第42話 交差する疑惑
――宿に戻ったオレたちは、空港で集めた情報を机の上に広げた地図に書き込んでいった。
「えっと、ここが積み荷がなくなった船の帰港地」
「そして、こっちは焼け焦げた小型船が帰ってきた航路ですね」
マイルが色ペンで印をつけていく。
アヤナはメモを読み上げながら、次々と情報を書き加えていく。
「同じ方角から帰ってきた船が多いって証言も……この辺りね」
地図の上に赤や青の印が集まっていく。
バラバラに見えた小さな出来事が、線でつながった瞬間――。
「……おい、見ろよ」
レオンが唸る。
その線は一点で交差していた。
カレンポートの北西、雲海の中に浮かぶ無人島。
「……偶然にしては出来すぎだな」
「そうですね。全部この島の周辺を通過した船です……」
アヤナの声にも緊張が混じる。
◇◆◇
――翌朝。
オレたちは協会に向かい、空港で拾った島の情報を確かめることにした。
「えーと、この島ですね? 少しお待ちください」
職員が奥へ消えていく。
と、その時――。
「あっら〜、昨日の生意気な子たちじゃない?」
聞き覚えのある声に振り返ると、例の三人組探索者がニヤニヤして立っていた。
「協会で情報収集かしらぁ? どうせ新しい情報なんて出てこないと思うけどねぇ」
女探索者がわざとらしく笑みを残し、仲間とともに去っていく。
「ほんっと、感じ悪!」
マイルが思わず声を荒げる。
「落ち着いて。あの人たち、わざと挑発してるんです」
アヤナも眉をひそめる。
ちょうどその時、職員が戻ってきた。
「お待たせしました。その島ですが……名義上はワルマール商会の所有地となっています。強い乱気流と磁気嵐が発生しやすいとのことで、調査の記録もほとんど残っていませんね」
(ワルマール商会……?)
「あの、ワルマール商会ってどんな商会なんですか?」
オレが尋ねると、職員は言葉を濁しながら答える。
「最近急速に成長した新興の大商会です。ただ……強引な取引で中小商会を潰したとか、吸収したとかあまりいい噂は聞きませんね。あと、あくまで噂ですが裏の組織と繋がりがあるとか……」
職員の顔には渋い色が浮かんでいた。
(裏の組織か……)
礼を言って協会を後にする。
「ねえ、どうするの? 他人の島を無断で調査するわけにはいかないよね……」
マイルが不安そうにオレを見上げる。
答えを探しながら迷っていると、レオンが口を開いた。
「なあ、マイセンさんのところに行ってみねぇか? 会えるかどうかは分からねーけど、同業者なら商会の裏事情に詳しいだろ? それに――人質の件も、確かめておきてぇし」
オレはみんなの顔を見回す。誰も反対する者はいない。
「よし……ダメ元でも行ってみよう」
そうしてオレたちは、中央通りにある店に向かう。
店の中に入り、受付の女性に事情を伝えた。
「マイセンさんにお話があって……」
「申し訳ございません。主人はただいま会談の最中でして」
やっぱり駄目かと諦めかけた時、受付の奥から従業員の話し声が聞こえてきた。
「……ねえ、あれって大使のセリナ様じゃない? やっぱり例の件かしら」
「ちょっと、声が大きいわよ!」
オレたちは思わず顔を見合わせる。
(大使のセリナさん……? カレンポートの大使がここに?)
「あの、お客ってカレンポート大使のセリナさんですか?」
受付の女性は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに首を振った。
「申し訳ありません。お答えできません」と断られてしまった。
「やっぱり、急に来ても無理よね……」
マイルが肩を落とす。
そのとき、アヤナが一歩前に出て受付に名乗った。
「私はアヤナ・トキハラと申します。そして私たちは、クラン《アストラル・ナイツ》に所属しています。お役に立てるはずです」
「えっ……トキハラ? まさかトキハラ重工の……! それに、アストラル・ナイツ!?」
受付の女性は慌てて姿勢を正し、深く頭を下げた。
「しょ、少々お待ちください!」
そう言うなり、彼女は小走りで奥へ消えていく。
残されたオレたちは思わず顔を見合わせた。
「アヤナ……さすがお嬢様だな」
レオンが感心したように口笛を吹く。
「本当はあまり家の名前を使いたくなかったんだけど……」
アヤナは複雑な表情で視線を伏せた。
――数分後。
奥の扉が開き、先ほどの受付の女性が戻ってきた。
「アヤナ様、そして皆様。主人がお会いになるそうです。……ただし、お客様もご一緒ですが、よろしいでしょうか?」
「もちろんです」オレは即座に答える。
女性に導かれ、応接室へと進むとそこにいたのは――。
凛とした雰囲気をまとい、ブルーのドレスを着た女性。
カレンポート大使、セリナさんがソファーに座っていた。
そして彼女の隣には、マイセンさんが深刻な顔で座っている。
「二人ともお久しぶりね。――まさか、あなたたちが“アストラル・ナイツ”に所属しているなんて驚いたわ。それにトキハラ重工のご令嬢まで一緒なんて。……あら、あなたは、もしかしてヴァルガス家の関係者?」
セリナさんはオレたちを見回しそう話しかけてきた。
「ええ、レオン・ヴァルガスです」
レオンが名乗ると、セリナさんは意味ありげに目を細めた。
「やっぱりね、ヘクターに目元がそっくりだわ」
そう言って懐かしむように微笑む。
「さあ、そんな所に立っていないでこちらに座ってくだされ」
マイセンさんに勧められ、みんなでソファーに座る。
「それで、今日は何か話したいことがあるそうじゃが」
そう促され、ここに来た事情とこれまでに得た情報を二人に説明した。
それを、二人は黙って聞いていた。
そして説明を終えると、部屋に重苦しい沈黙が落ちた。
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