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星雲の飛翔士 〜アーティファクトの力で世界を巡る〜  作者: いぬは
【第6章】 《カレンポート騒乱編》
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第49話 帝国の影

 霞んだ視界の中、頭の中では考えがぐるぐると渦を巻いていた。

 ――この相手、間違いなく戦い慣れてる。オレたちなんかとは、経験の桁が違う。


「スカイ大丈夫か!」


「ああ、なんとかな。ルミナークとノクティのお陰だ。二人も深追いはするなよ」


 無線越しにレオンの荒い息が聞こえてくる。


「ったく、こいつは何者なんだよオヤジとは違うが。相対した時の殺気っていうか……」


「そうね、かなりの手練だわ。軍人っていうのは、本当なのかもしれない。……カレンポートの所属かはわからないけど」


 アヤナも慎重な声で応じる。肌で、相手の格の違いを感じているのだろう。


「――二人とも、アイツがオレと一対一になるよう、誘導してくれないか」


「なんか、考えがあるんだな。任せとけ」


「了解よ。気をつけて、スカイ」


 オレはこれまでの戦闘で、ある“癖”に気づいていた。


 二人が連携し、敵機を左右から挟み込むように動く。

 奴の注意がオレに集中するタイミングを見計らい――誘導開始。


「……まったく。何か策でもあるかと思えば、また正面突破ですか。素人が良い機体を手に入れて調子に乗る典型ですね」


 通信越しに、男の冷めた声が響く。


「うるさい黙れ! 今度こそ撃ち落としてやる!」


 あえて挑発に乗るフリをする。


 ルミナークの主砲を拡散設定にし、正面から突撃する。


(これで“避ける方向”を誘導する……!)


 敵機がギリギリでこちらの砲撃を回避しようと動いた――その瞬間、オレは読み切った進路に合わせて船首を切り、そのまま突っ込む!


「何だと!!」


 通信の向こうで、初めて男の焦った声がした。


(読み通り。やっぱりあいつ、避けるときの癖がある!)


『オレは、ルミナークの力に慢心してるんじゃない“信じてる”んだよ!』


 ルミナークの機体が青白く光を纏いながら、敵機と交差する。

 鋼と鋼がぶつかる轟音が響いた。


 轟音とともに敵機がバランスを崩す――その片翼は大きく損傷していた。


「……なるほど。慢心していたのは私の方、というわけですか」


「投降しろ! その機体じゃもう逃げられないぞ!」


 だが、男は静かに言った。


「残念ですが、そういうわけにもいかないのですよ」


 次の瞬間、敵機が信号弾を空へ向けて撃ち上げた。


「スカイ! 何か来る……!」


 マイルの緊迫した声が響く。

 前方の空が、ぐにゃりと歪んだ。


 ――空間が波紋のように波打ち、そこから、漆黒の巨艦が現れた。


 一つの空島かと思えるほどの圧倒的な質量――まさに超弩級。

 その船体に刻まれた紋章が、視界に入る。


「……グラディアス帝国!」


「こちら、グラディアス帝国軍所属艦『ビスマルク』」

 重厚な拡声マイクの声が空に響いた。


「そちらの搭乗者は、我が帝国の“客人”だ。以後の処遇はこちらに任せてもらう」


「待て、そいつはこっちに攻撃を仕掛けてきたんだぞ!」


「……言い分があるなら、正式な外交ルートを通してください。

 それでも妨害を続けるなら――我々は“国際法”に基づき、しかるべき手段を取らせていただきますが?」


 脅すでも怒鳴るでもない。ただ静かに、容赦なく突きつけられる現実。


 それでも食い下がろうとするオレをアヤナが止める。


「スカイ待って、今ここで帝国に手を出したら、本当に国際問題になるわ……!」


 オレは唇を噛むしかなかった。

 怒りと悔しさが胸の奥を焼く――だが、どうすることもできない。


 ――ちょうどその時、通信機から声が入る。


「スカイ君、セリナよ。……落ち着いて聞いて。たった今、グラディアス帝国から正式に“ワルマールの身柄引き渡し要求”が届いたわ」


「でも、大使……!」


 怒りが込み上げて言葉を荒げるオレに、セリナ大使の声が静かに重なる。


「気持ちは、わかる。……ええ、私も本当は、今すぐにでも捕まえたい。でもこれは、国家間の問題なの。今は……どうか、耐えて」


「……くっ……わかりました」


 オレは目を閉じて深く息を吐く。

 ここで暴れても、どうにもならない……それくらい、わかってる。


「そう言えば、あなたの名前を聞いていませんでしたね」


 敵機の男が聞いてくる。


「スカイだ!」


「スカイさん、ですね。……覚えておきましょう」


 男は一拍置いて、名乗った。


「私はゼーダ。……以後、お見知りおきを」


 そう言い残し、男は傷ついた軍用機から降り、

 帝国艦から飛来したシャトルに乗り込んでいった。


 ――オレは、その光景をただ、黙って見ていることしかできなかった。


 ◇◆◇


「皆さん、本当にご苦労さまでした」


 セリナ大使の柔らかな声が、隊員たちに響いた。


「ワルマール本人を捕らえることは叶いませんでしたが――

 人質の救出、そしてカレンポートにおける商会の暗躍を止められたこと。

 それは何より大きな成果です」


 セリナ大使が作戦に参加した隊員を労う。


 今回の“身柄引き渡し”に関する公式発表は、結局“非公開”とされた。

 おそらく、グラディアス帝国からの強い圧力がかかったのだろう。

 ……アヤナが、そんなふうに推測していた。


 ワルマール商会については、営業取り消し処分となり、私財のほぼ全てが没収された。

 捕らえられた私兵たちの供述、そしてグラディアス帝国側からの内部情報提供――、その積み重ねによって、商会の裏の顔が明るみに出た。


 そして――。

 マイセンさんからは、当初の目的だった「パンツァーの部品」を正式に提供してもらうことができた。

 さらに、救出した息子さんとお孫さんにも、すごく感謝された。


 極めつけは、あの蒸気温泉だ。


「これからは、いつでも無料で使ってくださいね」と、息子さんが笑って言ってくれた。


 なんでも、あの温泉宿のオーナーは彼なんだとか。


 ――――――


「いろいろ思うところはあるけど、これでひと区切り、だな」


 オレがそうつぶやくと、レオンが肩を回しながら苦笑した。


「まったくだぜ。パンツァーの部品を探しに来ただけなのによぉ。まさか、あんな大騒ぎに巻き込まれるとは思わなかった」


「でもおかげで、温泉いつでも入り放題って最高だよね、アヤナちゃん!」


「ええ、ほんと。大変だったけど……蒸気温泉は癒しよね」


 蒸気温泉にすっかり心を掴まれたマイルとアヤナは、どこか浮かれたような笑顔を見せる。

 ……もちろん、オレだって嫌じゃないけどさ。


「でもよ、蒸気温泉入るために、毎回ここまで来んのか?」


 レオンが少しだけ現実に戻ってツッコミを入れると、マイルが得意げに胸を張る。


「ふふん。実はね、アストリアとギアベルグにも支店がオープンするんだって!」


「え、本当に?」


「本当よ。聞いた話だと、来月には開店するそうよ」


「マジかよ……それなら毎日でも通えるな」


「ふふ、楽しみね」


 戦いのあとの静けさの中――

 オレたちの表情も、自然と和らいでいった。

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