第44話 囮作戦の裏で
――その夜。
オレたちは宿の部屋に集まっていた。
「なあ、どうするんだスカイ」
レオンが腕を組み、苛立ちを隠そうとしない。
「軍に任せて……本当に大丈夫なんでしょうか」
アヤナの声も不安に揺れている。
「スカイ……」
マイルが、じっとこちらを見つめてくる。
軍が動けば、空賊は捕まるかもしれない。でも――人質が無事かは分からない。
オレは、拳をぎゅっと握りしめる。
「……やっぱりオレたちで助けよう。――オレたちは、独自に動こう!」
言い切った瞬間、迷いはすべて吹き飛んだ。
「よっしゃ、そうこなくっちゃな!」
「もちろん、私も行きます!」
「わたしも行くよ!」
全員の瞳に揺るぎない決意が宿っていた。
「俺様も忘れんなよ!」
ノクティもやる気満々で飛び跳ねる。
オレたちは、それぞれの覚悟を胸に――独自の行動を開始することを決めた。
◇◆◇
――翌朝。
俺たちは、まだ薄暗い港町の一角に身を潜めていた。
囮作戦の開始は数日後。
今頃はマイセン商会が偽情報を広めている。
オレたちも――ただ待っているわけではない。
その間、こちらでも独自に調査を進めていた。
狙いは一つ。
協会でやたら情報をばらまいていた三人組だ。
“偽情報を流して軍や探索者を撹乱している”――ワルマール商会と関係があるに違いない。
三人組は今日も探索者を捕まえては空賊の目撃情報を吹聴していた。
話を聞いた何人かの探索者に確認すると、やはり根拠も裏付けもない与太話ばかり。
その日は適当に情報を広めたあと、三人は宿へ戻り、それきり外出することはなかった。
◇◆◇
――翌日。
いつものように情報をばらまき始めた三人組。
だけど、今日の話は妙に具体的だった。
「空賊の目撃情報……すべて軍の囮商隊から離れた場所ばっかりだね」
「……ああ、やっぱり怪しいな」
オレもマイルの意見に同意する。
意図的に商隊から注意をそらしているのは明らかだ。
他のみんなも同じ考えらしく、眉をひそめる。
「おそらく、昨日の夜から今朝にかけて、どこかでワルマール商会の人間に接触してる可能性が高いな」
オレはすぐに指示を出す。
「レオンとアヤナは宿を見張ってくれ。オレとマイルは引き続き三人を監視する」
「了解だ」
「分かったわ」
オレたちは二手に分かれて行動することにした。
レオンとアヤナが宿へ向かうのを見送り、オレとマイルは三人の監視に戻る。
距離を保ち、物陰に隠れながらじっと様子をうかがう。
しばらく監視を続けたが、やはり三人組は囮商隊と違う場所ばっかり教えていた。
そろそろ、その日の張り込みも終わりかと思った矢先。
露出度の高い服を着た女が、ふいにこちらを振り返った。
そして、ゆっくりと歩み寄ってくる。
(まずい……バレた!?)
背筋がぞわりと粟立つ。
「あらあら、今日はお二人だけ?」
挑発的に笑う女。
「べ、別にいいだろ」
動揺してしまった。思わず言葉がもたつく。
「そんな強がり言って。あなたたちが他の冒険者に空賊の情報を聞き回ってるの、ちゃーんと知ってるのよ」
いやらしい笑みを浮かべながら、女は顎に手を当てて覗き込んでくる。
「頭を下げてお願いすれば、教えてあげてもいいわよ?」
「別に知りたくない!」
女は鼻で笑い、邪魔者を追い払うように手を振った。
「ふん、素直に教えてくださいって言えばいいのに。やっぱりガキね」
そう言って、そのまま去っていく。
張りつめていた空気が一気に緩む。
「ふう……あぶなかったね」
マイルが胸に手を当てて息を吐いた。
「ああ。……作戦のことを感づかれたわけじゃなさそうでよかった。焦ったよ」
冷たい汗がまだ背中を伝っていた。
オレは肩で息をしながら、周囲をもう一度見回す。三人組の姿は、もう人ごみに消えている。
「今日はここまでにしておこう。……あとはレオンとアヤナに期待だな」
そう呟いた瞬間、胸の奥に小さな不安が残った。
(頼むぜ、二人……無茶はするなよ)
◇◆◇
その頃、レオンとアヤナは三人組の宿を見張っていた。
「戻ってきたぞ」
日が傾き始めた頃、路地に三人組が現れる。周囲を窺うようにして帰ってきた彼らの前に、フードを深く被った一人の男が待っていた。
「……誰かしら?」
男は三人組に何事かを告げ、周囲を気にしながら一緒に宿に入る。三人もそれに続く。
「どうする? 入るか?」
「いえ、顔を知られてるし流石に危険よ」
「そうだな。感づかれたらお終いだな」
レオンもアヤナの意見に同意する。
そのまま、物陰に身を隠し数十分が経過した頃、フードの男が宿から出てくる。
「離れて追いかけましょう。慎重にね」
「おう、了解」
やがてフードの男は街外れにぽつんと建つ、古びた機械工場の前で足を止めた。
錆びついた門を押し開けると、扉が「ギィィ」と鳴りそのまま屋敷の奥へと消えていく。
「もう少し近くで――」
レオンが身を乗り出そうとした瞬間、アヤナが素早く腕をつかんだ。
「待って。……門の上を見て」
アヤナが指を差す先に視線を向ければ、黒いレンズがこちらを睨んでいた。
見渡すと門だけでなく、いたるところに監視カメラが取り付けられている。
「うお、あっぶね……助かった、アヤナ」
「外観はボロボロなのに、セキュリティは最新。……怪しいわね」
「ああ。これは当たりなんじゃねえか?」
二人は目を合わせ息をのむ。だが――。
「これ以上は危険だわ」
「ああ。無理に突っ込むのは自殺行為だな」
互いにうなずき合い、深追いを避けて宿へ戻る決断を下した。
◇◆◇
――翌朝。
俺たちはマイセン商会を訪ね、昨夜のことを報告する。
「古びた工場だと? 場所はどこじゃ」
促され、アヤナが地図に印をつける。
その瞬間、マイセンさんの顔色がさっと変わった。
「……そこは、以前は小さな商会が所有していた工場じゃな。しかし最近――ワルマール商会が買収したはずじゃ」
その言葉を聞いた瞬間、疑惑が確信にかわる。
あの工場が監禁場所に違いない!
残された時間はあとわずか。
軍の作戦が動き出す前に、必ず人質を見つけだしてみせる。
そう、決意を固めた。
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