第4話 出会いは突然に
「ふぅ、今日はこのくらいにしておこうか、ノクティ」
「今日もいい感じだぜ!」
「ああ。この調子なら、目標達成もそう遠くなさそうだな」
ノクティというのは、例の遺物――正確には、“指輪”の中に入っていた存在だ。
本人の説明によれば、「偉大なる大精霊」らしい。……とはいえ、見た目は羽の生えた小さな子犬にしか見えない。
その外見を気にしているのか、「可愛い」とか「ちっちゃい」なんて言おうものなら、本気で怒る。
「ティーちゃん」なんて呼び方は完全にNGワードだ。もっとも、マイルだけは気にせず呼んでいるけどね。
今のオレたちが何をしているかといえば、自分達の飛翔船を手に入れるために聖域の古代遺跡で遺物を発掘し、それを売って資金集めをしているところだ。
◇◆◇
「スカイ、ティーちゃん! そろそろ帰ろー!」
マイルの声が背後から響く。
「“ティーちゃん”って呼ぶなって、何度言えばわかるんだ!」
「だってノクティより、ティーちゃんの方がかわいくない?」
「可愛くなる必要がないんだよ! ……ぐぬぬぬ……!」
ノクティが悔しそうに唸りながらマイルを睨みつける。マイルはそんな様子を見て楽しんでいる。
いまではすっかり日常の光景となったこのやり取りも、初めてノクティと出会ったあの日、村はちょっとした騒ぎだった。
◇◆◇
ー 約二ヶ月前 ー
ノクティとの出会いは突然だった。
星降りの儀式のあと、家に帰ったオレは、謎の声に導かれるまま例の遺物を開けた。
すると中には、銀色で青色の細長い宝石が付いた指輪が入っていたんだ。
そして、その指輪から出てきたのが――。
「ふぅ〜、やっと出られた! 助かったぜ!」
「はい!?」
「……どうした小僧?」
「……まっ、魔物だぁ!」
「魔物じゃねえ! お前達が言うところの精霊だ! それも“偉大な大精霊"さまだぞ!」
羽の生えた小さな生物は、後ろ足で立って誇らしそうに胸を張っている。ちょっと可愛い。
「えっ精霊? 星降りの儀式で現れたみたいな?」
「あんな自我も無い奴らと一緒にすんな!」
「向こうのほうが光ってたし凄い精霊ぽかったんだけど……」
ズゴォォーン!
「あ痛ったー!」
「何でジャンプして突っ込んで来るんだよ!」
「お前が失礼な事言うからに決まってんだろ!」
「いきなり精霊なんて言われても、信じられるわけないんだけど!」
「まぁいい、とりあえず、この指輪を身につけろ」
どうしようかと迷ったんだけど、早くしろと五月蝿いので、仕方なく右手の人差し指に指輪をはめる。
「よし、これで契約完了だ」
「えっ、契約? それって……つまり、オレが契約者ってこと?」
「そう言うことだ」
「……契約って取り消せたりするのかな?」
「無理だな! ちなみに、もう外せんからな」
え!? 指輪をおもいっきり引っ張ったけど外せない……。
「外せんと言っただろ。だが安心しろ。俺様は契約者に力を貸すための存在だからな。契約して損はない!」
「よし、じゃあまずは自己紹介からだな」
”自称大精霊“が勝手に話を進めようとする。
「俺様の名前はノクティだ! よろしくな!」
「オレはスカイだけど……」
「さっそくだが、スカイ。お前は星石や精霊の事について、どれだけ知っている?」
「えっと、星石はクラスの力を得るために必要で、精霊は神様の使いって言われてるけど」
「ふむ、今の文明の知識ではそんな所か」
「何だよ、ノクティだっけ? 君は知ってるの?」
「もちろんだ。俺様は何でも知ってる! ……と言いたいところだが情報がかなり欠損しているな……」
「まぁいい、まずは星石の事について教えてやろう」
「星石の正式名称は〈スタークリスタル〉だ」
(そう言えば儀式の時に精霊が言ってたような……)
「スタークリスタルの機能は、データの受信、送信、記録、実行などだ、あと動力源としての使用も可能だな」
「データの受信って儀式の時のあの光のことかな? 記録はクラスの力を保存しておけるって事?」
「ふむ、概ねそんな所だ」
「お前が見た光は、〈衛星〉から送信されたクラスなどのデータを受信した時のものだな」
「衛星?」
「 ……まぁ空にある星の事だとでも思っておけばいい」
「次が受け取ったクラスを実行する機能だな」
「クラスの力を受け取るってのは、儀式の事なんだろうけど〈実行〉って?」
「クラスの力はあくまでもデータだ、だからそれをお前たちが使えるようにする機能って事だな、スタークリスタルが近くに無いとクラスの力を使えないだろ。これが理由だな」
「スタークリスタルの説明はこんなところだ」
「っで、次は俺様についてだな」
「一言で言えば、俺様《大精霊》はスターリング《指輪》の管理者だ。データを管理するのが主な仕事だな。」
「そしてそのスターリング《指輪》の機能は、ライブラリだ」
「ライブラリってのは……ん?」
コンコン!
「スカイ、いる?」
「!?ちょっとまって」
ガチャ――返事も聞かずにドアを開けて入ってくるマイル。
「お母さんが一緒に夕食………………」
家に入ってきたマイルの視線が、ふわふわ浮かんでいるノクティにロックオンされる。
「って……え、何、その……生き物? ――かぁわぃぃ♪ 」
「いや、まってマイル説明させ……」
マイルがノクティに突撃しギュッと抱きかかえる。
「オイ! 抱きつくんじゃねぇ! ハァナァレェロォォ!」
ノクティは嫌がってるけど、マイルはお構いなしだ。
「ねぇねぇ、この子どうしたの?」
――マイルにこれまでの経緯を聞かせる。
「……へぇ、ティーちゃんって精霊さんなんだ。指輪の中に住んでるの?」
「オイ小娘、ティーちゃんってのは何だ?」
「ノクティだからティーちゃんでしょ♪」
「バカにしてんのか? 俺様は“大精霊さま"だぞ!」
マイルの腕の中で暴れるけど、ガッチリホールドされて動けないでいる。
「怒ったティーちゃんもかわいいね♪」
「……可愛い言うなー!」
こうなったマイルには何言っても無駄だと思うぞ――ノクティ……。
マイルの猛攻にタジタジのノクティは、一度指輪の中に退避したんだけど、美味しい夕食をご馳走してくれるというマイルの言葉にまんまと釣られてしまった。
「精霊って食事必要なのか?」って聞いたら味覚もあるようで、分解してエネルギー変換するそうだ。
「俺様はグルメだ!」と主張していたけど遺物の中にずっと入ってたんだから、実際に食べたことあるのか?
◇◆◇
今はノクティを抱きかかえて、満面の笑みを浮かべたマイルと一緒に、彼女の家に向かっている。
彼女はノクティを抱えたまま、何の躊躇いもなく家に入ると両親にノクティを紹介していた。
マイルの両親は最初は唖然としていたけど、ノクティが精霊だと聞くと今は賓客扱いだ。
ノクティもマイルに料理を食べさせてもらって、満更でもない感じ。
「まぁまぁだな」っと言いながら、その体の何処に入るのかというくらい大量に食べていた。
食事を食べ終わり歓談した後、マイルの両親にお礼を言ってお暇しようとしたんだけど、マイルが一緒に寝ると言って駄々をこねだした。最終的には両親に怒られて渋々、本当に渋々諦めてくれたけど、今後が心配だ。
帰り道、ノクティはマイルから解放されたのと、よっぽど食事が美味しかったのか、終始ご機嫌だった。
家に着いたオレ達は、今後どうするかを話し合った結果、どうせバレるんだし明日村長へ報告に行こうという話になった。
◇◆◇
翌朝、まだ日が昇りきっていないというのに、マイルが家を訪ねてきた。
もちろんノクティ狙いなのは言うまでもない……。
当のノクティはマイルが作ってきてくれた朝食をバクバクと食べている。
(朝からよく食べるな、完全に料理で手懐けられている。それで良いのか大精霊)
――その後、食事に満足したノクティを連れて村長の家に向かった。
もちろんノクティはマイルに抱きかかえられながら。
道すがら村のみんなから声を掛けられたんだけど、みんな一様に驚いた顔をしていた。
まぁこれでも一応、精霊さまだからな。
村長宅に到着したオレ達は、さっそく村長に経緯を説明した。とりあえず害は無さそうなのとマイルの必死の説得で村で暮らすことを許可してもらった。
言うまでもなく、村中の話題になったノクティは、質問攻めに合ってげっそりしていた。
まぁ話し方は横柄だけど、見た目は可愛いしマイルを筆頭に女の子達に大人気になった。
◇◆◇
村での“ノクティブーム”がひと段落したころ、ひさしぶりに行商人がやって来た。
両親の遺産があるとはいえ、収入のない状態が続くのはやっぱりまずい。最初は村の仕事でも手伝おうかと思っていたけど、ノクティが「遺物を売れば、それなりの金になるんじゃないか?」と言い出した。
さっそく遺物を持って行商人のもとへ向かう。今回、ノクティは指輪の中に入ったままだ。村の外の人間には、あまり見せない方がいいという判断もあってのことだ。第ニ次ノクティブームが起きても困るしね。
行商人は村の広場で露店を開いていた。すでに何人かの村人が買い物をしている。
年の頃は四十代後半くらい。彼と一緒に店を切り盛りしているのは、オレたちと同い年くらいの女の子だった。
「いらっしゃい。今日はどんなご用件で?」
「えっと、古代遺跡で見つけた遺物を売りたいんです」
「ほほう、それは興味深い。……見せていただけますかな?」
オレは腰のポーチから、遺物の片割れを取り出し、行商人に手渡した。
「……金属なのに、随分と軽いですな」
「ミナト、鑑定スキルで見てくれんか」
「ちょっと貸してみぃ」
隣で興味深そうにしていた少女が、手を伸ばして遺物を受け取った。赤髪で、丸い眼鏡をかけた、どこか独特な話し方をする子だ。
彼女はじっと遺物を見つめたあと、興奮した様子で口を開いた。
「……ちょっと鑑定してみたんやけどな、この金属、“ティアナイト”て名前らしいわ。鉄より軽いくせに、めっちゃ丈夫なんやて!」
「お兄さん、これ、ウチに売ってくれるんか?」
「ちなみに、これ以外にもまだあるのですかな?」
「今はこれと、もう1つだけです。でも、入手のあてはあります」
「なるほど。では、来月またここに来ますので、その時にできるだけ譲ってもらえませんか?」
「価格は……一つ二万ゼニーで、どうでしょう」
「……にっ!? ……い、いえ、それで大丈夫です! 売ります!」
「やったね、お父ちゃん、これはいい商売になりそうやで」
こうして、手元にあった二つの遺物を売り、四万ゼニーを手に入れた。
◇◆◇
っと、こんな感じで今は資金集めをする日々。
しかし、これがスカイ達の運命を変える引き金になるとは、今は知る由もない。
最後までお読みくださいありがとうございます。
ここから【第2章】 《飛翔船購入編》の始まりです
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