンは頭を抱え、机に突っ伏す。
「このままだと進級できないわよ」
「だけどよ、アヤナだって自分の船のコア部品探しとかしたいだろ?」
「……それは、そうだけど」
「ねえねえ、アヤナちゃん。コアの手掛かりは何も無いの?」
「ええ。何箇所か候補は絞ったんだけど、調べに行くにはちょっと遠いの。それに今は冬だし、どちらにしても無理よ」
オレたちはカレンポート事件のあと、無事にパンツァー用のパーツを入手して、グラン工房で強化をお願いした。
強化された愛機を見てレオンは、大はしゃぎで翔び回り、父親のヴァルガス家当主ヘクターさんから、「ヴァルガス家としての自覚が足らん!」とこっぴどく怒られたあげく、数週間の飛行禁止をくらう羽目になった。
その後は授業の遅れを取り戻すために学業に追われながら、ギルドの依頼もこなすという怒涛の日々。
そして季節は冬になり、学生の飛行は禁止。パンツァーにも乗れず、授業漬けの毎日に――ついにレオンの不満が爆発した、というわけだ。
「そりゃオレだって翔びたいけどさ……今年からだろ、冬の間は“深雲獣”が活性化するからって、主要な空島の近辺以外は飛行禁止になったの。レオンも知ってるだろ?」
「わかってるけどよ、オレのパンツァーなら冬の空でも余裕で飛べるって!」
「レオン。そんなこと言ってると、またナタリー先生に怒られるよ」
マイルがいつもの調子で、レオンにツッコむ。
「わーってるよ……。にしてもマイルって、最近俺にも厳しくなったよな」
「まったく……。私はスカイが二人になったみたいで大変なんだから!」
なんでそこで、オレにも飛び火するんだよ。
勘弁してくれ、マイルを本気で怒らせたら大変なんだぞ……!
そんな他愛もない会話を交わしていると――
講義室のドアが開き、ナタリー先生が入ってきた。
オレたちの授業の遅れを気にかけて、実技に加えて補習もしてくれている。
「――はい、そこ静かに! みんなより遅れてるんだから、真面目に講義を受けてください。……特に、レオンくん?」
「は、はい……!」
名指しされたレオンが、びくっとして姿勢を正す。
ナタリー先生は普段は優しい先生なんだけど、怒らせると本気で怖い。
特に実習の際に急旋回、急上昇、急降下を延々と訓練させられた次の日は、一日ベッドから動けなかった。
「ナタリー先生、質問なんですけど。――最近になって、急に深雲獣の活動が活発になってるって聞くんだけど、原因は何なんですか?」
「あら、レオンくんが座学で質問なんて、やる気が出てきたのかしら?」
ナタリー先生は、そう言って驚いた顔をする。
レオンがなぜか、まんざらでもない顔をしているけど、ついさっき座学ばっかで嫌だって言ってただろ……。
「そうね、正確なところはまだ分かっていないの。ただ仮説では、周期的な現象じゃないかって言われているのよ」
「周期、ですか?」
「ええ、アステールでは数百年に一度、深雲獣が活性化する時期があるらしいの。それが原因という説が有力ね」
「やっぱりその説は、古代遺跡で見つかったデータからの仮説なんでしょうか?」
アヤナが質問する。
「そうよ、ここ最近ある研究チームが発表した仮説ね」
ナタリー先生は、そこでちらっとオレの方を見た。
「え……それって、もしかして?」
「そうよ。スカイくんのご両親が参加していた研究チームよ」
思わず息をのんだ。
まさか、こんなところで両親の話を聞くなんて――。
オレの両親は、物心つく頃から外に出てばかりで、「これは必要な研究なの」と言いながら、一緒にいられないことを謝られたのを思い出す。
「たしか、スカイの夢は、両親を見つけ出すことだったよな?」
「ああ。絶対に見つけ出すつもりだよ」
「その時は、俺も絶対手伝うからな!」
「もちろん、私も手伝いますよ!」
(俺様にまかせとけ! 相棒!)
レオンとアヤナ、そしてノクティの言葉に胸が熱くなる。
隣ではマイルも「頑張ろうね!」と微笑んでくれた。
「ありがとう、みんな……」
その気持ちが、まっすぐ心に届く。
――そうだ。必ず見つけ出す。あの深雲海の先にいる、両親を。
「そのためにも、今はしっかり勉強を頑張ってくださいね」
「はぁ……結局そうなるのかよぉ」
ナタリー先生の言葉に、レオンが肩を落とす。
その情けない声が妙に可笑しくて、思わず笑ってしまった。
気づけば、みんなもつられるように笑っていた。
◇◆◇
結局、冬のあいだはほとんど学院に缶詰状態で、座学と実習に明け暮れた。
年の暮れになると、みんなそれぞれ地元へ帰り、オレもハイノ村へ戻って久しぶりに顔を出し、村のみんなに挨拶を済ませたあとは、グラン工房で手伝いをしながらのんびり過ごした。
たまにレオンやアヤナ、それにマイルとも連絡を取り合い、ギアベルグに新しくできた“蒸気温泉”に遊びに行ったりもした。
冷たい雲海の風を感じながら、湯けむりの中で笑い合った時間は特別な冬の思い出だ。
年が明けてからは、それぞれ忙しくてしばらく会えなかったけど――
休み明けに学院で再会したとき、みんなの元気そうな顔を見て嬉しくなった。
日差しが少しずつ暖かくなり、春の気配が雲海を包みはじめる頃。
努力の甲斐あって、オレたちは全員そろって二年生に進級した。
「よっしゃ! じゃあ早速ひとっ飛び行こうぜ!」
うん。レオンは変わらないな。
でも――その気持ちは、オレも同じだ。
「ああ、行こう!」
そう言って、オレたちは並んでデッキを駆け出し、空へと飛び出した。
春の風が頬を撫で、青く澄んだ空が、新しい冒険の始まりを告げていた。
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